第25話 ターゲットはアシュレイのようでして。

 ~副隊長side~



「で、今回だけで何人目かね」

「今回を含めると合計6人目ですね」

「ハハ! アシュレイ君は人気者だな! 命を狙われるとは!」



 保護対象であり、監視対象でもあるアシュレイが命を狙われるようになって数日。

 それらは、冒険者から魔物討伐隊に転職した者たちに多かったが、何処からか手に入れてきた毒薬入りの酒をアシュレイに振る舞おうとしたことが切っ掛けだった。


 魔物討伐隊では、基本的に店の酒しか飲むことは許されていない。

 そこに不自然に酒を持ってくる者。

 店の酒だと言ってコッソリ持ってくる者。

 堂々とも言えないが、飲み比べだと言って自分には安全な酒、アシュレイには毒入りの酒を持ってくる者と、多岐にわたった。

 が、それらをすべて阻止できたのは私の持っている解毒リングのお陰だろう。



「面白そうな酒じゃないか、副隊長に渡さずアシュレイに渡すとは、君には礼儀がないのかね?」



 そう言って毒を飲む日々は、中々に刺激的だ!

 夫に話したら相当怒鳴られたが、彼の言い分も分からなくはない。

 解毒リングがあったとしても防げない毒もあるかも知れないからだ。

 だが、それで命を落とした場合は殉職したとして階級は上がり、夫への遺族年金は高くなるだろうと思うと、多少なりと彼の残された人生が豊かになることを祈らずにはいられないな。



「で、彼らの酒の出どころは解ったかね? どうなんだね、ダリル君」

「いやだわ、ダリル君だなんて……ダリルちゃんって呼んでくれないと返事しないんだから」

「君の黒歴史を声高らかに言って差し上げてもいいんだよ?」

「酷い! 酷過ぎるわ!!」

「それで、出どころはもう掴めているんだろうね? 諜報部が掴んでない訳はなかろう? さぁさぁ、我らが敵を吐きたまえ。この私自ら鉄槌をしてやりたい気分なんだよ」

「やだわ怖い。その無駄にある胸って実は筋肉で出来てるんじゃないの?」

「ははは! セクハラと訴えられたくなかったら、さっさと情報を提示してもらおうか」

「もう! 人妻になってから豪快さに拍車がかかっちゃって……まぁいいわ。犯人はイマイズミ。ネルファーよ」



 その言葉を聞いて私は「ふむ」と答えた。

 ネルファー・ガルディアン伯爵は前回、ラシュアと言うアシュレイの彼女を将来の花嫁だと言って探していたのは私の耳にも入ってきている。

 そして、ラシュアの方はその貴族でもあるネルファーの事は知らなかったのだと言う事も。

 更に言えば、既にラシュアはアシュレイと夫婦だ。

 神に誓う婚姻届けとは拘束力が強い。

 離婚する方が手間暇もかかるし、面倒この上ないのがこの国の実情でもある。

 故に、この国では結婚はとても慎重になるし、結婚率でいうなら他国よりは低いと言っても過言ではないかも知れない。


 ここまでは、普通に、離婚する場合には……だが。

 別の方法で離縁と言う形になることも稀にある。

 それが――夫や妻が死亡した場合だ。


 その場合、半年の喪にふした後、再婚しようと思えば再婚することが可能である。

 イマイズミ、もとい、ネルファーはそれを狙っているのだろう。

 我が魔物討伐隊の者に大金を与え、金に目がくらんだ者が犯行に及ぶ。

 堂々と部隊の前で言えればいいんだが、アシュレイを傷つける行為にもなるし、それが後に悲劇の幕開けにならないとも限らない。



「……誘き寄せることが出来るなら誘き寄せたいところだが、イマイズミはかなり用心深い男のようだな」

「ええ、絶対自分の手を汚すことはしないわね」

「全く情けない男だな、保守的なのか攻撃的なのか判断に困る」

「狡猾って言うのよ」

「言えているが、そういう奴の犯行程面倒なことはない。どうにかして尻尾を掴んで引きずりおろせればいいんだがな」



 溜息を吐いて椅子に腰かけ、机に脚を乗せるとダリルから「行儀が悪いわよ」と太ももを叩かれた。

 こんなやり取りは日常茶飯事だが……それよりもアシュレイを今後どう守っていくかも課題になってくる。

 毒、麻痺、昏睡、狙おうと思えば多種多様に状態異常は引き起こせるだろう。

 となると……予防策として魔道具が必要になってくる。

 だが、それらの魔道具とはどれもこれも高いものが多いのが世の常だ。

 それに――。



「現状、アシュレイを狙っての犯行が目立つ。だが妻であるラシュアに関してはどういう事が身近に起きているか分かるかね?」

「ラシュアの身の回りは静かなものよ。強引に攫おうとはしてないみたいなの」

「ふむ」

「ましてや、今入っている寄宿舎で問題を起こそうとするものはいないでしょうね。リコネル王妃の計らいで警備が強化され、彼女たち夫婦が入っている部屋は警備が一番厳しくなるエリアの一角ですもの」

「まぁ確かに、となると……もう一か所狙われる場所としてあり得るのは花屋か」

「そこは私が対応してるわ」

「本当にそう言い切れるのかね?」



 私がニヤリと笑いダリルに語りかけると、ダリルは「どういうこと?」と口にする。



「狡猾なやり手なら、方法はいくらでも思いつくだろう。今後は客にすら注意するんだな。私なら間違いなく客を使って問題を起こしてやるだろうよ」

「……そこまで気が回ってなかったわ……肝に免じておくわ」

「是非そうしてくれたまえ。それと、良く花を買いに来る常連客には十分気を付ける様にな」



 そう言うとダリルは溜息を吐いて「それじゃ一旦報告は終わりよ」と言って去っていった。



「私なら間違いなく、常連客を使って動くんだがな……」



 それをまだしてないだけなのか、準備期間なだけなのか……。

 少なくとも、夫であるアシュレイを殺せないでいる現状にイラついているはずだ。

 ならば、妻を狙う可能性は低いとは決して言えない。



「さてさて、ダリルだけでは花屋を守るのは苦しかろう」



 ――リコネル王妃に言って、私も討伐隊で忙しい為に仕事が暇だと言っている夫を、手伝いに出してみようか。

 パートであってもバイトであっても、危険手当付だが大丈夫かと言えば、夫ならOKを出すだろうしな。



「さて、そうと決まればリコネル王妃に連絡したのち、家族会議だ!」



 背伸びをして勤務時間が終わる鐘と同時に、私は寄宿舎へと急いだ。







=======

アクセス頂き有難うございます。


今回は、アシュレイの上司である副隊長視点でした。

彼女を書いているときは凄く生き生きして書けます(笑)

書きやすいキャラですね!

今後も少し(?)出てくるので、副隊長様の応援もよろしくお願いします!


そして、何時もハートでの応援等、本当にありがとうございます!

少しでも好きなキャラがいてくれると良いなぁ。

主人公たちより、わき役のダリルさんや副隊長さんがキャラが濃くなりすぎてる気がしますが、今回の妻シリーズ2では、一番主人公とヒロインが一般的かつ良心的なのかもしれないと思ってしまいました。


そして、ダリルさんと副隊長が濃いと……。

う、うん、濃いです。

でも好きなキャラなので許してください(;'∀')

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