第27話 新しく花屋の従業員が増えまして。

 何故か突然、花屋の従業員が増えることになった。

 いえ、従業員と言うより、アルバイトらしいけれど……。



「オスカー・ロベンと言います。暫くアルバイトで働きますがよろしくお願いします」



 そう言って挨拶した彼は、御年16歳。

 この世界の平民では成人と認められ、結婚も出来る年齢だ。

 貴族等、学園に行く場合はそれから更に数年待つことになるけれど、一般市民からすれば16歳は立派に成人した男性として扱うのが礼儀とされている。



「ちなみに既婚者です。宜しく」

「あ、ご結婚されてるんですね」

「彼の本職はリコネル本屋のアトリエなんだがね、作家さんが別件の仕事で忙しいらしくって暇らしい。それで、空いている時間を花屋のバイトで入ってもらったんだ」

「「「リコネル王妃の本屋……」」」



 ――リコネル王妃の本屋のアトリエには、狂気がいる。



 そう囁かれて久しいのをふと思い出しオスカーを見ると、何かを察したのか頭をかきながら面倒くさそうに「なんか、妻がすみません」と口にした。



「多分皆が思ったのって、アトリエの狂気ってやつだよな」

「あ、はい」

「凄い人がいるのは聞きました」

「エロ……小説……作家」

「あ、はい、うちの妻で間違いないですね。本当すみません」



 ――奥さんがエロ本作家の夫って、どんな気分なんだろう……。

 怖い半分興味半分、聞きたいけれど聞けない未知の世界、未知の領域。

 けど、オスカーはどっちかと言うと、エロとかには全く興味がなさそうなイメージ。

 淡白そうな、そっち方面には全く興味がない雰囲気を感じるけれど、どうなのかしら?



「ちなみに、奥さんはアシュレイの上司さんよ~」

「魔物討伐隊の部隊長さんか副隊長さんですか?」

「副隊長の方ね」



 ああ、そう言えばアシュレイも言ってたっけ。

 副隊長は変わった人だって……。

 その夫……。

 思わずオスカーを見ると、彼は慣れ切っているのか何の反応もしなかった。

 けれど待って?



「あれ? オスカーって16歳でしょ? じゃあ副隊長だっていう奥さん幾つよ」



 そうマーガレットが聞き返すと、オスカーは少し首を斜めに向けて――。



「今年で26になります」

「10歳差!?」

「随分と離れてるのね……」

「まぁ、そうっすね。案外ああいう人には俺みたいなタイプが丁度いいんだと思います。あの人、常に暴走してる人なんで」

「「「常に暴走」」」

「慣れりゃぁカワイイっすよ」



 淡々と語るオスカーに私たちは呆然とし、ダリルさんはクスクスと笑っていた。



「それと、オスカーも一応私と一緒で護衛も兼ねてるの。安心してね」

「大丈夫なんですか?」

「伊達に鍛えてないっすよ? 妻が妻なんで、訓練だの息抜きだのと、拳と拳でぶつかりあうことも多いっす」

「魔物討伐隊の副隊長の拳くらって無事なのは多分オスカーだけだと思うわよ?」

「俺、頑丈なんで」

「まぁ……そうね」



 それ以上の事は言わなかったけれど、オスカーが頑丈であることは理解した。

 ダリルさんが言うくらいだから相当なんだろうと言うのも理解できる。



「力仕事も得意っす。基本冷静に対応すると思うんですけど、熱くなったらすみません」

「熱くならないように私がいてあげるわ♪」

「頼りにしてます、ダリル兄さん」

「ダリル姉さん……でしょ?」



 ブワッと威圧のようなものを感じたけれど、オスカーは静かな表情のまま「姐さん」とだけ口にし、ダリルさんも「妥協点ね」と笑った。

 二人の間に何か通じるものがあったんだろう……深く突っ込むことは止めた。

 また、花屋の仕事といっても力仕事をメインにしてくれるようなので、そこは本当に助かる。

 ダリルさんだけでは人手が足りない時は、私たち女性陣も体力仕事を必死にしなくてはならないから、たまに怪我をすることもあったのだ。



「でも、それだけ頑丈なら魔物討伐隊に入るっていう方法もあったんじゃないの?」



 気になっていたのであろうマーガレットがオスカーにそう問いかけると、オスカーはやはり首を少しだけ傾けると「そうっすねぇ」と呟いた。



「魔物討伐隊が嫌って訳じゃないんですよ。寧ろ恩ある人たちっすし。ただ、妻に 『君は城下町から私の帰りを、首を長くしながら待ちたまえ! そして私が帰ってくるときには温かいご飯とお風呂を用意してくれているとポイント高いぞ!』 と言われまして、そっちが喜ぶならそうしようかと」

「お……奥さん想いなんだね」

「変人っすけど、可愛い妻っすよ」

「……不思議夫婦」

「さ、お話はここまで! オスカーは私の弟みたいなところもあるの、仲良くしてね?」

「「「はーい」」」



 こうして、花屋にバイトと言う形でオスカーが入ったその日、何時もなら花を買いに来るヴェン爺様が店に来なかった。

 ――ヴェン爺様、体調でも崩されたのかしら。

 それは皆も気にしていたようで、その日ヴェン爺様は花を買いに来なかった。

 暑さで体を壊されたのかもしれないし、夏風邪でも引かれたのかもしれない。

 けれど、私たちがここで働き始めてから、月命日には必ず花を買っていたヴェン爺様が来られない事は、何となく落ち着かなかった。



「ヴェン爺様どうしたのかしら」

「心配ね……毎月、奥さんの月命日には必ずバラを買いに来ていらっしゃったのに」

「ヴェン爺の奥さんの月命日っすか、もしかして今日が?」

「ええ」

「毎月必ず」

「あー…なるほど」



 オスカーは何か心当たりがあるらしく、暫く何かを悩んだ様子だったけれど、それ以上は口にしなかった。

 ただ一言だけ「まぁ、俺が何とかしますよ何とか」とだけ口にし、ダリルさんもニッコリと微笑むと「頼もしいわ♪」とウキウキしながら花のバケツを持って店仕舞いの用意をしている。


 ――何とか出来るものなのかしら?


 不思議な男の子、オスカー。

 彼は一体何者なのか気に掛かるけれど、アシュレイの上司の旦那さんなら心配はいらないのかなと思い、私も店じまいの用意に走り回ったその後――。





 あれから数日経つのに、奥さんの月命日に花を買いに来なかったヴェン爺様が心配だとアシュレイに我慢出来ず話をした。

 生前の話も加えて、あの時欲しかった言葉を言ってくれたヴェン爺様に、私は今、この世界に来て救われた事も告げると、アシュレイは暫く考え込んだ後、丁度明日が仕事休みのアシュレイがヴェン爺様の様子を見に行ってくれることになった。



「でも、ヴェン爺様のお家を私も知らないのよ?」

「そこは、知ってそうな人に話を聞くよ。ほら、ダリルさんとか」

「確かに」



 それなら最初からダリルさんにお願いすれば良かった気がするけど、アシュレイは嫌な顔一つせず、明日、ダリルさんに住所を聞いて様子を見に行ってくれることになった。

 ホッとする反面、自分の不安をアシュレイにぶつけてしまい申し訳ないと口にすると、アシュレイは笑顔で私の頭を優しくなでた。



「愛する妻の心配事が一つ消えて、笑顔が一つ増えてくれるなら、それが夫にとっては一番の幸せだろう?」

「アシュレイ……」

「ヴェン爺様の事は俺に任せておいてくれ」

「……うん!」



 こうしてホッと安堵の息が吐けたその日の夜。

 一軒のお宅が火事で焼け落ちた事に、私たちは気が付かなかった。

 そしてその家こそが――ヴェン爺様の家だと言う事も……。





=====

何やら不穏な動き。



アクセス頂き有難うございます!

今回は満を期して登場! 副隊長さんの旦那さんです(笑)

アッサリ醤油風味……みたいな、そんなキャラですね。

昔書いていた小説で、オスカーみたいなキャラが居ましたが、懐かしく思います。


次回作がまだ執筆出来ていないので、お休みな日もありますが

出来る限り執筆していくのでよろしくお願いします(`・ω・´)ゞ


それと、連休中などは執筆が出来ないので……。

我が家の暴走特急、子供がいると執筆が(;'∀')


そこも踏まえて、お休みするときはすみません。


応援よろしくお願いします/)`;ω;´)

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