第9話 アシュレイがお仕事に出かけまして。

 ~アシュレイside~



 遠征先は、王都からほど近い森で大量のゴブリンが沸いたと言う情報からだった。

 ゴブリンは人間の女性をかっさらって子供を産ませ繁殖する……つまり、女性が捕まっている可能性が極めて高いことがうかがえる内容だった。

 だが、ここ最近、王都では女性が行方不明になる話なんて聞いていなかったし、一体どういう訳でこうなってしまっているのか理解が出来ない。


 今まさに、ゴブリン達が村の建設をしている様子を見ていた俺たち魔物討伐隊は、首を傾げていた。



「王国で女性が行方不明とかいう話は?」

「聞いたことがありません」

「冒険者が捕まったと言う情報も?」

「聞いたことがありませんね」

「では何故、あんなにも沢山の女性が捕まっているのかね?」



 そう怒りを含ませて口にしたのは副隊長だった。

 目下に広がる女性たち。

 ゴブリンを出産しては次の出産に向けてと言う光景に眉を寄せ、捕まっている女性たちは助からないだろうと判断を下した。

 ざっと5人の女性たち。

 近くに落ちている服は彼女たちのものだろう。

 町娘であったであろう服の痕跡、冒険者であったであろう装備の痕跡が見受けられ、どちらもゴブリンの元に連れてこられてこうなったかのような異様な光景だった。



「あのままでは苦しいだろう。直ぐに楽にしてやることが我々の任務と思え」

「はい!」



 ――こうして、ゴブリン狩りが始まった。



 沢山のゴブリン相手は多少なりと苦戦するが、それほど強い敵と言う訳ではない。

 魔法を使うゴブリンが多少厄介なだけで、後は雑魚同様と言って過言ではないし、ゴブリンナイトやキング等も沸いていたが、多種多様のジョブで挑む魔物討伐隊にとってはちょっと戦いづらい敵程度のものだった。


 しかし、ゴブリンキングの宝箱から、意外なものが出てきたのだ。



「副隊長、此れは?」

「連れてこられた女性たちの物のようだが……これは指輪か?」



 モンスターは宝を貯めこむ習性がある。

 その宝の中に、5つの同じ指輪が入っていたのだ。



「……誰かが女性たちを食い物にして、必要がなくなったらここに?」

「馬鹿なことをいうもんじゃないぞ? それではまるで女性を食い物にしているかのようではいか」

「でも実際そんな痕跡ですよ。行方不明連絡が出てないのも、もしかしたら……」

「むう」



 誰かと付き合っていて、必要がなくなったからゴブリンに与えたのか否か……謎が深まった。

 とは言え、こんな鬼畜の所業をするなど、早々考えられることではない。

 考えられることではないけれど……。



『サチヨさんの元夫は本当に下衆なので、いうなればそうですね、貴方も噂にくらいは聞いたかと思うですが、火炙りの刑になった元王太子の話。例えるならそういう下衆なんで、本当に気を付けてくださいね』



 ふと、栗崎の言葉が脳裏を過る。

 いや、そこまで下衆な男ではないと信じたい……。

 だが5つの指輪がどれも同じように作られているし、犯人は男性だろうと言う結論に副隊長も至ったようだ。



「まず宝石店を探してこの指輪が何処で誰が作ったのか聞き込みだな」

「ですが、宝石店に自分たちが行って調べてるなんてバレたら、犯人が逃げるんじゃないですか?」

「そこなのだよ! 問題はそこなのだよ! 私と夫では少々問題があってだね、この中に誰か恋人がいる、もしくは恋人になってくれそうな女性と付き合っている者はいないかね!?」



 副隊長の言葉に、魔物討伐隊の男性陣は顔を背けた……。

 まぁ……ですよね。

 魔物討伐隊と言えば、女性からしてみればお付き合いしたくない筆頭の職業でもあるもんな。

 だが――俺は違う。



「副隊長、俺がちょっと知り合いに頼んで宝石店に行きます」

「おお! アシュレイ行ってくれるかね! 情報がでれば多少なりと臨時ボーナスをくれてやろう!」

「有難うございます!」



 臨時ボーナス!!

 リコネル王妃が働き方改革を進めて出来た、臨時ボーナス!!

 そのボーナスをラシュアに渡して、白米をたらふく食べたい!!!

 そうだった、帰って次の日には帰還祝いをしてくれるはず……白米白米……。



「ふふ! 君は臨時ボーナスを食べモノに使うつもりかな!? 涎をふきたまえ!」

「申し訳ありません!」

「では、女性の身元確認になるような物を持ち帰るとしよう。彼女たちはここで永眠して貰う。あの状態になった場合、彼女たちは人として生きていくことは最早不可能だからね」

「不可能……なんですよね」

「ああ、体を作り替えられてしまっている。人間としての知性も何も残っていないだろう」



 そう言うと、一か所にまとめられた彼女たちは、数人がかりの魔法ジョブの放つ魔法で苦しむこともなく灰になった。

 胸糞悪い事件でもある。

 だが、犯人はここにゴブリンの集落があると知っていたと言う事だろうか?

 それとも――いらなくなった女性たちを捨てるために、わざと……?



「さぁ、帰還だ!」

「「「「はい!」」」」



 こうして、大きな何かが隠れているような事件解決の後、俺たち魔物討伐隊は王都へと帰還し、副隊長は今回の事件を上に報告した。

 この話はジュリアス国王陛下やリコネル王妃にも伝わるようで、今後の進展を少なからず期待してしまう。



 まるで女性を使い捨てるような犯人。

 愛してると囁きながら、いらなくなると人とは思えない所業をする犯人。

 ……そんな奴が王都にいるのか?



「……アシュレイ、顔が怖いよ」

「おっと……ごめんなローラン。ちょっと今回の事件がな」

「胸糞悪い事件だね……」

「ああ……」

「女性を食い物にして使い捨てるような男……首を鎌で切り落としたいね」

「俺も一刀両断してやりたいさ」

「……」

「ローラン?」

「……マーガレットに気を付けてって言わないと」



 心の底から絞り出したローランの言葉に、俺は花屋の三人を思い浮かべる。

 ラシュア、マーガレット、アリミア……三人共に男性に人気の高い女性だ。

 狙われる可能性だって高い。



「私服護衛がどこまで働いてくれるかわからないもんな」

「心配……」

「出来るだけ俺たちも帰りは家まで送ってやろうぜ。それくらいしか今は出来ることがない」

「うん……」



 こうして、俺たちは軽くシャワーを浴びて家路へとつくわけだが、俺にはやるべきことがあり、またローランもやるべきことがあるとの事で一緒に花屋へと向かった。

 日も暮れ、二日で帰れたのは魔物討伐隊の皆の頑張りと、女性たちを楽にしてやりたいと言う思いからだった。


 犯人は絶対に許されない。

 極刑は免れないだろうなと思った。


 そんな苛立ちも深呼吸して押し殺し、花屋に到着すると三人が俺たちに気が付いた。

 そして――。



「「「お帰りなさい!」」」

「ただいま!」

「……ただいま」



 一斉に飛び込んできた「お帰りなさい」の言葉に、俺はやっと体の力を抜くことが出来た。







======

予約投稿となっております。


アシュレイのお仕事風景と言う事で、でもちょっと胸糞悪い内容ですが

大事な部分だったので書かせてもらってます。


しかし、「いってらっしゃい」「お帰りなさい」って良いですよね。

無論「ただいまー」と言って帰ってこられるのも良いものですが。

そのあたりをちょっと書きたくてラストに入れさせてもらいました。


アシュレイのお仕事風景は一応これで終わりだと思います。

次回はどうなるのか、お楽しみに!



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