第32話 刑の執行まで大人しくはしてないようでして。
~ネルファーside~
冷たい床、冷たい独房……トイレがあるだけでも救いだと笑われる日々を、何週間過ごしただろうか。
いや……多分二か月くらいだろうか?
その間に、俺の自尊心はズタズタにされる事になった。
この現実が夢ならどれだけ良いだろうかと、唇を噛みしめては血を流す日々が続いたのだ。
外から差し込む光もなく、時間間隔も麻痺し、充満する体に悪い臭いにはもう慣れた。
だが、一人の兵士がやってくると、俺は無理やり立たされ、そのまま何故か風呂場へと連れていかれ、冷水で体を洗われ、綺麗な囚人服に着替えさせられると、腕に縄を掛けられた状態で城の中を歩いていく……。
廊下ですれ違う、元同僚は、俺を見てクスクスと笑い。
廊下ですれ違う、俺に声を掛けてきていた女たちは、軽蔑の瞳で俺を睨みつける。
クソッ 俺をそんな目で見るな。俺を嘲笑った奴らを後悔させてやる。
自尊心を傷つけた兵士だって許さない、俺は歴史ある家の長男だ!!
ブツブツ呟いていると兵士から腕を殴られたが、喚き叫びたい気持ちを抑え、もう癖になった唇を噛むと、じんわりと血の味がして、少しだけストレスが減ったような気がした。
「これからジュリアス国王陛下、及び、リコネル王妃の前にて裁判を行う。せめて礼儀くらいは出来るだろうな?」
そう言って俺を睨みつける兵士に無言を貫くと、重厚な扉が開き、俺は兵士に連れられ、初めてジュリアス国王陛下と向き合った。
隣にはリコネル……チャーリーの元婚約者の女が立っている。
そして――リコネルの隣に立っている女を見て息を呑んだ。
「これより裁判を行う。とは言っても、ネルファー。君のしてきた悪事は既に証拠も揃い逃げる事も、弁解することも無理でしょう……せめて、苦しめた女性たちに対して、謝罪の言葉くらいは無いでしょうか」
威厳ある口調、傍から見れば、俺を思いやる最後の言葉だっただろう。
だが、リコネルの隣にいる女を睨みつけ、俺は両手が繋がれた状態であっても、その女を指さしたのだ。
「その前に、お言葉をお許し頂きたい」
「なんでしょう」
「何故、リコネル王妃様の隣に、平民のラシュアがいるのです」
そう、そこには綺麗な服に身を包んだ元妻が立っていたのだ。
俺を軽蔑する瞳を向けて……。
「この場に呼んだのは行けませんでしたか?」
「いえ、ただ、何故平民風情がそこに立っているのかと思いまして」
「そう言う貴方は罪人じゃないですか」
凛とした声で元妻は俺にそう言い放った。
あの顔、あの口調……忘れることが出来ない。俺を見透かした態度に、頭に血がのぼるのを感じた。
「平民だからと言って何です? 国王陛下に呼ばれて行かない民は居ないでしょう」
「……だが」
「それに、平民風情と言いますけど、貴方は罪を犯した罪人じゃないですか。その罪人が私に対してアレコレ言える立場ではないと思いますけど?」
――馬鹿じゃないの?
そう聞こえるような言葉に、俺は拳を握りしめた。
あの女に、元妻が俺に対して反論するなんて、絶対にあってはならない事だ。
やはり早急に躾が必要だったのだ。悔やんでも悔やみきれない気持ちが溢れてくる。
さっさと今の夫を殺して、俺の元で再教育しておけば良かったと後悔してもしきれない。
「……何時から俺に対して偉そうな口をきけるようになった」
「は?」
「何時から!! 俺に対して!! そんな言葉を吐けるようになったのかと聞いてんだ!!」
「私、貴方との面識はストーカーされていた時に一度会ったくらいしかありませんけど?」
「嘘をつくな! 前世でもそうだ!! お前は俺の妻で! 俺の妻だったのに俺に興味を全く示さなかったクソ女だ!! ハッ そんなんだから俺が愛人の許に行っていたのが解らないのか? 俺に少しでも興味を示して、ヘコヘコ頭を下げて、何をするにも俺の許可を取りながら、俺の顔色をうかがいながら生活するのがお似合いのお前が!!! 一体何様だっていうんだ!!」
肩で息をし、唾や涎をそのままに元妻を睨みつけると、元妻は軽蔑した表情で一言呟いた。
「最低なクズね、死ねばいいのに」
「――!!」
「そんな貴方は、頭がハゲ散らかした事で愛人から捨てられたんでしょう? そのしわ寄せが来たこと自体、凄い迷惑。愛人と墓に入ってくれれば良かったのに、出戻り? 恥ずかしくて見ることも出来ないわ」
俺の中で何かがブチリと切れる音が聞こえた。
雄たけびを上げラシュアの元へ駆け寄ろうとしたが、屈強な兵士に取り押さえられジタバタ藻掻くことしかできない。
「クソ!! クソ!! 尊敬すべき夫になんていう口の利き方だ!! 教育してやる!! ボロボロになるまで蹴り飛ばして、髪を掴んで地面に何度も頭をぶつけさせて! 俺に謝罪の言葉を泣き叫びながら言い続けるまで何度でも!!」
「そんなんだから、魅力も何もありませんのよ」
呆れたように聞こえた声はリコネルの声。
扇で口元を隠し、軽蔑した表情で俺を見つめてくる……。
「これでは反省も謝罪もあったもんじゃないですわ。流石チャーリーのご友人ですわね」
「本当に。火炙りの刑が妥当でしょうか」
「その前にやりたいことがございますわ」
「何でしょう?」
リコネルはニッコリと微笑むと、兵士から短刀を受け取ると俺の元へと歩み寄ってくる。
「散々女性を食物にしてきたようですもの。下半身の要らないものを切り落としてしまってからでも遅くはありませんわ」
「!?」
「激痛の中数日そのまま処置を最低限だけして、縄で括りつけておきましょう。それから火炙りにしても罰は当たりませんわ」
冷えた言葉――冷えた表情で俺の股間すれすれに短刀を突き刺すリコネルは、笑顔で「そうでしょう?」と問いかけてきた。
「貴方のしてきた罪に関しては、それくらいの罰が必要ですの。のうのうと火炙りになって死ねるとは思わない事ですわね」
「あ……ぁああ!!」
「これ以上の見苦しい会話は必要ありませんわ。ですわよね? ジュリアス国王陛下」
「そうですね、リコネルの言う通りです。女性をそこまで卑下して見ている男性がいることが情けない限りですが、その罰が妥当でしょう」
「ま……待ってください! 俺は何も悪くない!」
「そう言っている間は、貴方に救いなどありませんわ」
こうして、兵士たちに連れていかれるように俺はまた牢屋に投げ込まれた。
――死刑が決まったのだ。
それも、男として大事なものを全て失ってからの死刑が。
地獄を見る? 地獄なんてものじゃない!!
こんなところで死んでたまるか!!
何としても元妻を殴り殺さないと、気が済まない!!!
唇をきつく噛みしめ、とめどなく流れる血をそのままに、その日から俺は刑が行われるまでの日まで、門番が気が緩んでるすきを見つけ、飯を持ってきた隙に鍵をコッソリ手に入れると、夜中のうちに牢屋を飛び出した。
ラシュアを、元妻を殺すまでは絶対に死なない。
死ぬならあいつを殺してからだ!!
幸い、元妻がいる寄宿舎の場所は知っていたし、そこまで走っていたその時だった。
人気のない道を進んでいたのに――俺の目に飛び込んできたのは、元妻の今の夫、アシュレイだったのだ。
=====
アクセス頂き有難うございます。
もうすぐ、バサ妻は終わります。
唐突ですね!
ですが、トータルで言う所の【閑話】的に書いたものなのでご了承ください。
次回作が本番かも知れない(笑)
さて、男尊女卑は好きじゃない言葉ですが、田舎では当たり前のようにあります。
例にもれず、田舎育ちの私の実家もそういう所でした(;´Д`)
まぁ、だからと言って、負けませんでしたが。
そんな人と結婚すると、さて、どうなるか。
と言う点を書いてみました。
まぁ、想定内ですね。
次回久しぶりにアシュレイが出てきてくれます!!
果たしてどうなってしまうのか、是非お楽しみに!!
そして、ハートでの応援など有難うございます!
日々、時間を見つけて執筆している状態ですが、息子の風邪具合次第では
今後はペースがあがりそうです。
応援よろしくお願いします(`・ω・´)ゞ
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