第29話 家庭の事情と言うのもありまして。
~副隊長side~
身体強化したまま駆け込んだ先――そこは、城にある諜報部だった。
勢い良く扉を開き、ズカズカと入ってきた私を見るなり、数人の諜報部が私を取り押さえんと突っ込んできたが、軟弱者の諜報部等、魔物相手にしている私にしてみれば赤子のようなものだ!!
奥にある扉を蹴り開けると、中にいる若干若めの哀愁漂う男性が私を見て困惑の表情を浮かべた。
「ミランダ副隊長殿、一体如何為さった」
「如何為さったもあるまい! 今日市民でもあり、諜報部の老人が襲われたことは、そちらにも入ってきているだろう!」
ドン!! と、机を叩き男性を見つめると、男性――諜報部のトップである、ミハエル・ジョルノアは頭を抱えて溜息を吐いた。
「落ち着きたまえミランダ殿」
「敢えて言おう、良く落ち着いていられるな、お父様」
私の言葉にミハエルは眉を寄せ溜息を吐いた。
ミハエル・ジョルノアは、諜報部トップを常にキープしている家柄であり、先代の糞爺の第三妻として母を召し抱えたものの、その実は、母とミハエルが恋仲となり、私が誕生した。
無論、私で言う所の祖父になる糞爺は、母と父が恋仲であり、子供までこさえてしまったのだから面子は丸つぶれ。
故に、妊娠中の母と離縁した。
その後、父であるミハエルは母を想い続け、母亡き今も独身を貫いた。
ジョルノア家の跡継ぎは私以外居ない訳だが、公に出来ない問題の為、時期を見て私を娘としてジョルノア家に引き入れるつもりらしい。
――と言う事までは、ダリルから搾り取った情報。
持つべき友は諜報部だな。
「義父である祖父が怪我を負ってもなお、放置するとはな」
「そう刺々しく言わないでくれ……既に冒険者ギルドに公式な情報を得る為に部下を派遣している。時期こちらに情報は届くだろう」
そこまで聞いてもムスッとした表情を浮かべている私に対し、父は溜息を吐くと立ち上がり、私に書類を数枚手渡してきた。
どうやら今回のイマイズミに関する情報の様で、読み進めていくうちに私は眉を寄せた。
「……なるほど、前にゴブリンの巣で見かけた女性たちはコイツの」
「ああ、余罪は沢山ある。そちらも含めてネルファー・ガルディアンをジュリアス陛下の前に連れていき、クリスタル様に裁きを行ってもらう予定だ」
「ふむ……」
「ガルディアン家がネルファーをどうするのかは、今後決まっていくことだろう。だから少しだけでいい、ミランダは大人しくしていて欲しいんだ」
「むう……」
書類を読み進めながら眉を寄せていると、父は頭を下げて「頼む」とお願いしてきた。
私とて、結婚してからは、そこまでじゃじゃ馬でいる訳ではない。
引き際と言うものは理解しているつもりだ。
今回の、ガルディアン家に関して私がこれ以上突っ込むことは、父としても、諜報部としても本意では無いのだろう。
「だが、我が部下も狙われている事に関しては、一言でも二言でも言いたいところだがね! 私が何度毒を飲んだか分かるかね?」
「毒を飲んだのかい!?」
「ああそうだとも! 部下を守る為だ、なに、死ぬことは今のところはないし、死ぬ予定も今のところ立てていない」
そう言って手をヒラヒラさせると、父は顔を赤くしたり青くしたりしながらブツブツと何かを口にし始め、暫くすると意を決した表情をした。
「その情報はこちらに入ってきていなかった。部下たちは何をしている」
「情報を敢えて入れなかったのだよ」
「何故!」
必死な表情で訴える父に私は涼しい顔をすると、書類を父に手渡しニヤリと微笑む。
「何故? 冒険者から魔物討伐隊に転職する者は多いし、血の気の多い猛者がワンサカいるのは事実だし喜ばしいことだ。だがね? 私は、仲間を裏切るような部下を持つ気はないのだよ。部下たちの士気に関わる事に関しては、私は厳しいのでね」
「……ミランダ」
「それに、夫からのプレゼントが私を守ってくれている。毒ならば私には効かないから安心してくれたまえ」
そう言って結婚指輪に嵌められた宝石を見せると、父は頭を抱えて溜息を吐いた。
「これ以上心臓に悪いことが起きないように、我々諜報部も動く予定だ。心配せずとも、そう遠くない内にガルディアン家は傾く」
「ほう?」
「だから、本当に暫くの間だけでいい。じっと我慢してくれないか?」
そう言って土下座しそうな勢いで頭を下げる父に、私は溜息を吐くと「今回だけだぞ?」と口にして溜息を吐いた。
しかし、近いうちにガルディアン家が傾くと断言した父に、あのクズの家がお取り潰しになるのならそれが一番いいんだがなぁ……等と考えていた。
事実、貴族としての役割を殆ど果たせなくなってきているガルディアン家。
優秀であった二番目の弟、シャリファー夫妻は魔力操作を教える教師として、既にガルディアン家から出て市民として生活している。
姉、エリファーは変態として有名な貴族に売られたと聞いたが、そこで何か起きたのかもしれないな。
「……意外とあっけなく、家とは傾くものだな」
「ああ、だが我が家とて他人ごとではないのだよ?」
「また養女云々かね? 全く懲りない人だ」
「当たり前だとも、愛しの女性が残した、たった一人の血の繋がった娘だからね」
そう言って穏やかに微笑む父に、その後、三時間ほど話し込まれてしまった訳だが――。
実際のところ、ガルディアン家は本当に風前の灯火であることに、私は薄っすらとしか気が付いていなかった。
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アクセス有難うございます!
本日は2話更新です。
そちらで、あとがき書かせていただきます(`・ω・´)ゞ
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