第10話 何気ない幸せが欲しかったことに気づきまして。
アシュレイとローランが遠征から帰宅した日。
ちょっと疲れた様子の二人に「お帰りなさい」が言えた日。
そして……「ただいま」と手を振ってもらえた嬉しい日。
その時、私の中で何かが弾ける様に楽になった。
「いってらっしゃい」が言える幸せ。
「お帰りなさい」が言える幸せ。
そして、「ただいま」を言ってもらえる幸せを、前世では味わえなかった何気ない、本当に何気ない幸せが、私は欲しかったのだと――気づいた日。
この世界には、一応前世で使っていたようなコンロが売っている。
ガスではなく、魔石で火をつけるものだけれど、私は初めての給料で奮発して買った生活必需品の一つだ。
それが今は二台ある。
と言うのも、アシュレイが遠征に行ったその日に私は気が付けばコンロや食器を買っていた。
アシュレイの食べっぷりを見て嬉しくなったからというのもあるし、何より本当に美味しそうにご飯を食べて、おかわりまでしてくれる姿が嬉しかったから。
それに、お米を炊くならガス火炊きは絶対に美味しい!
アシュレイの為に、出来立てのご飯を食べさせてあげたかった。
「と、言う訳でここが、日本人が好みそうな食材が売っているお店です」
「ここが聖地か!」
遠征から帰宅した次の日、私はお休みを貰いアシュレイと共に日本食に近い調味料を売っているお店へと一緒にきていた。
中に入ると、味噌に醤油といったなじみ深い物も幾つか存在しており、きっと転生してきた人が作っているものだろうと勝手に思っている。
アシュレイは、まるで宝物を見るかのように店を見て回り、遠征に持っていく用の醤油と味噌を購入していた。
私は別の商品を探し、いくつか買い足しすると、アシュレイも買い物が終わったらしく、一緒に家路へとついた。
そして、二度目となる私の部屋へ入ると、コンロが一つ増えていることに気づいたようだ。
「あれ、コンロ買ったの?」
「うん、やっぱり炊き立てご飯って食べたくない?」
「食べたいね」
「その為のオニューコンロです」
「今度何かでお返しします」
そう言って頭を下げる彼に思わずクスクスと笑い、私は料理に取り掛かる。
日本食に近い物……この前はお野菜が沢山貰ったから鍋にしたんだっけ。
今回は白米もある。普通の白米で食べるのも美味しいけれど、今日は丼物を作ろう。
親子丼、牛丼、……どれがいいかしら。
「えっと、ラシュア」
「んー?」
「今日は丼物だよな?」
「うん、どれにしようかなって」
「出来ればリクエストがあるんですが、宜しいでしょうか?」
――リクエスト。
――料理へのリクエスト。
胸が震えるほど嬉しい言葉に顔を上げてアシュレイを見ると、ちょっとだけ頬を染めて「食べすぎッて言わないでね?」と言ってから――。
「親子丼食いたい……でも薄切り肉もあるんだよね?」
「そうね」
「肉巻きおにぎりとか難しい……かな?」
「簡単に作れちゃうわよ?」
「じゃあその二つ!!」
「そんなの全然贅沢とか迷惑とか思わないから、ちょっと待っててね」
両手を合わせてお願いするアシュレイに私は笑い、親子丼と肉巻きおにぎりを作ることにした。
肉巻きおにぎりを注文するあたり、やっぱり男性なのよねぇ……女性だったら厳しいもの。
やっぱり沢山食べてくれる人がいてくれると幸せだわ。
そんな事を思いながら、ササッと作れる親子丼は後で作るとして、まずはお米を仕立てるところから始めた。
昔はガス炊きをしていたこともあり、感覚はまだ覚えていた。
この異世界の白米が日本の物と近いのかどうかは分からないけれど、美味しく炊けますように……。
次に肉巻きおにぎりのお肉を用意し始める。
甘辛いタレの肉巻きおにぎりは、食べるだけで胃に凄くたまる。
これはアシュレイ用かしら?
ついでに親子丼にあうスープを作ろう。
味噌汁にするか、卵スープにするか……肉巻きおにぎりが味濃いめだから卵スープかな?
そんな幸せなことを考えながら料理を作っていると、ふと視線が気になりアシュレイを見ると、アシュレイは凄く幸せそうな表情で私を見ていた。
「どうしたのアシュレイ」
「いや……良いものだなって……俺も何か手伝った方がいいんだろうけどさ」
「座ってていいわよ。遠征で疲れるでしょう?」
「まぁ多少は」
「それに、この部屋ちょっと手狭だしね」
「じゃあ、片付けは手伝うよ」
「ありがとう」
そうこうしているうちにご飯は炊きあがり、土鍋で炊いたお米の香りが物凄く食欲を沸かせてくる。
アシュレイなんて涎が出ているのにも気が付かないようで、私がティッシュを手渡すとハッと我に返ったみたいだった。
「もうすぐ出来るからね」
「待ってる」
嬉しそうに口にするアシュレイに私は頷き、肉巻きおにぎりを作り出す。
綺麗に巻いたら最後にゴマを一振り……。
空いたコンロで今度は親子丼を作り、何気にアシュレイ用にと買ってきていた大きな丼ぶり茶碗に炊き立てご飯を沢山入れて親子丼を仕上げていく。
「ん~~良い香り!」
「待ちきれない!」
「じゃあご飯にしよっか。卵スープもあるからね」
「配膳手伝うよ」
「ありがとう」
こうして、小さな机に二人分の料理が並び、お互いに「いただきます」と口にしてから食べ始めた。
確かにお米だった。
日本米に本当に近い、異世界なのに凄い!!
お米は多少お値段が高いけれど、これは買って損はない味だわ!
アシュレイはと言うと、無言で親子丼をかきこんでいた。
余程お腹がすいていたのか、それとも懐かしい故郷の味に感動しているのか分からないけれど、貪るように食べていた。
そして肉巻きおにぎりを食べ始めると、涙をポロポロとこぼし始めた。
「美味しい……美味しいっ」
「アシュレイ落ち着いて」
「母さんの味付けと一緒だ……本当に美味い……生きてて良かったっ」
「一度お互い死んでるけどね?」
ティッシュを手渡し、私も親子丼を再度食べ始める。
前世では私が料理をしても両親は美味しいとも言ってくれなかった。
それどころか「離婚だけはするなよ」と毎回くぎを刺す嫌な時間だった。
――それが今はどう?
アシュレイは涙をそのままに、美味しい美味しいと言いながら食べてくれる。
乱暴に涙を拭い微笑む姿は……可愛くて……愛しくて……守りたくて……。
「――……また、行ってらっしゃいって言わさせてくれるなら……ただいまって言ってくれるなら……」
「ラシュア?」
「それなら……付き合っても良い」
自分でも何を言っているのか分からなかった。
けれど、口から言葉が止まらなくて……でも言い終わった後、アシュレイは箸をポロリと落とし、呆然とした後、頭から湯気が出そうなほど真っ赤になった。
「お」
「お?」
「お付き合いお願いします!!」
「こちらこそよろしくお願いしますね」
自分でも驚くほど嫌じゃなく、すんなり彼を受け入れることが出来た。
========
予約投稿です。
他の恋愛小説だと分かりませんが、10話目にしてやっとお付き合いスタート!
何気ない幸せ、肩の力が抜けるような安心感。
大事ですよね。
お付き合いするうえで必要なのは顔だけじゃない。
相手に求めるのは包容力と安心感も大事だと思います(`・ω・´)ゞ
まぁ、個人差はありますけど、私は少なくとも安心感が欲しぃ……。
男性はまず見た目から入ると言われていますが
女性は相手の持つ包容力をみるんじゃないかなぁ……(何となく)
取り合えず、おめでとうアシュレイ!!
君の何気ない一言が彼女ゲットに繋がったよ!
個人的にはちょっと付き合うまでが長かったかなぁ~なんて思いつつも
取り合えず第一関門はクリアと言う事で!
まだまだ予約投稿は続きますが、応援ありがとうございます!
この小説が出た頃は忙しさMAXになっていると思うので
応援があると頑張れます!
楽しかったよと言う方はポチッと応援してくれると嬉しいです/)`;ω;´)
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