第31話 逃げ場は塞がれたようでして。

 ~ネルファーside~



 父が亡くなり、葬儀も終わったころ、ガルディアン家には多額の借金があることが判明した。

 それらの金は、父が家を建て直すために奮闘し、失敗した際に出来た負債であることも分かった。

 柔軟な頭を持っていない老害が、手当たり次第に手を出して失敗したツケが、次代の俺の元へ残された。



「――ふざけるな!!」



 どう足掻いても返して行けるだけの金額ではない。

 家の物を殆ど売り出しても足りない、それこそ屋敷そのものを売ったとしても足が出るほどの借金だった。

 こうなると、やはり美味しい商売……女を闇社会で売り捌く方が稼げるものを、それすら国の方から禁止されてしまった。

 これ以上、妻を持つことは出来ない。

 では、今居る二人の妻はどうするべきか。


 答えは簡単だ。

 妻を売り出せばいい。


 多額の借金の事を話し、弱い男を演じれば幾らでも他の男に股を開くだろう。

 それでも稼ぎは限られているのは明らかだが、それこそ、借金の為に夜の店に売り出すのも手だろう。

 そんな事を考えながら多額の借金を、どう返していくか悩んでいた時、ノックの音が聞こえ、入ってきたのは第二の妻だった。

 青い顔をして狼狽えた様子で声が出ない妻に眉を寄せると、その妻を押しのけるように部屋に入ってきたのは――。



「ネルファー・ガルディアン……いや、イマイズミで相違ないか?」

「ああ……一体どちら様です?」

「冒険者ギルドで副ギルド長をしている、マリウスだ。君の冒険者プレートの確認の為に、冒険者ギルドまで来て頂きたい」

「冒険者プレートの確認?」



 価値のないプレートの確認が必要とはどういうことだ?

 不思議に思いながらも、銅色から赤く染まった冒険者プレートを見ると、首を傾げた。

 だが、その仕草を見たマリウスは厳しい表情を浮かべると、俺の腕を掴み、引きずるように馬車に俺を投げ入れると、逃げ場を塞ぐようにドアの隣に座り、俺が何を問いかけようとも無言のまま馬車は冒険者ギルドの前まで走った。

 しかも、到着するや否や、腕を捻り上げ冒険者ギルドの奥にある鉄格子の部屋へと連れていかれた。

 部屋の中には冒険者ギルド長と、国の騎士団が立っていて、ただ事ではない事を知ると、俺は抵抗を止めて静かに息を吐くと真っ直ぐに立った。



「イマイズミ、君の冒険者プレートの色は銅だったな」

「ええ、その筈でした」

「筈でした?」

「はい、先ほど確認した時、何故かプレートの色が赤く染まっていました。これには何か意味があるのでしょうか」



 真っ直ぐ胸を張ってそう告げると、マリウスから射抜かれるような視線を、そしてギルド長と騎士団からも、軽蔑するような視線を感じた。

 すると、ギルド長はマリウスに何かを合図すると、俺に冒険者プレートの説明が書かれた書類を手渡してきた。

 これは既に一度目を通したことがある内容だ。

 今更何を確認しろと言うのかと思ったが、マリウスが指さした場所を読んで目を見開いた。



『――罪人になった場合、冒険者プレートは赤色に染まる。』



 その一文に、書類を持っていた手が若干震えた。

 罪人?

 一体俺が何の罪を犯したと――。



「冒険者プレートが赤く染まった理由を、伺っても?」

「ぁ……し……知らないんです! 罪人ってどういう事ですか!」

「どうしても、しらを切るか……」

「そもそも、俺は人殺しなんて」

「おいおい、俺たちは一言も人殺しなんて言ってないぞ?」

「――!!」



 嵌められた!!

 そう思ったが、既に遅い。

 騎士団が前に出ると、一枚の絵を俺に見せてきた。

 それは、先日火をつけた家の主の似顔絵だったのだ。



「そのご老人が何か……」

「このご老人はな、我が国の諜報部の人間だ。安心したまえ、君の顔、名前をシッカリと記憶し、多少の怪我を負ったものの、今はピンピンしておられるよ」

「――!?」

「意外かね? では、ゴブリンの巣に自分のハーレムにいた女性を送り込んだことはどうかね? クリストファー男爵にハーレムの中から女性を売り飛ばしていたことはどうかね? 直接殺害はしてはいない、が、これも立派な犯罪の一つだと言う事が、君には解らんかね?」

「一体……何を言っていらっしゃるのやら」

「本当に、解らないのかね?」



 ズン……ッ と感じる威圧。

 汗が滝のように流れ落ち、拳を握りしめ歯を食いしばる。

 震えそうになるのを何とか堪えていると、ギルド長は溜息を吐き、威圧を解いた。



「非常に残念だよ。君が……栗崎さんを殺したこともな」



 思わぬ言葉に顔を上げると、汗が床にポタポタ流れ落ちた。

 今、ギルド長は何て言った?

 栗崎と言ったのか!?



「プレートが赤いのは間違いない事実。これだけの証拠がありながら、今まで通りの生活が出来ると思わない事だ。まぁ、君にとっては死んだ方がマシな程の辛い現実がこの先待っているだろうが、健闘を祈るよ」

「ま……待ってください! ギルド長、何故栗崎の事を」

「君はこれから、地獄を見るだろう」



 真っ直ぐ俺を射抜く瞳で、ハッキリとこれから地獄を見ると言ったギルド長に、それ以上の言葉が出ず、そのまま城の牢屋にぶち込まれた。

 栗崎の能天気な声と同時に、言われた言葉を思い出す。



『一つ目のペナルティは、ハーレムを作る事の禁止。二つ目のペナルティは、不自由しない生活が送れなくなります。そしてもう一つのお願いが、良い家柄で生まれる事でしたか。貴方はそれらを全て今後失うことになりました~! おめでとうございまーす!!』


『ですからー! ぜ~~~~んぶ、消えたに決まってるでしょう? 私、前来た時に言いましたよね? これ以上元奥さんに執着したら、更にペナルティかかりますよって! なのに、折角忠告してあげたのに言うことも聞かないからです! ちゃんと説明しましたし、忠告もしました! それらを自分の都合で捻じ曲げたのはそちらです!』




 女に馬鹿にされること程、ムカつくことはない。

 女っていうのは、男がいないと生活が出来ない奴ばかりだ。

 男がいて、やっと生きていける弱い生き物が女だ。

 そんなのが、俺を小馬鹿にする等、殺されても仕方ない愚かな行為だ。


 それなのに。

 それなのに。


『非常に残念だよ。君が……栗崎さんを殺したこともな』

『君はこれから、地獄を見るだろう』



 何故、ギルド長は栗崎の事を知っていたんだ?

 いや、そもそも、何故俺が栗崎を殺したことを知っていた?

 間違いなく、あの女の死体は消えた筈だし、何処を探しても遺体は見つからなかった。

 だから書類が消える原理で、栗崎の死体も消えた筈だ。

 なのに、何故……。



「ハハッ 女に馬鹿にされる事が一番ムカつくのに、これから先の地獄って何だよ」



 溜息を吐いて、冷たい床に敷かれた草臥れたゴザに寝転がると、その日から、寒さによって中々眠ることが出来ない日々を送ることになった。





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アクセス頂き有難うございます。


キーポイントっぽい栗崎さん。

今後どうなっていくのかはお楽しみに!

ネルファーも中々のクズっぷりですが

『妻は悪役令嬢(?)で押しかけ女房です!』で登場した

チャーリーの友人だから、まぁそうなるよな……と言う感じにしてます。

アシュレイ達が出てくるのはもう少しお待ちください('◇')ゞ


バサ妻は、そこそこ短めで終わる予定なのですが

もう少しお付き合い願えたら幸いです(`・ω・´)ゞ


そして、何時も♡など有難うございます!

励みになっております!/)`;ω;´)

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