第12話 危険手当が出るようでして。

「花屋の三姉妹を出したまえ」



 急に現れた如何にも……な感じの貴族らしき男性が、花屋に乗り込んできた。

 ルシールさんもマダリアさんも警戒したけれど、男性は自分が貴族であることを盾に、私たち三人を呼びつけたのだ。



「クリストファー様、彼女たちは娼婦でもなんでもありません。何故お呼び出しを受けねばならないのでしょう?」



 毅然とした態度で前に出たルシールさんに、周囲の私服護衛の方々もピクリと動いたようだ。



「美しい三人娘だそうではないか。我が愛しの君の友人になって欲しくてね」

「愛しの君というと……昨日お話に出た、かの方でしょうか?」



 ――え?

 愛した女性に模して造られた人形の相手欲しさにやってきたの!?

 ゾッと背筋に鳥肌が立ったけれど、ダリルさんが私たちにウインクするとルシールさんの元へと歩み寄っていく。



「あら、三人娘なんて言われてるの? 四人娘の間違いではなくって?」

「おお……」

「初めまして、“長男”のダリルと言います。妹たち恥ずかしがりやだから……ごめんなさいね?」

「いやいや、なんともまぁ美しい女性ではないか!」



 急に気をよくしたクリストファーは、ダリルさんに歩み寄り頭の先からつま先までジッと商品でも見定める様に見つめると――。



「胸はまぁ無いが……中々に美しい女性ではないか。是非私の愛しの君の友人になってはくれないかね?」

「愛しの君は名前は何と仰るのかしら?」

「ロザリーだ。美しい名前だろう?」



 愛しの君の名前はロザリー。

 多分、今は亡き愛した女性に模して造られている人形だから、ロザリーと言う名前もその人から取ったんだろうけれど……なんとも気持ちが悪い。



「ロザリー・ヘロン伯爵令嬢かしら?」

「おお、知っているのかね!」

「ええ、とてもお美しい女性だったと聞いているわ。若くして亡くなったとも」

「彼女は生前、プリザーフラワーをとても愛していた……もっともっと沢山のプリザーフラワーを持ってきて貰わねばならないのだよ。そして彼女の良き友人になって欲しい」



 まるでロザリーが生きているかのような話し方……。

 一体ロザリー・ヘロン伯爵令嬢とは、何時亡くなった女性なのだろうか?

 若くして亡くなったとダリルさんは言っていたし、随分昔なのかもしれない。



「近々我が家に来てくれないかね? ああ、無論プリザーフラワーを持ってくる時で構わないよ。その時は是非君の妹たちも来て欲しいものだね!」

「ふふ、伝えておきますけど、何分恥ずかしがり屋の平民ですので、少しだけ、お広い心で許して頂けるところがあれば幸いですわ」

「はははは! 良かろう、ではせめて君ともう一人、姉妹のうち誰かを連れてきてくれたまえ。精一杯おもてなしをしよう」

「ありがとうございます」



 ダリルさんが頭を下げてお礼を伝えると、クリストファー男爵は馬車に乗り込み去っていった。

 一体何が言いたかったのか分からないけれど、取り合えず今は亡きロザリーに模して作られた人形の友人として来て欲しいと言う事だろうか。

 それにしても……。



「……ロザリー・ヘロン伯爵令嬢の遺体は、盗まれたと聞いているわ」

「え!?」

「実物を見ないと何とも言えないけれど……まさかね」

「まさかというと?」

「うーん……プリザーフラワーをそこまで大量に欲しがる理由が引っ掛かるの。プリザーフラワーは魔法を凝縮して花に永遠の命を与えるわよね?」

「ええ」

「近年、そのプリザーフラワーを使って、死者を腐らせない、死者を美しいまま保存すると言う方法が分かってきたんですって。だからまさかね……って思ってるんだけど。想像の域を出ないわ」



 もし仮にダリルさんの言う事が本当ならば大問題に発展することは目に見えて分かった。

 けれど、魔物討伐隊のアシュレイに話すべきことでもないかも知れないし……本当にロザリーに似せて作った人形なのかもしれないと思うと、判断に困る。



「ま、何とかなわるよ。私の知り合いに一人イイ人いるから、ちょっと探ってもらうわ♪」

「なんか、楽しそうですねダリルさん」

「あら、だって危険手当貰ってるんですもの。これくらいの事は危険なうちには入らないけれど、吟遊詩人の性からか、とても惹かれる内容だわ」



 とても嬉しそうに話すダリルさんに私が遠い目をすると、ダリルさんは「もう!そんなオバサン臭い顔しちゃダメ!」と私のおでこをデコピンしてきた。

 だって、今は確かに20代ですけど……転生前は40ですからね? オバサンでしたよ。



「今回お呼ばれしちゃったから、一緒に行く姉妹は……マーガレットちゃんはダメね、顔面蒼白で固まってるし、アリミアちゃんも以下同文ね」

「え!?」



 ダリルさんの言葉に後ろを振り返ると、二人は「無理無理」と首を横に振り、クリストファー男爵の家に行くことを拒んだ。



「ってことで、仕方ないからラシュアちゃん、一緒に行きましょうね」

「え――……」

「大丈夫、前もって情報は手に入れてくるから♪ それに、騎士団には私の知り合いもいるから声を掛けておくわ」

「……決定事項なんですね、分かりました。せめて私にも危険手当ください」

「それは、私の方からリコネル様にご連絡しておきます」

「力及ばずごめんなさいね……」



 ルシールさんとマダリアさんに頭を下げられたら仕方ない。

 腹を括ってダリルさんについていこうと決めた。



 ――それから一週間後。

 ダリルさんは何かしらの情報をゲットしたようで、内容までは私に語ってくれはくれなかったけれど、プリザーフラワーも注文分が出来上がり、荷馬車に揺られながらクリストファー男爵家へと向かうことになった。


 ちなみに、危険手当は出してもらえた。

 この危険手当を何に使うかを考えながら……暫くざわめく心を抑えて屋敷の門を潜り、花のお届けに向かうその頃――。






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予約投稿です。


ダリルさん活躍中!

暫くはダリルさんターンが続きますが、ここで一気にファンが増えそうな気がする。

かくいう作者もダリルさん書くの楽しいです(笑)


この時点で、皆さんどのキャラが好きなんでしょうね。

アンケート取ってみたい気もするけど、時間が無いのでそのうち

ツイッターの方でアンケートしてみようかなぁ……。

もしコメントで好きなキャラを教えて頂けたら幸いです!


また、応援などありましたら

ハートや★での応援よろしくお願いします/)`;ω;´)

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