第18話 アシュレイの気持ちは本物でして。
「アシュレイ」
「ん?」
「私、指輪って元夫から貰ったあの最低な言葉の書かれた指輪しか貰ったことがないの。だからその嫌なものを上書きしてくれる?」
「え?」
「……迷惑でなければだけど……私、アシュレイから気持ちのこもった指輪が欲しいの」
私のこれでもかと詰め込んだ我がまま。
けれどアシュレイは顔が発光しそうなほどに喜んだ表情を浮かべ、頬を赤くして「良いのか!?」と叫んだ。
まさかここまで喜ぶとは思ってなくて驚いていると、アシュレイは私の言葉を待っているようだったので――。
「良いも何も……アシュレイの気持ちの籠った指輪が欲しいのよ?」
「本当にいいのか……その……こ……」
「こ?」
「婚約指輪になるけどいいか!?」
弾けたように叫んだ言葉に、私は目を見開きアシュレイを見た。
――聞き間違い?
今、婚約指輪って聞こえたけれど……婚約指輪!?
「アシュレイ、待って? 婚約指輪なんて豪華なものは」
「ラシュアに贈るなら婚約指輪が最初だよな……その次は結婚指輪で……」
「待ってアシュレイ、本当に私とその……け……結婚する気なの?」
「それ以外に何があるっていうのか教えて欲しいくらいだよ。今日みたいにダリルと二人きりでいられただけで、どれだけ嫉妬に狂いそうだったか……ただでさえラシュアは人気の高い女性なのに、他の男に狙われると思ったら相手を一刀両断しそうだぞ?」
「そ、そう?」
「だから、俺からの婚約指輪! 受け取ってくれるんだろう?」
本気の声色、本気の表情に私は胸を締め付けられた。
元夫は私と初めて会った時もそうだったけれど、結婚式だってまるで形としてやったと言う愛情も何もないものだった。
けれど……アシュレイは違う。
本当に心から私を求めてくれている。
――心から、愛してくれている。
「ラシュア?」
「……ふつつかな私ですが……それでも良ければ」
「―――っしゃあオラァ!!!」
雄叫びを上げたアシュレイは私を抱き寄せると、まさかのキスをしてきた。
それも唇に。
私のこの世界でのファーストキスは思いがけないタイミングでやってきたようだ。
「一生大事にするからな! 絶対離さないからな! 離れてやらないからな! 覚悟しろよ!」
「あら、望むところだわ」
「愛してるラシュア!」
こうして翌日には、私たちは婚約指輪を選びに、そして指輪の聞き込みもシッカリとすることに決めた。
泊っていくかとアシュレイに聞いたけれど「これ以上一緒にいると襲いそうで」と言われ、彼は顔を赤く染めたまま家路へとついた。
女性としても、求めてくれるアシュレイに、胸の高鳴りが止まらなかったけれど、それでも良いとさえ思えた自分は、彼を愛しているのだろう。
前世の結婚ではありえなかったこと。
キスを求めたいと思ったことも無ければ、あの人の子供すら欲しくないと思っていた。
結婚して牢獄に入ったような気分だったのに、アシュレイはそんな感情すら打ち消す程に、私を心の底から愛し、心の底から欲してくれる。
――こんなに女性として嬉しいことある?
いいえ、きっとそんなものは存在しないのかも知れない。
私はこの世界で初めて……愛を知ったのだと思う。
「アシュレイ……」
彼が見えなくなっても部屋に戻ることが出来ないくらいに――私は彼を愛してしまった。
そして、バーサーカーの花嫁と言うジョブを、心の底から有難く感じたのだ。
私がこの世界にやってきて、そしてこのジョブを貰ったことはきっと……彼と出会う為だったのね……。
小さく息を吐き部屋に戻った頃――私を馬車から見つめる男性がいたことに、この時気が付きもしなかった。
翌日。
仕事終わりにアシュレイと一緒に婚約指輪を探すのと同時に、指輪の聞き込みを始めた。
この王都にはアクセサリー屋は五軒ある。
その一つ一つを調べていく作業は数日掛かるけれど、婚約指輪を探すと言う目的もあって楽しくもあった。
二軒、三軒と捜し、最後の五軒目は……アクセサリー屋と言うには、あまりにも怪しい雰囲気のある場所だった。
「婚約指輪を探しているんですが、お勧めはありますか?」
薄暗い店内で店員にそう語ると、店員は「ああ、お待ちください」と口にして置くから何故か、小さな箱を持ち出してきた。
「いつも通り作ってありますよとお伝えください」
「……いつも通り、ですね?」
「ええ、イマイズミ様のご要望に合わせた逸品ですよ。なんでも今回はとても素晴らしい女性だそうですね」
――イマイズミ。
間違いなく店員はそう口にした。
私とアシュレイは顔を見合わせ、笑顔のままに頷くと、箱を受け取りその足でダリルさんの元へと戻った。
ダリルさんは最近ピリピリしている……理由は教えてくれないけれど、何かに警戒しているかのようだったから、この報告はきっと嬉しいはずだ。
「ダリルさんに良い知らせが出来るわね!」
「ああ、最近なんか様子が可笑しかったからな」
「やっぱりアシュレイにも分るくらいに?」
「ああ、何かに警戒してるっていうか、何とも言えない雰囲気だったよな」
「そうね」
そんな事を話しながら花屋が見えてきたその時――店の前には貴族が載るような馬車が止まっていて、私とアシュレイは首を傾げた。
今日は貴族様がくる日でないし、何か緊急に花が必要になったのかしら?
そう思っていると――。
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予約投稿です。
彼女から指輪が欲しいと言われ、真っ先に婚約指輪を考える辺り
アシュレイの気持ちが暴走しているのが良く解りますね!(笑)
でも、丸く収まるのなら良いのではないだろうかと思いつつ
アシュレイの恋を見守った気分でした。
こういう真っ直ぐな男性、結構可愛いと思います(笑)
個人的に愛されキャラかな? って思いながら、アシュレイを応援!
次回から何やら起きるようですが、是非明日をお楽しみに!
そして、作者含めアシュレイの応援も、よろしくお願いします/)`;ω;´)
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