第19話 身の安全の為に匿われる事になりまして。
「ですから、ラシュアはもう帰宅しております。他の店員たちも帰宅していますからお帰り下さい」
「いえいえ、ラシュアさんの家に向かっても誰もいなかったんですよ」
「では買い物に出かけているのでは?」
「戻ってくれば連絡が届くと思うんですが、まだ戻っていないようで」
そんなやり取りが聞こえ、話をしている男性貴族の顔を見ることが出来たけれど―――私は息を呑んでアシュレイにしがみついた。
忘れもしない……あの顔は、髪の色こそ違うけれど、あの顔は―――元夫だった。
張り付いた笑顔にゾッとし、そして私を探しているのだと知った時、震えが止まらなかった。
けれど、今も他の女性が苦しんでいるのなら、私が前に出て、餌になって誘き寄せないと……。
そう思い前に踏み出そうとした時、アシュレイは私の腕を掴み、店の奥にいるダリルさんと目が合うと、一瞬だけ眉を寄せて小さく頷き、ダリルさんは前に出た。
「申し訳ありません、ラシュアは多分、お友達のおうちにお泊りに行ってるんだと思います。今日は女子会と聞いていましたから」
「女子会……ですか」
「ええ! 彼女は人気者ですから! 女子会している場所に男性が赴くのは如何と思われますわ。女性に嫌われてしまいますわよ?」
「むむ……確かに女子会に行っているのなら……」
「ですので、申し訳ありませんが後日また」
「そういう事なら仕方ないな……出直そう」
ダリルさんの機転の利いた言葉に元夫は馬車に乗り込み去っていった。
途端、力が抜けて地面に座り込もうとした私をアシュレイが抱きかかえ、馬車が見えなくなってから店に急いで入る。
「ラシュア! 無事だったのね!!」
「はい、あの……」
「あの貴族が例のネルファーよ。理由は解らないけれど、貴女に執着してるみたいなの……それで、そっちは何か情報は見つかった?」
言葉が出ないでいると、アシュレイは先ほど行った店での会話と、指輪の入っている箱をダリルさんに手渡し、ダリルさんは強く頷くと「二人とも良くやったわ」と言ってくれた。
「最近ピリピリしてたのは、やはりあのネルファーの?」
「ええ、ネルファーが人を使いラシュアを調べさせているっていう情報が諜報部に入ってきたの。それでピリピリしちゃってて……でも何所でラシュアに出会ったのか覚えてる?」
「いいえ……全く記憶になくって」
「可笑しいわね……とにかく大手柄よ! でもラシュアは暫く姿を隠した方がいいわね……申し訳ないけれどアシュレイ、あなたも一緒に私の実家に暫く匿われてくれないかしら」
「ダリルさんのご実家?」
「そりゃいいけど……」
「そう、なら話が早いわ。直ぐに連絡するから」
そう言ってダリルさんは鞄から魔道具を取り出すと、その魔道具に何かを話しかけていて、前世で言うスマホとかそういう奴かなって勝手に理解した。
そして十分後、一台の馬車が到着すると、私とアシュレイ、そしてダリルさんも乗り込み、そのまま馬車は走り出す。
「それで、ご実家は何処なんですか?」
「ここから少し離れたところだけど……アンダーソン家よ」
「「え!?」」
アンダーソン伯爵。
それは――数年前に変わった、現騎士団団長のご実家だった。
――元騎士団団長の家は、元夫のネルファーの実家だと聞いたときは驚いた。
あの人に剣なんか使えるのかと言う疑問もだけど、騎士道なんてものは持ち合わせていない人間だと思っていたからだ。
そして、その元夫は、リコネル王妃を陥れた女性と密にしていたこと。
その後、色々あって一度は家を追い出されたものの、その時に公爵家に火をつけたこと。
更に、弟さんが、子供が作れない体であることから、ネルファーを家に呼び戻し、もう一度騎士団団長の座へと返り咲こうと奮闘していることを聞いた。
けれど――。
「リコネル王妃やジュリアス国王陛下は、ネルファーの実家を既に見切りをつけているの。近々ネルファーの実家に通達が行くはずよ。冒険者であればハーレムを作ることは可能だけれど、彼は冒険者としての実績は一つもなく、また、冒険者で稼いだお金でハーレムを作っているわけではないから、貴族としての道を外していることを最終通達する筈なの」
「貴族はハーレムを作れないんですね」
「家に関わることだもの。第三婦人までは認められているけれど、それ以上は認められていないわ。実際、それ以上に愛人を囲う場合は、届け出が必要なのよ」
「色々と貴族は面倒なんだな」
「じゃあ、ダリルさんは騎士団長に将来なるんですか?」
「いいえ、弟に丸投げしたわ♪ 私はむさ苦しい騎士団なんて真っ平ごめんだもの」
清々しい程の笑顔に、私は苦笑いを零しアシュレイは「まぁ確かに男所帯ではあるけれど」と言葉を濁していた。
けれど、女性騎士もそれなりにいるらしく、そう言う女性騎士はリコネル王妃の護衛騎士として活動しているのらしい。
まぁ、別の意味で珍しい女性騎士もいるらしいけれど。
そんな話をしていると、あっという間にアンダーソン伯爵家の屋敷に到着し、私とアシュレイは着の身着のまま保護されることになった。
用意された部屋に案内されると、もう我が家とは別世界。
「必要なものがあれば直ぐに教えて頂戴。女同士の方が言いやすいでしょ?」
「それは、ダリルさんに言うと言う事ですか?」
「無論メイドに伝えてもいいけど、言いにくいでしょう?」
「まぁ確かに……」
お屋敷なんかに住んだことのない私としては、今私専属としてついてくれているメイドさんたちにご迷惑をかけて申し訳ありませんと頭をさげたいくらいだ。
それでも、ダリルさんの気さくな性格もあってか、メイドさんたちは皆さん笑顔で私に接してくれるのはとても安心する。
「アシュレイと離れた部屋になってるけど、ごめんなさいね?」
「いえ、お気になさらないでください」
「そう、良かったわ。家の中ならいつでも会えるようにしておくから。でも、一線はまだ超えちゃだめよ?」
「そんなことしませんよ!!」
「ふふふ! じゃあまた後でお話ししましょうね♪」
そう言うとダリルさんは部屋を出ていき、私は出された紅茶を飲みながら暫く過ごすことになった。
今頃、今日の出来事をお父様や弟さんたちに話しているのだろう。
此れから忙しくなるんだろうなぁ……そう言えば私の家まで知ってたけど、何処で知ったのかしら、本当に謎だわ。
それに指輪……なんて彫ってあったのかしら?
気になることは多いけれど、私が動いてどうこうなるものではないと割り切り、小さく溜息を吐いたその頃――。
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予約投稿です。
ついに元夫が誰か動き出した!!
「ネルファー」聞き覚えがある方がいらっしゃるかもしれませんが
【妻は悪役令嬢(?)で押しかけ女房です!】でも登場してますね!
名前だけ!
此処でやっとセリフ付きで登場です(笑)
意外な所で繋がっていたと言うのはお約束。
さて、匿われることになりましたが、今後どうなるのかはお楽しみに!!
そして、何時もアクセス有難うございます!!
作者やキャラへの応援があると嬉しいです!
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