第30話 モラハラは許せないですよ。(観覧注意)

 ~ネルファーside~



「何? 姉が死んだ?」



 早朝、早馬がやってきて何を伝えるかと思えば、嫁ぎ先で姉が死んだと言う話だった。

 季節は真冬、凍える寒さの中、父に呼び出されて聞いた言葉に、俺は何とも思わず「あー、死んだのか」くらいの気持ちしかなかった。


 姉、エリファーは、見た目は確かに美しい女性ではあった。

 だが、性格に難があり、中々結婚に行きつくことも出来ず、婚約者は数人変わった。

 それでも性格の悪さから結婚に行きつくことが出来ず、結果、家の為だと言って、王都でも変態だと有名な家に嫁がせたらしい。


 変態伯爵として有名な、ヴリュンデ伯爵は、妻を裸で、尚且つ首輪をつけて四足歩行で屋敷を歩かせるような男だと聞いている。

 今思い出しても気持ちの悪い、ブクブクに肥え、醜い顔の爺だ。

 ヴリュンデ伯爵は、姉を品定めすると、ブヒブヒ言いながら気前よく大金を払い、泣き叫ぶ姉の髪を掴んで馬車に押し込み去っていったのは懐かしい記憶のようにも感じる。


 その姉が死んだ。

 理由は、寒さによる凍死だと言う。



「この寒さの中、裸に首輪だけ付けた状態で庭先に繋がれていたらしい……あまりの寒さに気が狂ったように暴れたのだろう……悲惨な死にざまだったそうだ……」

「へー」

「なんだその返事は……我が家の為に売られていった姉の死を悼む事すらお前は出来ないのか!!」



 泣き叫ぶ父に、どうでもいいとばかりに溜息を吐くと、父は声を押し殺すことも出来ず泣き始めた。

 何度も既に売りに出して、売られた先で死んだ姉の名を呼び続ける無能。

 まぁ、あの阿保な姉でも、我が家の為に金になってくれたのだから、多少なりと思う事はあるが、だがそれだけだ。

 人の死など、呆気ないもの。

 この前の老人もそうだ、人の死とは、儚く消える泡のような物。

 そんなものに一々、一喜一憂していられるほど馬鹿ではない。



「それで? 話はそれだけですか?」

「それだけとはなんだ!!」

「いえ、寒いのでもうひと眠りしてこようかと」



 苦笑いを浮かべる俺を、まるで化け物のように見つめる父。

 そうだとも。

 前世では妻ですら不本意ながら事故死させてしまった俺だ。

 一々誰かの死を悼む心など、最早持っていないのだ。



「あぁ、でも今後の仕送りがなくなるのは困りますね。結構なお金を毎月送ってくれていましたし、もう少し長生きして欲しかったものです」

「ネルファー!!」

「我が家も生活が苦しいじゃないですか、姉のお金がどれほど我が家を支えていたやら。私も姉の所為で今後働かなくてはならなくなりましたし、全く、惜しい金ずるをなくしたものですね」



 その瞬間、目の前に星が舞った。

 一体何が起きたのかと思い頬を触ると、鼻からは血が流れ、歯が数本折れたり抜けたりしていた。

 ここ最近、足が悪かった父が持っていたステッキで、思いきり顔を叩かれたようだ。

 いや、剣で斬るようにヤラレタと言って過言ではない。

 呆然とする俺に対し、父は血走った目で俺を見つめたまま吐き捨てるように――。



「死ぬのなら、お前が死ねばよかったのに!!」



 そう叫んで胸を抑えたまま倒れこんだ。

 苦しそうにうめき声をあげていたが、そのうち何も言わなくなり静かになった。

 体は呼吸をしている様子はない。

 ゆっくり歩み寄って父をのぞき込むと、既に事切れていた。



「――……」

「あーあ、だから言ったじゃないですかぁ~! ペナルティが発生しますよーって!!」



 不意に背後から聞こえた声に振り替えると、そこには栗崎と名乗っていた女が立っていた。

 栗崎はトコトコと走ってくると、何かの書類を取り出し書き込んでいく。



「貴方の人道的ではない言動は目に余ります! だから上に報告させていただきますね!」

「なんだと!」

「元妻に対する執着を止めて、この世界で一般的な思考を持ち、ネルファーとして生活していれば、こんな結果にはならなかったかも知れないんですけど~。今となってはもう手遅れですよね~」



 そう言って書き終わった書類に判子を押すと、その書類は光に包まれて消えていった。

 一体何を書いたのか奪おうとしたが、消えてしまっては最早どうすることも出来ない。



「一つ目のペナルティは、ハーレムを作る事の禁止。二つ目のペナルティは、不自由しない生活が送れなくなります。そしてもう一つのお願いが、良い家柄で生まれる事でしたか。貴方はそれらを全て今後失うことになりました~! おめでとうございまーす!!」



 パチパチパチと拍手する栗崎に目を見開くと、意外そうな表情で「あれ? 貴方が望んだことじゃないんですか?」なんて、とぼけやがる。

 俺の願いが全部ペナルティで消えたって言うのか!?

 冗談じゃない!!



「一体何を言ってるのか解っているのか!? 俺の転生する時に出した願いが全て消されたって言ってるのと同じことだぞ!」

「ですからー! ぜ~~~~んぶ、消えたに決まってるでしょう? 私、前来た時に言いましたよね? これ以上元奥さんに執着したら、更にペナルティかかりますよって! なのに、折角忠告してあげたのに言うことも聞かないからです! ちゃんと説明しましたし、忠告もしました! それらを自分の都合で捻じ曲げたのはそちらです!」

「このっ」

「あ、私わかっちゃいました! 元奥さんが今、と―――っても幸せそうなのが気に入らないんですね! そういう支配欲っていうか~? そう言う人って、モラルハラスメントっていうんですよね! うわー、最低ですね! 人間のクズですね! 死んでしまった方が楽になりますよ。いいえ、貴方が死んだ方が世間の為ですね! だって貴方のモラハラは人を不幸にしかしませんもの。人を不幸にするモラハラ男って、死ぬべきです、死んだ方が世の為人の為って奴です!」



 あどけない笑顔でズケズケと言い放つ栗崎の首を掴むと、彼女はにこやかな笑顔をそのままに、怯えるわけでも、恐怖するわけでもなく、ニヤニヤした表情を変えず俺を見つめてくる。



「あれれー? もしかして私に暴力振るいます~? あ、殺しちゃおうって奴ですか?」

「ああそうだ、お前が死ねば事実確認がしようがないからな!」

「残念ですねぇ……そうやって暴力までして女性を自分の意のままにしたかったですか? そりゃー捨てられますし、捨てられて当たり前ですし、他の素敵な男性に目が行くのは当たり前ですよ~。だって貴方に魅力なんて、ありませんもん!」



 笑顔で言ってのけたその言葉にカッとなった俺は、思いきり栗崎の首の骨をへし曲げた。

 骨のきしむ音……首がダラリと支えを失い、そのまま後ろに突き飛ばすと、栗崎はドサリと音を立てて転がった。

 ――ああ、息が上がっている。

 俺らしくもない、ついカッとなって殺してしまったじゃないか。

 いや、まぁ良いか……栗崎の死体はそのうち消えるんだろう、問題はこの事切れた爺の方だ。



「直ぐに医者を呼んで……死因は多分心臓発作だろう。姉が死んだことによるショックとでもいえば問題はない」



 出来るだけ父親であった男に触らないようにその場を後にすると、俺は直ぐに馬に乗って近くの医者へと向かった。

 慌てた様子で医者に飛びつく真似をして、父が大変だと騒ぎ立てると、医者も慌てて我が屋にやってくる。



 父の倒れている部屋を開ける前にチラッと中を確認したが、栗崎の姿はどこにもなかった。

 きっと死体も綺麗に消えたんだろう。

 少しだけホッと安堵して父の死亡を確認すると、俺は泣き崩れる真似をして、葬儀の準備に取り掛かった。



 だが、本当に破滅へのカウントダウンが始まっていることに、この時の俺は、まだ気が付きもしなかったのだ。

 だってまさか……だって、そんな話、聞いていない。



 父が多額の借金を抱えているなんて、誰が想像できただろうか――。





=====

久しぶりの投稿でした。

本日は2話更新、楽しんで頂けたら幸いです!


女性を敬えとか、そういうことを言うつもりは一切ありませんが

モラハラは男女ともに滅したらいいんじゃないかな?

なんてちょっと思いながら書かせてもらいました。


支配欲があるのは仕方ないことなんでしょうけどね。

金銭的DVとか、精神的DVとか、世の中色んなのがあるなーと最近良く思います。

色んな夫婦のカタチがあるだろうけれど

個人的に、やっぱりDVやモラハラはアウトですね。

ってことを詰め込んでみました。



台風がきたり、子供が風邪具合が悪かったりと、リアルがばたついていて

中々執筆が出来ませんでした。

リアル、大事。

台風の方は被害は多少あったものの、無事に過ごしております。

皆様の地域はどうでしょうか?


個人的な話ですが、熊本のペット同伴の避難所開設は、神対応だと思います。

全国に広がると良いですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る