狂った愛情を見ることがありまして!
第11話 新しく入った従業員さんはオネェさんでして。
「と、言う訳で、アシュレイさんとお付き合いすることにしました」
「おめでとうラシュア!!」
「……おめでとう」
「良いわねぇ……青春だわぁ」
と、四人で集まる昼食時。
新しく入った方は――前世で言う、オネェさんだった。
名前はダリル。吟遊詩人としてあちらこちらの酒場などで歌っていたらしい。
腕っぷしも強く、いざと言うときはジョブスキルを使って私たちを守る契約もしてある為、危険手当付と言う待遇だった。
「それでぇ? マーガレットちゃんはどうなの?」
「え?」
「ローランと良い仲なんでしょう? オネエサンはオミトオシよ?」
「それはまぁ……何というかな、もう実は既にお付き合いしてるの」
「「え!?」」
驚く私とアリミアとは違い、「やっぱりねぇ~」とにこやかに語るダリルさんに、私とアリミアはマーガレットにお祝いを伝えた。
どうやら、ローランさんが遠征から帰宅して告白したらしい。
即答でOKを出したマーガレットに、ローランさんは「一生大事にするから……」と照れながらもシッカリと口にしてくれたのだと言う。
「凄いなぁ……」
「ラシュアはアシュレイからの告白でしょ?」
「ん――決め手は私だけど、そうなるかな?」
「バーサーカーの花嫁……ジョブ強し……」
「あら、バーサーカーの花嫁って言うジョブなの? 素敵じゃない!」
「あはは……」
ダリルさんは目を輝かせて根掘り葉掘り聞こうとしたけれど、私はスルースキルでやんわりと言葉を濁しつつ逃げて行った。
ダリルさん……恋愛話への食いつき方が凄い。
けれど、色々な地域を回って、色々な国を渡り歩いた元冒険者。数々の恋愛模様も見てきたようで、私とアシュレイの仲は「まるで仲のいい夫婦よ♪」と嬉しそうに口にしていた。
仲は実際良い方だと思う。
昨日は申し訳なさそうに、任務ついでになるけれど、今度宝石店でアクセサリーを買ってくれると言ってくれたし、私の気持ちが固まったら、一緒に家を見に行こうとも言ってくれた。
前世では一軒家に住む事すら出来なかった夢。
それをアシュレイは「夫婦となるなら一軒家は欲しいんだ」と笑顔で伝えてくれて、でも買うにしても貯金は? と聞くと、かつかつな生活なのは間違いなかったようだけれど、毎回貯金分は抜いての生活だったらしく、貯蓄は結構あるらしい。
――将来設計よくできてる男性だと思う。
自分たちの将来を安心して任せられる男性はとても貴重だ。
「花嫁ってことは、結婚したらバーサーカーの妻になるのね」
「まぁ、そうなりますね」
「貴重だわぁ……バーサーカーの妻になる女性って、私見たことがないの。貴女が第一号よ」
「そうなんですか?」
「ええ、何より力の強さもあるけれど、理性をぶっ飛ばして相手を叩きのめすのがバーサーカーなのよ? 夫婦喧嘩にでも発展しようものなら殺されてしまうわ」
「それでもいいんですよ。彼とは本気でぶつかり合いながら、一緒に歩んでいきたいと思っていますから」
「フフ、応援してるわね」
ダリルさんの言葉に私は微笑み、今日も今日とて沢山入ってくるプリザーフラワーのアレンジを作った。
しかし……先日からプリザーフラワーのアレンジや花束の注文が殺到している。
リコネル様の出した本にでも書いてあったのか、はたまた別の小説家さんの本に書いてあったのか知らないけれど、それらは全て、男爵家からの注文だった。
花を配達するのはルシールさんだけれど、ルシールさんも首を傾げていたのだ。
「お帰りなさいルシールさん、アレンジと花束は喜んでいただけましたか?」
「ええ、喜んでいただけました。ですが花束をあと100追加で作って欲しいと言われましてね……」
「ええ!?」
「何でそんなに必要なのかしら?」
「……意味わからない」
そう、永遠に枯れることのないプリザーフラワー。
それらは、聖なる魔法を使える人物が作ったものほど長く持つのだと最近の研究で明らかになってきた。
それゆえに、軽い回復魔法が使える私も一応プリザーフラワーを作ることは出来るけれど、今は専門の人たちが作ってくれている。
「なんでも、愛した女性に模して作った人形を、プリザーフラワーで埋め尽くしたいらしいんだよ」
「……それって」
「……歪んだ愛ね」
「うん……ちょっと引いちゃう」
「でも、実際そういう歪んだ愛の持ち主って凶器なのよね……うちの従業員たちは大丈夫なのかしら?」
ダリルさんの言葉にルシールさんは溜息を吐くと「女性を連れてこいとは言われました」と呆れたように口にした。
「ですが、女性を連れてこいと言われても、あなた方は娼館婦でもなんでもないんですから、呼ぶ意味がありません。相手方にも女性を招きたいのであればそういう場所でどうぞと伝えています」
「ですよね」
「気持ち悪い男性ですね」
「でも仕事は仕事だもの、シッカリとこなさないとリコネル王妃様の名に傷がつくわ」
「「むぅ……」」
「それもそうねぇ……女性なら誰でもいいのであれば、私が行こうかしら」
ダリルさんの言葉に皆が彼を見つめると、ダリルさんはクスクスと色気のある笑いで「だって気になるじゃない」と笑った。
確かに気にはなるけれど……危険を冒すのはどうかと思う。
「だったら、私も行きます」
「ラシュアちゃんはお留守番よ」
「でも……ダリルさんだけ危険な目には」
「あなたが危険な目にあうと、この国でバーサーカーの脅威が生まれてしまうの。だからちょと我慢してね」
バーサーカーの脅威……。
つまり、アシュレイが暴れ来るって相手の家を破壊する可能性があると言う事だろう。
相手は男爵とは言え貴族だ、アシュレイに苦労をさせるわけにはいかない。
「分かりました。でも気を付けてくださいね?」
「勿論よ。話す機会があるなら色々聞いてみたいところね」
「情報収集上手そうですもんね」
こうして、次の100本の花束を作り終われば、ダリルさんとルシールさんとで花の配達に向かうことが決まった。
無論、ダリルさんは女性と偽っていくようだけれど、多分男性とは思わないだろうなぁ……と見ていて思う。
綺麗なタレ目に泣き黒子。
ふっくらとした桜色の唇な金髪美人……。
体は男性らしいかと言われると、中世的と言える体つき。
それで腕っぷしは強いっていうんだから驚きだわ……。
取り合えず、今私たちに出来るのはリコネル園芸店にプリザーフラワーの追加注文と、今店にあるプリザーフラワーで花束を必死に作ること!
仕事はシッカリとこなさないとね!
シッカリと仕事はこなすけれど……今日の夕飯はどうしようかな。
それに、このプリザーフラワーの注文が終われば、臨時ボーナスが出ることになっているみたいだし……何を買おうかしら。
それとも、私もアシュレイに何かプレゼントするべきかしら?
「う―――ん……」
「悩める乙女、可愛いっ」
「ダリルさんも綺麗ですよ」
「ありがと♪」
悩める乙女か……これでも前世では40でしたが。
でも、女性は何時まで経っても乙女なのかもしれないなと、何となく思ったその次の日――まさかの事態が待ち構えていた。
=====
予約投稿です。
ダリルさん、書いててすんごい楽しいキャラですw
今後も沢山出てくるんですが、キャラが濃すぎてアシュレイが霞んで見えるかも知れない……頑張れアシュレイっ!
ダリルさんは強敵だぞ!!(笑)
さて、このプリザーフラワーを沢山頼む客、どんな人なのか……。
次回、不穏な空気を醸し出しつつですが、是非お楽しみに!
また、ハートや星での応援がありましたら、仕事疲れも吹き飛びます!
コメントに関しては、出来るだけその日のうちに返すように心がけますので
コメントがありましたらお返事致しますね(`・ω・´)ゞ
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