第16話「剣客にランクアップ」
神託所の御影石に手を置くと、文字が表示された。
『侍剣士から剣客にランクアップしますか? YES/NO』
「よし行けてたか! もちろんイエス、イエス、イエースッ!」
俺は『侍剣士』から『剣客』となり、新たな力を得た。
久美子の『中忍』と同格、能力もアップする。これでハイディングされて近づかれても注意すれば見破れるはず。
現状のランクを確認するのと、職業をランクアップするのは神託所でしかできないわけで、これをやるだけでも街に帰ってきた意味があったというものだ。
もちろんランクのバロメーターも確認しておく。
『真城ワタル(しんじょうわたる) 年齢:十六歳 職業:
各種のランクも、バランスよく育っている。ほぼ計画通りだ。
あそこまで必死に戦ってようやく
そんなにすぐレベルがカンストしても、それはそれでつまらない。
これで俺も一端の剣士として戦えるようになったのだから、これからだ。
むしろ、まだ強く成れるのかと思うとワクワクする。
まあそんな余裕も、久美子に負けてないと思えるから言えることなんだけどな。
他ならどうだっていいが、ジェノリアの世界だけでは俺は最強の剣士でありたい。
もし職業をランクアップ出来なかったら、ダッシュで迷宮に飛び込んであと一週間は帰らないところだ。
前にも言ったが、ゲームをクリアするだけなら得意分野を
たしかこの街には、百人以上の生徒がいたはずだ。
百人が、魔術師の
エンディングを迎えたときには十人も生き残っていないだろうが、それでもクリアはクリアだ。
誰も死なないようにまともにクリアをするという条件を付けたとしても、平均して
クリアするだけならば、最高ランクまで上げる必要はない。
しかし、クリアなど関係なく無駄なほどに強く、キャラを限界まで鍛えていくのがジェノリアの
「ワタシも確認しマスね」
俺に続いて、ウッサーが神託所の御影石に手を添える。
「あっ、ワタシも『武闘家』から『拳法家』ランクアップ、デス!」
すでに
御影石に表示されているウッサーのデータを覗いた。
『アリスディア 年齢:十五歳 職業:
かなり肉体方面に偏ってるウッサー。パーティーで組んで動くと、得意な仕事ばかりするのでこうなる。
魔法をほとんど使っていない脳筋であることが一目で分かる。
武闘家は前衛特化の中位職だが『拳法家』は、ランク的に言えば久美子の『中忍』や俺の『剣客』と同列。
極めれば使える職業、前衛職としては申し分ない戦闘経験を積んでいるらしい。
※※※
神託所でランクアップを終えたら、次はお店。
まず、武器屋と防具屋を回る。硬革鎧を買いたいということもあったが、瀬木たちにくれてやるのに要らない宝石を金貨に変えておきたかったからだ。
「ところでウッサー、お前そんな装備で大丈夫か。装備とか買ったほうが良くないか」
武闘家だから武器が要らないのは分かるが、防具がエプロンドレスなのはどうだ。
それで、六階まで行くとか無茶苦茶すぎるのではないか。そんなことだから全滅しかかったんじゃないかと言いたい。
金貨はたっぷりあるんだから、ウッサーに軽い装備を買ってやるぐらいの余裕がある。
確かに武闘家や忍者を極限まで鍛えまくり、素っ裸で最下層を歩きまわるという変態チックな遊びがあるにはあるのだが。
冒険を遊びでやっている俺はともかく、ウッサーはそんな場合ではないのじゃないかと思うのだ。
重量のある鎧や小手や
「旦那様、ワタシここの防具が入らないんデス。胸のサイズが……」
ウッサーは、恥ずかしそうに顔を赤らめて俯いた。
なるほど言われてみれば、ウッサーの体格は小柄な上にやたら胸が大きい。これでは防具どころか、武闘家の道着ですら身体にフィットしない。
オーダーメイドらしいエプロンドレスは、ウッサーの体型に合った数少ない装備なのか。彼女は、古いゲームにありがちな極端なディフォルメの被害者なのだ。
どうせリアルにするなら、もうちょっとキャラクターも考えてやれば良かったのに。
「それは、気が付かずに済まなかった」
「あっ、でもこのエプロンドレスは、ラビッタラビット族の戦士用装備デスよ。丈夫な魔法の布で出来てるので強いんデス」
近接戦闘用にわざわざエプロンドレスをあつらえるウサギ族のセンスはどうかと思うが、実用面での支障はないらしいので放っておくことにした。
「ねえ、ワタルくん。なんで鋼の鎧を着ているのに、硬革鎧を買おうとしてるの」
「この鎧は、重くて俺の戦闘スタイルに合わないから、瀬木にやろうと思ってるんだよ」
「それなら私の
「それはそうだが、久美子の装備はどうするんだ」
「私は、もう一つ
「うーん……」
久美子は勘が鋭いからな、俺が物欲しげな顔で久美子の装備を見ているのに、気が付かれてしまったのか。
しかし、俺には久美子に施しを受けるいわれがない。俺が躊躇していると、久美子が俺の肩に手を回して耳元で囁いた。
「遠慮しなくていいわよ、だって私の物はワタルくんの物でもあるでしょう」
「どういうことだ……」
「私がアイテムいっぱい持ってるのは、四階までワタルくんを追っかけてるときに、やたらいっぱい開けてない宝箱があったからだもの」
「なるほど、もともと俺が放置していった物と言うわけか。それなら、分け前としてもらっておくか」
俺は、素直に久美子が脱いだ
そんな俺の様子を見て、何故かウッサーは不満気な顔をして、久美子はクスクスと笑い出した。
「何が可笑しい」
「だって……いえ、私の肌の温かみを感じるかしら」
そりゃ、久美子のお古だもんな。
さっきまで身に着けていた
「いまさらだな、そんなの俺は気にならない」
「そうね、私達にとってはいまさらだもの」
「なんかこの女ムカつきマス。旦那様から、離れろ無乳!」
「あら、やるの駄肉ウサギ」
俺にまとわりつく久美子に、ウッサーが触れようとして弾かれていた。
敵対的意志を持ってアタックすると、街中ではこうなるのだ。
こいつらの騒ぎを仲裁しようとしても無駄だと、俺は早くも学習し始めている。
久美子と、ウッサーが争っている騒音を意識的に
俺も久美子と同じで、動きやすさを重視するタイプなので防具はこの程度の装備でいい。
「さてと、買い物も終わったし、久美子。瀬木のやつはどこにいるんだ」
「いつも通りなら、鍛冶屋で訓練していると思うわ」
うむ、俺の言う通り毎日鍛えてるんだな。
ダンジョンの奥で訓練するほどではないが、真面目にやってればかなり上達しているはず。久しぶりに会う友人の成長が楽しみだ。
戦士ランクが上がりすぎて、瀬木の身体がムキムキになってたらどうしよう。
それはちょっとやだな。
「旦那様、ちょっとこっち!」
「なんだ?」
そんなことを考えながら歩いてたら、突然ウッサーに腕を引っ張られた。
「人族は、お外で繁殖行為するんデスか?」
「えっ……」
ウッサーが見てたのは、公園だった。
ちょっとした広場に草木が生えているだけのエリアだが、人の目を和ませてくれる。
公園の中央に泉がある。ダンジョンの中と同じで、新鮮な水だけは無料で手に入るわけだ。
ライフラインを支える重要スポットとも言えるだろう。
そこが、異様にピンク色の雰囲気になっていて、違う意味でライフラインになっていた。
カップル、カップル、カップル……ベンチどころか、草むらの上にもシートを敷いて男女のカップルがイチャコラしまくっている。
抱き合ってキスしてるぐらいなら可愛いものだが。
お互いに服をはだけて激しく絡み合い、もしかしたら「入ってるんじゃないか?」という破廉恥な連中までいる。
背の高い雑草が生い茂っている
おいおい……。
「何だこりゃ、おい久美子」
「そこのチビウサギの言うとおりよ。みんなストレスが溜まってるということもあるし、命の危機があると、人間は繁殖したくなるんでしょうね。金貨が不足気味で、普通の生徒は宿屋を借りるお金がない人達も多いから」
乳繰り合うのに、わざわざ高い宿屋代を出せないから公園で繁殖行為と言うわけか。
この勢いだと十ヶ月後には、減る一方だった街の人口も増えちゃうかもしれない。
「ハァハァ、お外で繁殖なんてダメですよ……。ああっ、みんなが見てる前でなんてあられもない。あんな恥ずかしいのが、人族の繁殖のやり方なんデスね」
口では嫌がった素振りだが、ウッサーの潤んだ碧い瞳に、ピンク色のハートマークが浮かんでいる。わざとやってるのか無意識なのか知らないが、さっきから俺の腕を大きな胸にムギュッと押し付けてきている。
そういえば、ラビッタラビット族は増えすぎて世界が滅びそうになるほど、繁殖欲が
ウッサーには目の毒な光景なので、さっさと通り過ぎたいがひとつ気になる点があった。
無限の水源である公園の泉に『生徒会の許可無く使用を禁ずる』と書いた立て札が立てかけられている。
「久美子、生徒会ってのはなんだ」
「七海副会長が街に作った組織よ。反対してる人もいるけど、建前上は街にいる全員が参加していることになってるわね。みんなが使う公園や、冒険で得た金貨を管理してみんなに平等に行き渡るようにしている互助組織になってるわ」
七海修一が みんなが日本に戻れるその日まで
ちなみに、久美子も生徒会役員であるため、幹部クラスの待遇を受けているそうだ。
「ふうん、生徒会か」
聞いていると理念自体はとても正しいものに聞こえる。
さすがは品行方正な七海修一だと思える、だが……。
「ワタルくんは、胡散臭いと思ってるのね」
「俺の考えを読むなよ久美子」
誰でも使えるはずの公園を、わざわざ管理してるって辺りがどうも臭い。
俺が考え込んでいると、いつの間にかウッサーが俺の目の前に回っていた。
青いエプロンドレスのフリルのついたスカートをゆっくりとたくしあげながら。
ウッサーは、潤んだ瞳で俺につぶやく。
「旦那様、これが人族の繁殖の作法でしたら、ワタシも恥ずかしくて堪らないのですが、頑張ってみたいと思いマス」
「ウッサー、野外でやるのは特殊なプレイで、人族の作法じゃない」
「少しは慎ましくしなさいよ、エロウサギ!」
久美子がウッサーに吐き捨てるように言った。そりゃそうだけど、処女ビッチのおまえが言うな。
また久美子とウッサーが言い争いをしないうちに、瀬木がいる鍛冶屋へと急ぐことにした。
街中をよくよく見れば、人の目も気にせず絡みあうカップルだらけだった。
そして、硬派を気取っている俺ですら、右を見ればウサビッチ、左を見れば処女ビッチ。
ああっ、この世界にはビッチな女しかいないのか。
俺の心の潤いは、瀬木だけだ。
※※※
「よぉ、瀬木。少しは強くなったか」
「あっ、真城くん。久しぶり!」
鍛冶屋まで行くと、瀬木は鋼の壁に向かって
鍛冶屋の壁を相手に、地道に戦闘訓練を続けていたらしい。刃毀れしてボロボロになった刃が、瀬木の頑張りを物語っている。
俺の顔を見ると、瀬木は嬉しそうに手を振ってくれた。
俺は瀬木を労って、タオルを渡してやる。
「頑張ってるみたいだな」
「ふうっ、真城くんありがとう」
瀬木は、俺が渡したタオルで、嬉しそうに額の汗を
汗に濡れた青みがかった髪や肌から、得も言われぬ甘酸っぱい香りが立ち上る。
細くしなやかに鍛えられた瀬木の身体は、シャープな印象を増した。
でも、不思議と愛らしさも増している。
瀬木のほっそりとした肩、汗で肌に張り付いてしまったシャツは、ほのかに膨らんだ胸の先に桃色の突起をほんのりと透けさせてしまっている。
あまりの艶姿に、見ていると胸が苦しくなるのだが、このまま見ていても本当に良いものだろうか。
いや、男同士だから何の問題もないはずなのだが、クソッ……嘘みたいだけど、これで男の子なんだよなあ。こんな世の中、絶対間違ってるよ。
そりゃ、神だって死ぬし世界も滅びるだろうさ。
生まれを呪うというのはこういうことを言うのだろうか、仕方ないことを嘆いていてもしょうがないが。
俺は金貨の袋と一緒に、着ていた鋼の鎧一式を瀬木に手渡す。
「いつもありがとう、こんな立派な鎧まで……真城くんの装備はいいの?」
「俺は久美子から
「指輪……僕に?」
装備と一緒に、赤い宝玉のついた指輪を何気なく差し出したつもりが、瀬木に少し当惑を与えてしまった様子で。
なんだか妙な間が空いてしまう……えっ、なんでこんな空気。指輪といっても、なんか深い意味はないぞ。
「いやそうじゃなくて、これはマジックアイテムなんだよ。『警告の指輪』と言って、危険が近づくと震える便利な
「うん、そうなんだ……ありがとう!」
慌てて説明する俺を見て、瀬木はおかしな空気を誤魔化すように笑って、お礼を言いながら両手で俺の差し出す指輪を受け取った。
一瞬、触れた手がなんだか気恥ずかしかった。
「ねえ、なに男同士でいい雰囲気になってるのよ」
「なってねえよ!」
全然なってねえし、久美子の言うこと、わけわかんねえ!
ジト目になった久美子は、俺に向かって手を差し出してくる。
「なんのつもりだ」
「私にもあるんでしょう指輪、ちょうだいよ」
あってもあげたくない。
……とは言えないか、さっき
「あっ、妻であるワタシにもください!」
「ウッサーもか、ちょっと待ってろ」
俺はリュックサックを漁って、久美子には守りのペンダント、ウッサーには身かわしの護符を手渡した。
瀬木のついでではあるが、こいつらの分の
「指輪じゃないのね……」
「指輪じゃないデス……」
贅沢言うなよ、お前ら。
瀬木のついでに、お前らにもプレゼントがあるだけマシだと思え。
「アハハッ、なんだか真城くんらしいよね」
「俺らしさとか、よく分からないけどな」
何がおかしかったのか、瀬木は憮然とする久美子とウッサーの顔を眺めて、ひとしきりクスクスと笑った。
俺がウサギを嫁にもらったという話を聞いても、瀬木は全く動じないのでさすがだなと思う。
そして、俺からもらったプレゼントはどっちが格が上かで争っているウッサーと久美子に呆れた様子で。
俺に助け舟を出すつもりなのか、瀬木は話を切り替えた。
「そうだ、真城くんが帰ってきたら聞こうと思ってたんだ。ここってやっぱり地球じゃないんだよね」
「それはそうだと思うが、月がどうかしたのか?」
瀬木は、蒼天におぼろげに浮かぶ大きな満月を目を眇めて振り仰ぎながら、溜息混じりにつぶやく。
ゲームの世界だから地球じゃないのは当たり前だとは思うが。
「だって昼間なのに満月だよ、物理的にありえないでしょう」
「えっ?」
瀬木が言ってる意味がよく分からない。
「えっと……ほら、月って太陽の反射で光ってるんだよね」
「あっ、そうか!」
そう指摘されてようやく気がついた。高校生どころか、中学生レベルの理科だ。
月は太陽の光を反射して光る。満月が出ているとき、太陽は月と反対側に位置していないとおかしいのだ。
太陽が出ている昼間に、同時に『満月が顔を出す』ことなんてあり得ない。
ジェノリアの月は、俺達が知っている月でも、太陽の光を反射して光る衛星でもないということだ。
「良かった、真城くんが分かってくれて。月がおかしいって話をしても、みんな早くクリアしたいとか、家に帰りたいとかしか言わなくて、この世界がどうなってるかって仕組みに興味を持ってくれなかったんだ」
「みんな、そんなことまで考えている余裕がないんだろう」
瀬木は、数学部なんかに入っているせいか、俺とは別の意味でF組で浮いていた。
悪いことではないのだが、ちょっと浮世離れしたところがあるんだよな。そりゃみんな必死になってるところで月の話なんかしても相手にされないだろう。
「現状を打開するためには、まずここがどこなのかってことから確認しなくちゃいけないと思うよ。ゲームの世界だってみんな言ってるけど、そこで思考停止しちゃうのはどうなのかな。例えば、あの衛星は自力で光ってるんだよね」
瀬木が指差す月は、十日前も変わらぬ位置で満ちていた。
あの月は、ずっとあの位置に存在して自力で光っていることになる。それって、本当にただの衛星なのかということ。
「自力で光る月か、このゲームの設定だと、月から風にのってマナが来てるって話なんだけど」
「だから、そもそもゲームの世界ってなんなの? 僕はそれが素直に納得出来ないんだよ。僕達は教室で授業を受けていただけで、ゲームの世界に入るようなことを何もしていないよ」
「それは、トリガーになるような出来事がないってことか?」
そう言うと、瀬木は強く頷いた。
なるほど、言わんとすることが分かってきた。瀬木は、物事の因果の話をしているのだ。
俺やあのモジャ頭のようなゲーマーが、酷似しているというだけでゲームの世界だと断定しているのが瀬木には納得できない。
もしゲームの世界に入ったのなら、何かその原因があったはず。それが見当たらない時点で、「ゲームの世界」説は完全ではない。
「この街は便利だよね、望遠鏡まで売っていた。それで、僕は天体観測もしてみたんだけど、僕達のよく知っている星座も近似したものもあったよ。もちろん天体の位置が地球とはかなりズレているから、ここが地球のどこかじゃないかって可能性は消去できたけど。ここが同じ宇宙にある地球とは違う惑星なのかもしれない。あるいは、天体の位置が似てるパラレルワールド的な世界だって可能性もあるけど」
瀬木は堰を切ったように話し続けると、息を切らせて少し疲れたように深く溜息を吐いた。
そんな話を、俺以外の人間にしてもまったく聞いてもらえなかったのだと言う。
みんな生きるのに必死で、足元しか見ていないんだよな。
俺だって瀬木と同じように空を見上げていても、満月がおかしいことにまったく気がつかなかった。
いや、こんなこと瀬木ぐらいしか気がつかないだろう。
こんな異常事態のさなかに、満月が出ているおかしさに気がついたり、天体の位置を計測しようなんて考える物好きはコイツぐらいだ。
瀬木は、振り子の実験道具なども出してきて重力加速度が、地球とは違う数字が出たと嬉しそうに語る。
俺が瀬木のことを好きなのは、こうやって俺が考えも付かないようなことを教えてくれて、まったく違う光景を見せてくれるからだ。
現状を打開するためにも、「思考を止めるな」か……その通りだよな。
ゲーム世界だから不思議な事を全て当たり前のように受け取っているが、よくよく考えるとゲーム世界ってなんだ。
西暦1989年に発売されたジェノサイド・リアリティーというゲームに、ここのダンジョンが酷似していたことは事実。
だが、だから俺達がゲームの中に入ったと考えるのは早計だ。
俺は、俺の隣で微笑んでるウサ耳娘をジッと眺める。
よくよく観察していると、細い指を組んでモジモジしはじめる。ピコッピコ、ウサ耳が伸びたり縮んだりしている。
「なんデスか、そんなに熱く見つめて……。旦那様が、見つめてくださるのは嬉しいデスけど、二人っきりの時じゃないとワタシも少し恥ずかしいデス」
これがNPC(ノンプレイヤーキャラクター)か。
俺には、ウッサーが人間に見える。いや、ウサ耳が生えてる人間はいないだろうけど、本当の自分の意志で動いている知的生命体だ。
ウッサーを人間の振りをしているだけの
まさに『哲学的ゾンビ』の命題で、考えだすと切りがないが俺の直感は、ウッサーを俺達と同じように生きている人間だと思った。
「こんなところにいたのか、真城ワタルくん!」
俺達が、この世界とは何なのかという議論をしているところに、七海修一たちのグループが追ってきた。
ダンジョンでの小競り合いのあとで、慌てて俺達を探したのだと言う。
やれやれ、厄介な連中に見つかってしまったな。
瀬木と話しているのは楽しいが、七海のグループとはあまり話したくなかったんだが。
「真城ワタルくん。頼む、ぜひ話を聞かせて欲しい!」
「一体、何を聞くって言うんだ」
攻略情報か。
上層階のレアは取り尽くしたし、まあそこまでなら教えてやってもいいけど。
「いや、僕らが話を聞かせて欲しいのは、むしろそっちの娘だ」
七海修一が指さしたのは、ウッサーの方だった。
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