第24話 元夫は耐えれなかったそうで。
~ネルファーside~
見つかった元嫁は、既に結婚していた。
この情報を最初聞いた時、何の冗談だと笑い飛ばしたかった。
前世の冴えない姿の元妻、あんなのを好きになる男がいるのかと笑いたくなったが、現世の妻は見た目が前世とあまり変わらないのに、人気のある女性として評判を得ていた。
それが気に入らないのもあったが、まさか結婚しているとは思わず、部下を連れて急いで現世の元妻の寂れた家の前まで向かうと、元妻は俺の事など知らないかのように、結婚して幸せだと言うのだ。
――何という俺に対する侮辱だろうか。
お前は俺の妻だろうが、と叫びたかった。
堂々と浮気するつもりか、と叫びたかった。
それらを押し殺し、離婚を促したが聞く耳を持ちやしない。
それどころか、俺の家ならば嫁の来ては沢山あるだろうと隣の女から茶化され、更に頭に血が上りそうだった。
「あら、もうこんな時間! 早めに引っ越しの準備してしまいましょう! 日が暮れてしまうわ」
「それもそうですね、ご足労頂きありがとうございます。ですが、もう幸せな結婚生活が待っておりますので此方の事はお気になさらず、別の女性を妻にして差し上げてください」
満面の笑みで俺にそう告げる妻に、大きく溜息が零れた。
こんなにも阿保な女だったか?
いや、結婚して舞い上がってるだけだろう。
俺の元に戻れば、また考えが変わるはずだ。
「それではまた会いに来ます」
それだけ伝えると馬車に乗り込み、帰宅後憤慨した父に怒鳴られた。
まさか相手が既婚者だったとは俺も今日知ったのだと告げるが、それでも父の怒りは収まらず、その姿は俺を殴り殺した父によく似ていた……。
「ガルディアン家が捜索依頼を出した相手が既婚者など……っ どれだけ親の顔に泥を塗ればお前は気が済むんだ!」
「仕方ないでしょう。相手が既婚者なのを知ったのは今日なのですから」
「それでも、最初から調べておけばなんてことはなかったことだろう!」
「でも、私は彼女以外を妻にするつもりはありませんよ。どうです? この際ですから、結婚相手を何とかして殺せませんかね?」
笑顔でそう告げると、父は俺の顔を殴り飛ばし、俺は床に数回転がった。
息の上がった父を睨みつけると、俺は前世で俺を殺した父もこんな感じだったなと冷静に見つめることが出来た。
「姉が変態貴族に貰われて金を融通してくれている……それはお前の為、家の為だ」
「それが何か?」
「家の跡継ぎであるお前がそのような態度でどうする! もう少し考えて行動することは出来ないのか!? これ以上我が家を陥れるような真似をするんじゃない! 第一、お前の所為で我が家は騎士団団長の座を奪われたのだぞ!? もっと反省するなり、また騎士団団長に返り咲くために動くことが出来ないのか!」
「はぁ……騎士団団長の座など、私は欲しいわけではありませんし」
「なっ!」
「そんなに返り咲きたいならシャリファーを連れ戻せばよかったではないですか。跡継ぎに相応しいのは私ではなくシャリファーですよ? 子供が作れないと言う理由だけで追い出したのは貴方ではないですか」
墓穴を掘られたんだろう、父は顔を真っ赤にすると、暫く俺を睨みつけたのち背中を見せた。
「暫く外出することも、これ以上女を連れ込むことも禁止する! 部屋に閉じこもって反省するまで出てくるな!」
吐き捨てる様に口にして去っていく父に、俺は立ち上がり溜息を吐くと、体についた砂埃を払いのけ部屋に戻った。
元妻が見つかるまでの間に、女たちは出荷した。
今残っている二人の女は、選別に選別をかけて残した、体の相性のいい女のみだ。
それでも、抱きつぶせば飽きてくる……全く、ハーレムを作る事を禁止するとは、これでは転生した時に願いとして出したハーレムを作ると言う夢が叶わなくなってしまう。
部屋に戻り、ソファーに腰かけると、俺は人知れず愚痴を零した。
「話が違うじゃないか……俺は確かにハーレムを作りたいと願い事をしたのに」
「あ、それはですねぇ~! 貴方が他人の一番の願いに干渉したからペナルティをくらっちゃいましたね!」
「誰だ!!」
いつの間に入ってきたのか、前世ではよく見たスカートタイプのスーツに身を包んだ女子高生らしい女が立っていた。
いや、待て、どこかで見たような気がするが誰だったか……。
「貴方に会うのは二回目ですね! 私、栗崎って言いまーす! 異世界転生審査課の者です! 覚えてらっしゃいません?」
「すまないが、覚えていないな」
「そうですか、それならそれでいいです」
「それより、他人の一番の願いに干渉したペナルティと言ったな?」
「はい! 一応、転生課でも見過ごせない問題なのでやってきたんですがぁ……これ以上、貴女の元妻である、現世のラシュアさんに関わることは止めた方がいいと思います。次ペナルティ食らったら、貴女の願いの、どれか一つがまたペナルティで使えなくなりますよ?」
「何だと!?」
思いがけない言葉に目を見開いて栗崎に歩み寄ると、栗崎は恐れることなく笑顔で対応してきた。
「ペナルティが増えるなんて一言も言わなかったじゃないか!」
「だってぇ~普通他人の一番の願いを踏みにじる対応するなら、それなりのペナルティくらうのは当たり前じゃないですか?」
「待て、サチヨは何という願いを一番の願いにしたんだ! 俺に関わる事なのか!」
「ガッツリ、関わっちゃいますね!」
「ふざけるな!! そもそも夫に相談無く決めるなんて! やっぱり禄でもない女だったんだな! この世界で矯正が必要だ、俺の手による矯正が!」
「死んだ時点で誰の命令を聞く云々なくなってますよ~! 本人の自由、個人の思うままに願い事を言うのも規則ですし」
「夫の俺をこけにしてまで聞く問題じゃないだろう!」
栗崎にコップを投げつけたが、彼女にコップは当たらず、体をすり抜けて床に落ちて割れた。
やはり一筋縄では聞いてもらえないだろうと思ったその時――大きなため息と同時に栗崎は汚物でも見るかのような目で俺を見てきた。
「はぁ~~~~……いるんですよねぇ偶に。貴方みたいな蛆虫って」
「なっ」
「全ては自分の都合次第、自分の考えが正しいと言って他人を踏みにじる人って、蛆虫だと思うんですよ。自分で気づいてます? 元奥さんに依存しきってるってことに」
「依存だと?」
「そうです! 蛆虫のように自分の気持ちをワラワラと押し付けて群がってる蛆虫です。それは第三者から見ると気持ち悪くて吐き気がするものです!」
両手を震えるほど握りしめ、栗崎を睨みつけると、栗崎はクスクスと笑って手品のように書類を取り出すとパラパラとめくり始めた。
「現世でも色々やらかしたじゃないですか~? これ以上何かやらかすと、ちょ――っと上の方と協議して貴方の今後を見直さないとダメになっちゃうんですよぅ。なのでぇ、元奥さんに依存するのを止めて頂いて、これからは真っ当に生きて貰わないと、ペナルティでドンドンあなたの望みが消えちゃいますねぇ」
「そんなものは詐欺だ! そんな説明一言も受けなかったし離さなかったじゃないか!」
「だって、貴方のように前世の記憶を持つ人の方がレアですしぃ。他人の願いを踏みにじる行為をするのも滅多にいませんでしたしぃ?」
「だからってっ!!」
「良いですかぁ? 本来なら私に攻撃を仕掛けた時点で全ての願いが抹消されて上に報告の後、貴方の現世での事を協議するだけの問題なんですよ~? 今回は大目に見ますけど、私が今回来たのは最終警告だと思って下さいね~? 今度私があなたの前に現れるときは、貴方は現世での行いも含め、転生課によって命の選択を迫られることになるかと思いますのでぇ。そうなると大抵は現世でも命を終えてバッドエンドなんでぇ~。これ以上問題起こさないでくださいね~?」
「ふざけるな!!」
声を荒げた所で栗崎は顔色を変えることなく、ただニッコリ微笑むと「話は以上でーす!」と言って姿を消した。
――俺が元妻に依存している?
――何かの間違いだろう?
そもそも妻とは夫の言う事をなんでも聞くものだ。
それを再教育してやろうっていってるのに、栗崎を始めとして誰も理解しやしない。
俺が間違っているのか? いや、絶対に間違っていない筈だ。
「正しい未来に向かって再教育を施す準備を行わねばっ」
あの笑顔を向けるのは俺に対してだ。
他の男じゃない、俺に対して、俺にのみ、俺だけの!!
栗崎がいた場所に剣を何度も突き刺しながら、俺は何度も呪文のように口にした。
「――さぁ、まずは目障りなあの現世の夫とやらを消すとしよう」
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久しぶりの投稿となります。
ネルファーsideは書いていて『妻は悪役令嬢(?)で押しかけ女房です!』の
チャーリーと同類と言うのを意識しています。
気分が悪くなったら申し訳ありません。
今後どうなっていくのかは是非お楽しみに!
そして、子供→夫→私と言う感じで風邪が移り、治るのにかなり時間が掛りました。
暫く執筆が出来ませんでしたが、また執筆出来そうなくらいに回復したので
またボチボチ執筆頑張ります(`・ω・´)ゞ
待っていてくださった読者様の為にも!
そして、ハートや★での応援ありがとうございます!
お待たせしてしまいましたが、また、応援して頂けると幸いです。
そして、アシュレイ頑張れ! や、ダリルさんが好き♡
と言う読者様がいらっしゃったら良いなと思います(笑)
私はダリルさんが結構好みです(/ω\)
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