第8話 異世界転移審査課の方が来られまして。

 ~アシュレイside~




「お帰りなさい!」

「誰!?」



 誰もいない筈の家に帰宅したはずなのに、明かりをつけるとそこには日本で見たことのあるようなスーツ姿の女の子の姿があった。

 でも、どこかで見覚えがある……金髪ギャル風の女性にゆっくり歩み寄ると、彼女はニコニコした表情で「まぁお座りください」と俺に指示を出してきた。



「ここ、俺の部屋なんだけど」

「まぁ細かいことは気にせず。ちょっとした注意事項がありまして。あ、私、異世界転生審査課の栗崎と申します!」



 そう言って手渡された名刺を見ると、確かに【異世界転移審査課 栗崎ゴロウ】と書いてある。

 いや、待て。ゴロウってなんだよ。



「今回私がこの異世界に来ました件についてですが、今泉サチヨさんの件でして」

「え?」

「この世界ではラシュアと名乗っている女性ですね!」



 ――今泉サチヨ。

 それがラシュアの前世の名前だと知り、俺は名刺を落とした。



「どうかなさいました?」

「今泉サチヨ……さんで……」

「間違いないですね!」



 思わぬ事で、俺は力なくその場に座り込んでしまった。

 絶対に許されるはずがない、何故なら今泉サチヨさんの夫は――。



「そうですね、あなたの妹さんが愛人さんでしたっけ」

「なっ!!」

「大丈夫です、言わなければ分かりませんから」

「そんな問題じゃないだろ!?」



 思わず叫んでしまったが、確かに今更「あなたの夫が不倫していた相手の兄です」なんて言えるはずもないし、今更どんな面して会えばいいのか分からなくなってくる。

 サチヨさんを苦しめた妹……その兄だと知ったらきっと――。



「あ、多分あなたの考えているような最悪な事にはならないと思います。あの夫婦に愛なんてありませんでしたから」

「……」

「寧ろ、あなたには感謝しているくらいです。私たちも彼女の結婚は流石にないなーって思ってたので」

「……とにかく、要件は?」

「おう、そうでしたそうでした!」



 俺が何とか冷静でいられるうちに用事を聞こうと問いかけると、栗崎は眉を吊り上げて俺に詰め寄ってきた。



「良いですか? あなたのように転生者って解る人の方が結構レアなんですよ! そこにサチヨさんを巻き込んじゃってます! 規約違反って訳ではないですが注意してください!」

「それは……申し訳ないことを」

「そうですよ? そうなんですよ? 転生者って知ったら、同じ転生者が彼女を狙うにきまってるじゃないですか! 折角二度目の人生を歩んでるのに、今度こそは貴方と幸せな結婚が出来るかもしれないのに! ちゃんと責任取ってくださいよね?」

「責任って」

「結婚です!」



 それが出来れば苦労はしてない。

 本当に子ども扱いでスルーされることが多いのに、何とか今、友人から恋人を目指して頑張っている俺に対して、もっと励ましのエールなり情報なりが欲しいくらいだ。



「励ましのエールなり情報が欲しいんですか?」

「って、アンタ……俺の心読めてるだろ」

「異世界転生審査課ですから、そのくらいは当たり前の事です。それで、エールは兎も角として情報ですか? この際、早くゴールインして欲しいのでなんでも教えますよ」

「なんでもって言ったな? いくつでもいいんだな?」

「ええ、早めにくっついてくれるなら」

「なら教えてくれ」



 ――サチヨさんの旦那さんは死んだのか。

 ――もし死んでいた場合、この異世界に転生しているのか。

 ――妹はどうなったのか。



 この三つを問いかけると、栗崎は「良い線聞いてきますね」と笑顔で返し、一つずつ情報を渡してくれた。



「一つ、サチヨさんのこの場合元旦那さんでいいですかね? 亡くなってます。んで、異世界審査に一応ギリギリで通っちゃったんで、すんごいペナルティ食らってこの世界にいます」

「すんごいペナルティが気になるんだけど……」

「そこは個人情報なので一応伏せさせてもらいますね。んで、妹さんですけど、妹さんはあの後、新しい男性を見つけて幸せ……じゃないですね、かなりのDV男と結婚されたようで、因果応報ですね!」

「そうか、罰は下ったんだな」

「まぁそうですね、死んだほうがましでしょうねアレは」



 ケラケラと笑う栗崎に対し、怒りは沸いてこなかった。

 寧ろ、あんな妹だからこそ、罰が当たって当たり前だと思ったのは事実だ。

 しかし懸念材料として、サチヨさんの旦那さんが何処にいるのかが気にかかる……。



「その……サチヨさんの旦那さんだけど、この世界のどこにいるとかは」

「この国にいますよ」

「は!?」

「多分あなたなら直ぐわかると思うんで、あえて言わないでおきますね。でも一つだけ教えることが出来るとしたら、そうですねぇ……本当にクズってことです」

「仮に会う可能性は」

「あるにはあります」



 能天気に口にする栗崎に頭を抱えてため息を吐くと、栗崎はニコニコした表情は崩さないまま「ですが」と続ける。



「サチヨさんの一番の願い、まぁ、ペナルティになった部分が効果を発揮していて、今は会ってないだけですね」

「ってことはつまり、サチヨさんは元旦那さんと絶対会いたくないとかそういう願いを?」

「まぁそうなります。余程嫌いな相手と結婚したと思っているんでしょうね。事実ですが」



 そうか……サチヨさん……いや、ラシュアは元旦那を余程嫌っているのか。

 だとしたら妹と血の繋がっている俺の事だって……。



「マイナス思考はんたーい!」

「ぶっ飛ばすぞ、ゴロウ」

「下の名前で呼ばないで下さーい! これでも女子高生のつもりなんでぇ!」

「……頭痛くなってきた」

「まぁまぁ、良い情報を与えて差し上げます! 各自にジョブを手渡しましたが、サチヨさんに関しては今後幸せな結婚をして欲しいと言う我々、異世界転生審査課の合意のもと、彼女のジョブをバーサーカーの花嫁にしました。で、此処からが重要なのですが良いですか?」

「何だよ」

「はい、実はこの国にバーサーカーって貴方だけなんです。オンリーワン!」



 思わぬ言葉に俺は顔を上げると、栗崎はニコニコ笑顔で「おめでとうございます」と拍手する。

 つまり、それってつまり……。



「頑張って花嫁をゲットしてくださいね? 行き遅れちゃ可哀そうですよ? なので仕事もシッカリこなして、死なずに魔物討伐してきてください。貴方しか、サチヨさんをこの異世界で幸せに出来ないですから覚悟はして下さいよ?」

「――マジか!」

「マジです!」



 オンリーワン!

 この国にたった一人のオンリーワン!

 今一番に自分のジョブに感謝した瞬間だ!!



「それではそろそろお暇しますが、二つだけ注意を」

「おう! なんだ!?」

「サチヨさんの元夫は本当に下衆なので、いうなればそうですね、貴方も噂にくらいは聞いたかと思うですが、火炙りの刑になった元王太子の話。例えるならそういう下衆なんで、本当に気を付けてくださいね」

「本当に下衆なんだな、分かった」

「あとあと! もう一つだけ注意点を! もし仮にサチヨさんの前に元夫がギャーギャーいうてくるようなら、この指輪の宝石をパリーンって割っちゃってください! あ、力業とかじゃなくて、強く割れろって念じたら割れますんで! その先は私たちが対応しますんで!」



 そう言うと栗崎は机の上に一つの指輪を取り出しておいた。

 そこには水晶のような宝石がついていて、此れを割れば異世界転生審査課が対応してくれると言う事だろうか。



「対応するのは別の課なんですけど~……一応私も来ることになりますんでぇ。いっちょお願いしますね~?」

「了解。でもこの指輪は俺には小さすぎないか?」

「小指にはめといてください。薬指はダメですからね? その薬指はサチヨさん用ですから!」



 また嬉しいことを言ってくれる。

 俺は頷いて指輪を小指につけると、小さく光ったと思ったら小指に馴染むような大きさに変わって一瞬だけ輝いた。



「話は以上です~! お疲れさまでした!!」

「あ、はい、お疲れ様でした」



 お互いお辞儀をして挨拶をし、顔を上げた時には既に栗崎の姿は無かった。

 あるのは栗崎が残していった名刺と、貰った指輪だけ。

 今泉サチヨさん……現世のラシュア。

 妹の犯した罪は絶対許されない事だし、最低の妹だと言うのは解ってるけれど、今度こそは俺の手で、償いとかそんなの関係なしに、本当に大事にしてあげたい。

 もし、元夫がしゃしゃり出てきたら……力の限り、一発殴らせてもらおう。



「まずは明日からの遠征で生き延びてから……気合入れるか」



 ユラリと揺れる闘気を抑え、深呼吸すると明日からの遠征に向けて早めの就寝についた。






=======

予約投稿です。


異世界転生審査課の栗崎ゴロウさん。

書いていて楽しかったキャラです(笑)

また、別枠で書いているストーリーでも出てくるキャラなので愛着があります。


そして、ラシュアの元夫の事やらなにやら色々出てきたり

愛人の事が出てきたりと色々今回は話が出ていますが

追々そのあたりもまた、分かりやすく出てくる予定です。


アシュレイの恋愛成就を応援しつつ執筆していたのを思い出します(笑)


読者様も、アシュレイの恋愛応援だー! と言う方がいらっしゃったら

ハートでの応援や★での応援、よろしくお願いします!


そのついでに、ちょこっとだけ、作者への応援があると嬉しいなぁ。


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