第14話 狂気に満ちた愛情をみまして。

 荷馬車でクリストファー男爵家の裏手に回った頃、一台の馬車が正門から入ってくるのが見えた。

 私たち以外に呼ばれているお客様でもいるのかしら……そんな事を考えながら花の搬送をダリルさんと一緒に行い、手持無沙汰も困るのでと言って荷馬車を運転してくれた貸し荷馬車の男性……ロバートさんも手伝いを手伝ってくれた。

 帰りも送ってくれると言うロバートさんに、暫く待っていてもらうことになることを告げると、今日は貸し荷馬車を使う客も少ないから待っていると告げられ、私とダリルさんは頭を下げてお礼を伝えた。


 しかも、このロバートさん……実はダリルさんのお友達だというのだ。



「昔からヤンチャしててぇ~! でも、今はお互い丸くなったわよねぇ!」

「ははは! オネェになったダリルには言われたくないなぁ! でも確かにお互い尖る時期は過ぎたよな~」

「嫌だわ、私が尖ってた時期なんて黒歴史よ!」

「気になりますねぇソレ」



 なんて言い合いしながら配達している間、緊張が少しだけ解れた。

 ダリルさんが尖っていた時代なんてあったんだ。

 ずっと昔からオネエサンでいたような気もしなくもないけれど、緊張も解れて会話していた頃、この家のメイド長だと言う方から私とダリルさんは屋敷に入る様に告げられた。


 でも、搬送していて思ったけれど……このお屋敷、なんか雇われてる人も、皆暗い表情をしているわ……。

 ダリルさんの袖をギュッと握り中へと入ると、薄暗い屋敷の更に薄暗い場所へと案内されていく。

 地下へ、と続く道だろうか?

 細い階段を下りていくと、そこには白い扉があり、中へ入る様に告げるメイド長に押され、私とダリルさんはお互い覚悟を決めて扉を開いた。



 するとそこには――広い空間、まるでダンスホールのような空間に、これでもかと敷き詰められたプリザーフラワーが飾られていた。

 空気が――違う?

 一瞬クラッとしそうになったのをダリルさんが支えてくれた。



「口と鼻をハンカチで押さえて。プリザーフラワーから出ている魔力酔いよ」

「魔力酔い……」

「森やモンスターがいる場所に、たまにこういう魔力溜まりが出来るの。結構体に毒だから気を付けてね」



 そう言って私を安心させようとウインクしてくれるダリルさんに頷き、私はポケットからハンカチを取り出して口と鼻元にあてた。

 周囲を見渡すと、まるで花園に座っているかのように一人の姿を見つけることが出来た。

 人形……だろうか?

 綺麗な服を着た女性の姿が見えるけれど、残念な事に片方の青い目は失われ、体の一部が欠けているようにも見える。



「これは……」



 そう私が口にした途端、後ろのドアが閉まる音と同時に現れたのは、赤黒い液体が入った水差しを持ったクリストファー男爵だった。



「やぁ! どうだね私の秘密基地は! 愛しいロザリーと共に過ごす素晴らしい部屋だろう!?」

「そうですね、この魔力溜まりがなければかしら?」

「魔力溜まりを知っているのかね! 中々に博識の様だ。 だがこの魔力溜まりがないと、彼女は美しい姿を保っていることが出来ないのだよ」

「美しい姿を保つ?」



 私の言葉にクリストファー男爵は強く頷き、赤黒い液体の入った水差しを手に、ロザリーと呼ばれた人形の元へと向かう。

 そして、少しだけ開いている口に流し込むと、人形は一瞬動いたように見えたけれど、力の宿っていなかった瞳に生気が宿るような気がした。



「あ……ぅ……クリス……」

「喋った……」

「失礼なことを言う妹さんだね、勿論喋るとも! 出来れば月に一度はこうしてお喋りしたいほどにね! あぁ……愛しいロザリー。今日は何を囁いてくれるんだね?」

「どういうことです? 人形じゃないんですか?」

「人形なはずないだろう? ロザリー・ヘロンは、私の唯一愛した婚約者。彼女の美しさに嫉妬した女により毒殺された、愛しい私の妻だよ」



 信じられない言葉に私は手にしていたハンカチを強く口に押さえつけた。

 そうでもしないと悲鳴を上げてしまいそうだったから。



「この魔力溜まりの中で、彼女と同じ血液型の女性の血をね、これだけ一気に、新鮮なうちに飲ませることで、ほんの少しだけお話が出来るんだ。魔力溜まりの毒なんて、ロザリーの為なら私はいくらでもその身を毒に冒されてもいいくらいだよ」

「つまり……この屋敷で女性が一人か二人くらい死んだってことかしら」

「いやいや、生きているとも。流石に使い物にならなくなったら、何時も新鮮な女性を連れてきてくれる【彼】に頼んで引き取ってもらうけれどね。だが、彼女たちの犠牲なくしてロザリーが輝くことはないんだ。何故なら女性の嫉妬で愛しい彼女は命を落としてしまったのだから。だから世の女性はその罪を償うために生きているんだよ?」

「御託はいいわ。私たちを呼んだ理由を教えて頂けるかしら」



 私を庇いながらそう口にしたダリルさんに、私は彼の腕から見える異様な光景から目が離せなかった。

 肩を震わせ笑うクリストファー男爵は「中々に気が強い女性だ!」と声高らかに言ったけれど――。



「ロザリーはね、魔力溜まりに長くい過ぎたせいで体の結晶化が進んでしまったんだよ……あんなにも美しかった青い瞳が片方結晶化して砂になって落ちてしまった……。それだけじゃない、彼女の右腕も、両足も……これじゃあ一緒にデートすることが出来ないじゃないか」

「……まさか。私たち二人の体のどこかをパーツにするつもり?」

「その通りだよ! 君は実に頭の回転が速い!」

「馬鹿にしないで欲しいわね! そんな気味の悪い死者のパーツになるなんて真っ平ごめんよ!」

「――気持ち悪いだと!? よくも私の愛しい妻に向かってそのような事を言ったな!」



 逆上したクリストファー男爵の叫び声に、物陰から三人の男性が出てくると、それぞれが武器を手に私たちの元へとにじり寄ってくる。



「安心したまえ、闇医者だが腕は確かだ。君たちの体の一部を貰えれば……ああ、妹さんは右手と両足を頂くがね? そうすればロザリーはまた昔のように美しい姿に元通りだ」

「狂ってるわね……そこまで狂う程愛した女性は、何か言いたそうだけれど」



 ダリルさんの言葉にクリストファー男爵はハッとした様子でロザリーの元へと駆け寄ると、ロザリーは小さく何かと呟いているようだった。

 けれど、はっきりとは聞こえない。唇を読むことが出来ない私にとっては、ロザリーが何を語っているのかまでは解らなった。

 ただ――。



「大丈夫だよロザリー、これで君の手も足も眼も元通りだ……愛しい君が元の姿に戻れるのなら――」



 ――私は魂さえも悪魔に売り渡そう。

 ――四肢すら与えても構わない。

 ――君さえ、愛しい君さえいてくれれば。



「来るわよ!」

「きゃ!」



 ダリルさんの言葉と同時に、私は彼の肩に担がれるように抱き上げられ、まさかの命がけの鬼ごっこがスタートしてしまった。







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 予約投稿です。


 狂気に満ちた愛情……個人的に好きです(笑)

 いざ書くとなると難しいんですよねぇ。

 それが愛情ではないと言う考えと、それも愛情の一つだと考える事も出来ますが

 私個人としては、普通の愛情が良いなと思ったけれど


 普通の愛情が一番難しいんじゃないか?


 なんて考える辺り、私の頭も中々に可笑しいのかもしれない(;'∀')


 皆さんの愛情はどんな愛情なのでしょう。

 欲しい愛情はどんな愛情でしょう。

 取り合えず、言えることは


 理想の愛情は、第一弾のジュリアス様だったんじゃなかろうか。


 と、思う作者がいます(笑)



そろそろ仕事もリアルでは大詰めになっている頃だと思いますが

そんな作者に頑張れのエール、ハート等ありましたらよろしくお願いします!

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