第13話 ダリルさんが暗躍してまして。

 ~アンダーソン兄妹side~



「ロザリー・ヘロン伯爵令嬢についての情報が欲しいの♪」



 そう言って屋敷に帰ってきた女装した兄を見た僕は、頭を抱えて溜息を吐いた。

 僕の名は、アラン・アンダーソン……この吟遊詩人と言うジョブを最大限に生かしつつ、各国の情報をゲットしまくっていた諜報部の元トップ、ダリル・アンダーソンの弟だ。



「兄さん……貴方の職業は?」

「王妃様からのご命令でぇ~……今は花屋勤務です!」

「それは表向きでしょう? 本当の職業をお答えください」

「もう、頭の固い弟ね! はいはい、王国諜報部幹部、ダリル・アンダーソンです! でも仕方ないじゃない、エリオさんからも花屋で城下町の情報を集めてくれって言われてるんですもの」

「まぁ、そうですが」

「それで、可愛い弟と妹たちに、ロザリー・ヘロン伯爵令嬢の事を詳し~~~く調べてきて欲しいの。花屋の女の子たちが目を付けられちゃってぇ~」

「アリミアさんが!?」



 僕の片思いの君……アリミアさんが目を付けられたとあっては居ても立ってもら入れない!

 しかし、僕のこの反応に兄は、ニヤァ……と、家族にしか見せない嫌な笑みを浮かべると、「へぇ……アリミアちゃんがねぇ……ふーん?」と口にする。

 ――迂闊だった。

 けれど、時すでに遅し……兄はツカツカとヒールを鳴らして僕に歩み寄ると、僕の肩に手を置いた。



「頑張ってくれるなら……アリミアちゃん、紹介してもいいわよ?」

「え!?」

「アリミアちゃんだけ彼氏いないのよねぇ~……狙うなら今よ、ねぇ?」

「メル!! メル―――!!!」



 僕は踵を返すと部屋に戻ってきている妹のメルの部屋へと駆け込んだ。

 ノックもせずドアを開けると、メルは柔軟体操中だったらしく、驚きながら僕と久しぶりに帰宅した兄を見た。



「緊急任務だ!!」

「緊急!?」

「そうなのよぉ……メルちゃんに、ちょちょっと調べてきて欲しいことがあるの。それを後は私とアランに伝えてくれたら助かるわ♪」

「お兄さま! お帰りなさいませ!!」

「いやん、お兄さまだなんて、お姉さまって呼んで欲しいのに……まぁ良いわ。実は――」



 兄から語られた内容は、要約するとこうだ。

 クリストファー男爵家では、大量のプリザーフラワーを所望していること。

 そして、既に大量のプリザーフラワーを所持しているにもかかわらず、更にもっと欲しいと言われていること。

 あぁ……愛しの君であるアリミアさんが疲労で倒れてしまう……。

 話は脱線したが、更に言うと、彼はロザリー・ヘロン伯爵令嬢そっくりの人形を持っていると言う事だった。

 ロザリー・ヘロン伯爵令嬢と言えば、社交界ではとても人気の高かった女性で、数年前、パーティー会場で毒物を飲んだらしく亡くなっている。

 その死後、埋葬されたはずの彼女の遺体は盗まれ、今に至る訳だが……。



「きな臭いですね」

「そうなのよぉ……それに、彼女の友人として私とラシュアちゃんが行くことになったんだけどぉ……」

「それが何か問題があるんですか?」

「貴方たち、バーサーカーの悲劇って知らない?」

「知ってます! 愛した女性を失ったバーサーカーが国を滅ぼしそうになる程暴れたって!」

「そうなのよ! ラシュアちゃんの彼氏、バーサーカーなの」



 その一言に、僕と妹は持っていたカップを床に落とした。


 バーサーカー。

 本気になれば、国の半分の冒険者が死ぬほどの強さを持つジョブであり、ハズレジョブなんて言われているのは、単に恐れられているからだと言われている。

 また、強さが故に子供のうちに間引きされ、成人しているバーサーカーの方が少ない程だ。

 騎士団や護衛騎士団、冒険者が束になってやっと止めることが出来るほどの力を持つバーサーカーと付き合うラシュアと言う女性……強いっ。



「――って、いやいや、そうじゃなく」

「落ち着いてアラン」

「本当にバーサーカーの彼女を連れていくつもりですか? 悲劇が起きる可能性は?」

「それが無いようにする為に、私たち諜報部と騎士団が動くんでしょう? もっと柔軟な考えを持たないとダメよぉ?」

「分かりました! この国でバーサーカーの悲劇が起きないためにも、全力を尽くします!」

「よろしくね」

「僕もアリミアさんの為にも頑張ります!」

「欲望に忠実で素晴らしいわ!」





 ――となったのが、一週間前。

 メルから上がってきた報告書に目を通すと、僕はこの報告書をエリオさんに渡すのが怖くなった。

 何故なら、ロザリー・ヘロン伯爵令嬢は……エリオさんの姉だからだ。

 胃に穴が開きそうな気持を抑え、僕とメルはエリオさんの元へと向かい、調査報告書を兄の分も含め渡すと、内容を読んだエリオさんの瞳には増悪の色が滲んで見えた。



「……間違いないな?」

「はい、間違いない情報です」

「ロザリー様は……」



 ――生きている。

 それも……プリザーフラワーの魔力を吸って、生きている。


 いや、生きていると言う言い方が可笑しいかもしれない。

 彼女は死んでいるのに、死者の国から呼び起こされたかのように目を覚ましたように見えるが……時折、とある冒険者の紹介だが、若い娘で魔力の波動が合う者をクリストファー伯爵は連れていき、血を与えていたようだ。

 そして、逃げ出そうとした場合、その冒険者に再度頼んで魔物のエサにしていたらしい。



 女性に困っていないその冒険者は、自分のハーレムから女性を売りさばいていたのだ。



「この冒険者の情報は?」

「まだ追っている状態です。ですが、丁度ハーレムの女性達のうち、数名も、兄であるダリルが屋敷に行くときに連れて行かされるそうなので……」

「そこで捕まえるしかないか。だが自分のハーレムから女性を売りさばくとはな」

「飽きたら売りに出してる感じですね」

「最低な野郎だな。情報は理解した、直ぐにこちらも手配する」

「「はい!」」



 こうして、僕たちも兄とラシュアさんが屋敷に向かう日、現場を抑えるために、静かに、かつ迅速に向かう事になる。






=======

予約投稿です。


第一弾の「妻は悪役令嬢(?)で押しかけ女房です!」でも登場したエリオさんと

そこで出てきた新しい現騎士団団長家(名前は出てなかった)がここで登場しております。

こっそり繋がらせると言うやり方ですが、第一弾から読んでいる読者様からすれば、懐かしいのではないでしょうか(笑)


ダリルさんが何気に動き回ってますが、もうちょいだけダリルターンが続きます。

出来ればお付き合い頂けたら幸いです。


そして、やはりオネェは強い伝説。

うん、オネェキャラって大体最強だよね。

大好物です。

ダリルさんを主人公に小説書きたいくらい気に入ってるキャラでもあります(笑)

そのうち書けたらいいな~。


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