第22話 何故か未来の花嫁を探しているそうでして。
保護されて数日後の昼の事だった。
私とアシュレイはダリルさんに呼ばれ、応接室に入ると、今回私が行方不明と言う状態にしていることに対し、ネルファーの実家から王国騎士団に、私を探して欲しいと言う依頼が舞い込んできたそうだ。
しかも、依頼をしたのは――ネルファーの父君なのだと言う。
「まさか、そう来るとはね」
「余程必死なのでしょう」
まさか親を使ってくるとは予想していなかったようで、ダリルさんもアランさんも渋い顔をしていた。
そこにノックもせず部屋に入ってきたのは妹のメルさんだ。
何かを調査していたのか、手には書類の束が抱えられている。
「こちらがクリファー様が依頼してきた内容分と、騎士団が捜査した際の調査書の写しです。もう、集めるの、大変だったんですからね?」
「ごめんなさいね、メルちゃん」
「それで……私の捜索はどうなっているんでしょうか?」
恐る恐る聞いてみると、騎士団は元騎士団長のクリファー様の依頼に対し、一応真摯に受け止め捜査をしているらしい。
けれど、不穏な言葉が囁かれているのだとか。
「なんでも、クリファー様はネルファー様の未来の花嫁を探していると言ってるらしくって……」
「未来の花嫁……」
「そうなのよ、可笑しな話よね。だってラシュアちゃんはもうアシュレイと結婚しちゃってるもの」
「そうですね」
「俺の妻だしな」
「だから、ラシュアちゃんが結婚して人妻であることは知らないの。つまり、まだ調査は教会にまで及んでいないと言う事……」
「釘を刺しますか?」
「いいえ、此処は教会を利用しましょう」
ダリルさんの言葉にアシュレイは目を見開くと、私は首を傾げてダリルさんとアシュレイを交互に見つめた。
教会を利用するとはどういうことなのかと聞こうとしたその時――。
「まさか……!」
「流石アシュレイ! 察しが良いわね! そう……結婚式よ!!」
「え!?」
――結婚式!?
思いがけない言葉に私の方が目を見開くと、ダリルさんは「ムフフ」と嬉しそうに笑い、アシュレイは顔を真っ赤にさせて「結婚式……」と口にする。
「ただ、直ぐ結婚式って訳にはいかないからワンクッション入れましょう! 行方不明って言ってるけど、実は好きな相手と一緒に過ごしていたと言えばそれで平民は問題ないもの。そもそもお貴族様じゃないんだから貞操を結婚するまで取っておくってことも必要ないでしょう?」
「ななな……貞操概念が崩れますよ! お兄さま!」
「メルちゃんは黙ってて頂戴! これはラシュアとアシュレイの未来に関わる事よ!」
「でもでも……」
「お仕事に復帰出来なかったのは、恋人に離して貰えなかったからとでも言えば文句も出ないわよ。それに、リコネル王妃様が経営する花屋に文句をつけてくる阿保な貴族は早々いないでしょ?」
「確かにそれはそうですが……それでも行方不明から一変させていいんですか?」
「恋人の家で一緒に過ごすことは罪かしら?」
ウインクしながら私に語りかけるダリルさんに、確かに恋人の家で一緒に過ごすことが罪だというのであれば、世の中の男女の殆どが罪を犯していることになる。
それに、現王国騎士団団長が私たちを匿っている事を知られる方が危険だった。
「本当はもう暫く我が家で保護したかったんだけど、あちらの家がそこまでして探すとは思わなかったの……ごめんなさいね」
「いや、これ以上アンダーソン家に迷惑が掛かるのは俺たちも本意ではないから気にしないで欲しいかな……」
「要は、結婚式もするけれど、その前にアシュレイの家に暫く居たことにすればいいですよね?」
そう問いかけると、ダリルさんは「そうね」と返事を返してくれた。
つまり、アシュレイにも何かしらの理由が必要になってくると言う事だけど――そう言えば以前、アシュレイが「今日は魔物討伐隊が遠征か」と口にしていたことを思い出し、私は顔を上げるとダリルさんに提案した。
「アシュレイが魔物討伐で怪我をしたので、家にいたと言う事にはできませんか?」
「出来るわよ? アシュレイの部隊の副隊長とは仲良しなの♪」
「じゃあ、それで通してほしいです。そうすれば怪しまれませんし」
「そうね……まぁ、代償は身を削って出しましょう」
「副隊長なら聞いてくれそうではあるけど……代償が大きい気がするけど仕方ないか……」
「代償とは?」
「まぁ、そのうち分かるわよ♪」
――顔が引き攣っているダリルさんを、初めて見たかもしれない。
アシュレイの所属する魔物討伐隊の副隊長さんとは一体何者なんだろうか……。
深く聞くことは何となくタブーな気がしたので、それ以上は聞くのを止めておいたけれど、二人とも同じように溜息を吐いたのが気掛かりだ。
「ってことで。二人の住んでる部屋を引き払う方向でいいかしら。住む場所はそうね……ほとぼりが冷めるまでは既婚者の寄宿舎に入ってもらえる? 不憫だろうけど、ほとぼりが冷めるまでだから」
「寄宿舎?」
「ああ、ラシュアは知らないんだったな。王都の騎士団や魔物討伐隊の既婚者のみが入れる寄宿舎があるんだよ。お値段手頃で城から近いし、何より入ってる人全員が王城で働く人間で集まってるから安全性は高いと思う」
「そう……それなら安心かしら」
「ほとぼりが冷めたら一軒家を一緒に見に行こう。それなりの貯えはあるから安心して欲しい」
アシュレイの真っ直ぐな言葉に私は頷き、ダリルさんは「その時はお邪魔しないようにするわ」と苦笑いを浮かべていた。
多分着いてきたいんだろうなぁ……と言うのは凄く伝わってきたけれど、夫婦間の事に口出しはしないようだ。
「アラン、今すぐ既婚者用の寄宿舎の部屋一つ取ってきて」
「分かりました」
「メルは変装して引っ越し屋に諸々とお願いね」
「はーい」
「引っ越しの手伝いに私も行くわ。アシュレイは持ってる家具とかは少なそうだけれど、ラシュアちゃんはそうはいかないでしょう?」
「そうですね……お願いします」
「これ位なんてことはないわよ~! その代わり、ウエディングドレス選びは付き合わせてね? 私も一着欲しいの!」
「「あ、はい」」
思わず私とアシュレイの言葉が重なったけれど、ウエディングドレスに身を包んだダリルさん……似合いすぎる。
思わず遠い目をしそうになったのを堪えて、アランさんとメルさんは屋敷を飛び出していき、夕暮れ時にはアシュレイの名前で、夫婦で入れる寄宿舎をゲットできたし、アランさんがついでだと言って、アシュレイの上司である部隊長さんと副隊長さんに話をしてくれたらしく、アシュレイが魔物討伐中に負傷し、暫く仕事を休んでいたことにしてくれた。
魔物討伐隊では負傷による休養は、よくある事らしい。
また、リコネル王妃様より寄宿舎は直ぐに空きを取る許可を貰えたらしく、本当に感謝するばかりだった。
メルさんも程なくして戻ってきて、明日には引っ越しの予約を入れてきてくれたらしく、アシュレイは一足先に家に戻り、私は翌日、コッソリと花屋へ出勤することで決まった。
アシュレイの家が監視されているのかどうかはわからないけれど、花屋は監視されているだろうと言う事だったので、私が行けば何かしら動くだろう。
もし、元夫と対峙することになったとしても、ダリルさんを始めとする花屋の皆がいてくれる。
――私はもう彼の妻ではないわ。
私はそう……バーサーカーの妻よ。
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予約投稿です。
しつこい男が嫌われるのはテンプレですね。
延々と追跡される恐怖……作者も経験あります。あれは恐怖ですよ(笑)
さて、しつこい男ネルファーがまだまだ動いてますが、
「そう来るならこちらも対策しますわよ!」とリコネル王妃が動いてくれたんでしょう。
リコネル王妃……またお会いしたいです。
バーサーカーの妻と言う覚悟を持ったラシュア。
次回からどうなっていくのかはお楽しみに!
そして、何時もアクセス有難うございます!
余り人気のない作品傾向だと思うんですが……読者様に感謝してもしきれません!
頑張って執筆したいと思います/)`;ω;´)
応援よろしくお願いします!
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