第17話 転生者であることをカミングアウトしまして。

「知ってはいます……けど、今の時代ではないです」

「どういうこと?」

「今泉が犯人で間違いないと思います……」



 今泉マサキ――正に、会いたくない男性NO.1の、元夫だった。

 それを、どうダリルさんに伝えればいいのか……前世の記憶ですとも言えない気がする。

 でも伝えないと不審がられてしまうし、どうしたものかと思っていると――。



「そろそろ二人きりでいられるのは我慢の限界なんだけどな」

「あら、アシュレイ」

「アシュレイ!」



 まさかのアシュレイ登場に、私は驚き、ダリルさんは笑顔で「まぁまぁ!」と喜んだ。

 不機嫌そうなアシュレイは、ダリルさんが男性であることを知っているようだ。



「貴方も魔物討伐隊だから知っているでしょう? 例の指輪の事を」

「ええ、それを彼女に話したんですか?」

「ごめんなさいね。でも犯人の手掛かりになりそうなことを聞けたの。どうもラシュアはその犯人を知っているみたいで……でも何か言いにくそうだったから、貴方がいてくれた方が話してくれるかもしれないの」

「ラシュア、一体何を見て犯人が分かったの?」



 その言葉に私は何て言っていいか迷ったけれど……一か八かの賭けに出てみることにした。



「アシュレイ」

「ん?」

「月が綺麗ですね」



 その言葉にアシュレイはボッと顔を赤くすると、口を手で押さえて私から目をそらすと……。



「……もう死んでもいいぜ」

「アシュレイ! 何故あなたもその言葉を知ってるの!? 異国の愛を囁く言葉なんでしょう!?」

「あ……」

「逃がさないからね?」



 私の笑顔の言葉にアシュレイは何かを察したのか、溜息を吐くと私の隣に座った。

 そして、ダリルさんの持っている指輪を貸してもらい、内側に彫られている文字を読んで眉を寄せる。



「You can die already……か。恋人に贈る指輪としては最低最悪な言葉を掘ってるな」

「本当にね」

「どうしてアシュレイもラシュアもそれが読めるの? そして、どこでその言葉を知ったの?」

「それは……」



 私が言い淀むと、アシュレイは溜息を吐き、周囲を見つめて誰も自分たちの言葉が分かっていないことを確認すると、なんと、自分から私とアシュレイは転生者であることを伝えた。

 転生者……と言う言葉に馴染みのないダリルさんは首を傾げていたけれど……。



「つまり、前世の記憶を持って生きているってことだ」

「ああ……たまにいるって聞いたことがあるわ。それが転生者っていうのね」

「大体あってます。それで、そのイマイズミって名前で分かったと言うか」

「本当に?」

「ええ、実は……元夫なんです」



 この言葉に、ダリルさんは持っていたフォークを落とした。

 余りにも衝撃的だったのだろう。私は結婚の経緯、そして直ぐに結婚生活が破綻した上に愛人の許で20年過ごしていた元夫の事を語ると、頭を抱えて溜息を吐いた。



「前世でも糞野郎だったってのは、よ~~~~~く解ったわ」

「ご理解して頂けて何よりです」

「それに、私の前世の結婚指輪にも、先ほどの文字が彫られていました。多分死んでもいい、どうでもいい女性に対して送っているんだと思います」

「なるほどねぇ……けど、この文字を私が言ったところでイマイズミを捕まえることが出来るかしら」

「多分無理かと」

「でも、このままだと被害が増える一方よね……クリストファー男爵だけでなく、別の所に女性を運んでるとしたら……」



 私の言葉にアシュレイの表情が一瞬こわばった気がしたけれど、それに対して何かを聞ける雰囲気ではなかった。

 ただ解っていることが一つだけ……。



「餌が必要ね……でもこれ以上ラシュアを危険な目にさらすわけにはいかないわ」

「けど、適任者他にいます?」

「いないのよね」

「ダメだ!」



 ドン! と机をたたいたアシュレイに、店の客は私たちに注目した。

 それ程までに、いいえ、魔道具の波動を打ち消す程のオーラが一瞬で出たんだと思う。



「この話は此処までだ。ラシュアを会わせるわけにはいかない。またラシュアを昔のように苦しめると言うのなら……俺にも覚悟がある」

「……そうね、ごめんなさい。迂闊だったわ」

「分かってくれればいい」

「アシュレイ? どうしたの? 何か様子が変よ?」



 何時もの優しいアシュレイではなく、まるで激情に呑まれているような姿に私は驚き、そして心配になって彼の手をそっと握った。

 すると、まるで火のように熱かったアシュレイの手から力が抜け、私の方を見ると一瞬だけ泣きそうな表情を浮かべたのだ。



「大丈夫よ、アシュレイ。貴方も守ってくれるんでしょう?」

「ラシュア……」

「これ以上被害女性を増やすのは、私も許せないの……だから、手伝ってくれる? お願いアシュレイ」



 私の言葉にアシュレイは今にも泣きそうな表情をしていて、私から顔を背けると暫く沈黙したのち、覚悟を決めたように顔を上げて小さく頷いてくれた。

 今にも泣きそうな顔をしているのに……私の気持ちを汲んでくれたことに後悔と、そして不思議な喜びがあった。



「ありがとう……アシュレイ大好きよ」

「ラシュア……」

「はいはい、続きなら他でやって頂戴? 独り身にはキツ―――イ光景だわ」



 そう笑い飛ばしたダリルさんに私とアシュレイは顔を赤くしたけれど、アシュレイの優しさに付け込んだような気もして、やっぱり後悔の気持ちの方が大きかった。

 けれど、元夫の所為で苦しんでいる女性がいることが許せないのも強く、自分の気持ちをアシュレイに負担させてしまったことへの償いは、いずれ必ずしようと思っている。




 その後、家路へとつくとアシュレイに出来立てのご飯を作ってあげることが出来たけれど、アシュレイは元夫への事も、今回の指輪の事もあえて言わないようにしているように思えた。

 そこで――。




=====

予約投稿です。


転生者であることは隠し通せないよな~と言う事でカミングアウト。

ダリルさんだからこそ聞いてくれそうな気がした!

後悔はしてない!


そして久々のアシュレイ! 本当に久々に出てきたなぁ~と思いました(笑)

一応主人公枠の筈なんだけどな!

頑張れアシュレイ!!

此処まで影の薄い主人公は久々かも知れない……(;'∀')

ダリルさんが濃すぎるだけか?


これが投稿される頃、作者はゲッソリと疲れているだろうなと予想。

そして大体あってる状態だと思います(;´Д`)

そんな作者に、少しでもエールを下さると幸せになれます。

応援よろしくお願いします/)`;ω;´)

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