第7話 日本食の前には諸々崩れまして。

 ~アシュレイside~



「素敵な友達のお陰で前を向けそうよ」

「それは良かった……出来れば素敵な彼氏になれるように努力するよ」

「こんなオバサンでよければね?」



 そう言って笑った彼女は、とても優しく美しかった。

 初めて彼女に助けられたあの日、何とか城下町まで戻り宿へと歩いてる最中、意識がほとんど残っていなかった。

 正直、バーサーカーなんてジョブに転生してきたことを呪ったけれど、倒れた俺を助け、更に回復魔法を掛け続ける彼女に「大丈夫ですよ」と微笑まれたあの時程、胸が高鳴ったことはない。


 本当に、見た目も何もかもが好みだった。


 何とか繋がりが欲しくて、ローランに相談したら、彼女は孤児院育ちだと聞いた。

 あの雰囲気からして、転生者であることは何となくわかっていたけれど、最初から孤児院スタートってことは、どれだけのペナルティを食らったのだろうか?

 それは気になるけれど、今は聞かないほうがいいだろうと思って胸にしまっている。


 自分の事をオバサンだと言うけれど、この世界では俺の方が年上だ。

 彼女よりも早く亡くなってしまったのだろうと言うのもあるし、折角の二度目の人生なのに、ラシュアは勿体ないことをしているなって常々思っていた。

 けれど……本人は至って幸せそうで、口をはさむ気にはなれなかった。


 頑張って働いて、店を切り盛りしている彼女を尊敬だってする。

 けれど、それ以上に、彼女目当ての冒険者がチラホラ見受けられて苛立ちもした。


 丁度その頃、ローランに誘われ魔物討伐隊に入ることが出来たし、お祝いをしてくれると言う彼女と一緒にデートらしいものも出来た。



 それに、本人に日本の事を聞くと凄く動揺したし、あぁ、やっぱり日本人なんだなって思うとホッと出来たのはある。

 彼女に告白めいたことも、自分なりに一生懸命彼女に気持ちを伝えたけれど、半分も伝わってはないだろう。

 それでもいい。

 それでも何時かは……俺の妻になってくれるだろうか?

 いや、まずはお付き合いからだったな……。








 それからの日々は、彼女へ朝会えなくとも夜は必ず会いに行き、他愛のない会話をしながら彼女を家まで送ったりする日々を送った。

 家に入れてくれなんて言えないし、気にはなるけれど……一度だけ彼女の家に上がることが出来た。

 ――そう、今まさにその状況なのである。



「さ、シッカリ食べて行ってね~!」

「あ……ありがとう」

「お客さんに沢山お野菜貰っちゃって……冷蔵庫ってこの世界でも高いし、私の給料じゃ買えないからお野菜が勿体ないのよね」



 そう言って花屋とは違うエプロン姿で、なじみ深い料理の数々を出してくれるラシュアに、俺は頭から火が出そうなほど照れながらの食事となった。

 正直に言おう。

 女性の家に入るのは、前世を含め、初めてだ。

 甘い香り……好きな女性の香り……そして新妻のような姿に美味しい手料理。

 これで落ちない男が実際どれだけいるだろうか?

 いや、誰もが恋に落ちるはずだ。

 料理の味付けだって最高だった。

 本当に前世で食べていたような料理を沢山出してくれたラシュアに、俺は二度目の恋をした。



「……うまい。本当にうまい……懐かしい」

「ふふ。この世界でも日本人の転生者が多いならもしかして調味料も探せばあるんじゃないかなって思って店長に必要な調味料を教えたら、売っているお店を教えて貰えたの」

「何それ、今度俺にも教えてくれない? 遠征ご飯があんまり美味しくなくてさ、せめて故郷っていうのかな? そんな味付けがあれば頑張れる気がする」

「分かったわ、一緒に行きましょう」



 二つ返事でラシュアは了承してくれた。

 それにしても美味い……何より味付けが、今は会うことが出来ない母の味付けに近い。

 もしかして、同じ地域に住んでいたんだろうか?



「ラシュア、ぶしつけな事聞くけど、生まれ故郷ってどこ?」

「九州よ」

「あー……なるほど、それで」

「どうしたの?」

「俺の母が九州女子でさ、味付けが母の味付けに似てるから安心して思いっきり食べちゃいそうで……ラシュアの分先にとっておいた方がいいかも」

「私はそんなに食べれないもの、沢山食べてくれた方が嬉しいわ。それにお母様が九州女子だったのね、味付け似てるのは良かったと言うべきかしら」

「うんうん!」



 耐えきれずガッツリ食べ始めた俺に対し、ラシュアは優しく微笑んでから俺に冷たいお茶まで用意してくれて、本当に至れり尽くせりだった。

 最初こそ初めての女の子の部屋でドキドキしていたのに、今ではすっかり我が家気分だ。

 母さん……元気かな。

 ふと箸を止め、今はもう会うことのできない母に思いを馳せると、ラシュアは何も言わず俺の空になったコップにお茶を注いでくれた。



「……良い食べっぷりだわ。また作ろうかしら」

「本当か!?」

「ええ! 次は何が食べたい? 実は白米に似たのも見つけたの。だから今度は白米を焚いてみるわ」

「マジか! それマジか!!」

「落ち着いて、はいお茶!」



 思いがけない言葉に俺は受け取ったお茶を一気飲みすると、再度、もう一度白米が食べれるのか問いかけた。

 答えはYESで、今度来る時は白米が食べれることが決まった。



「白米だけでも美味しい……けどやっぱりカレーはないよな」

「カレーは出来ないわね……ごめんなさいね」

「いや、気にしないで」

「その代わり、親子丼とか牛丼は作れるから」

「マジか!?」

「落ち着こうね?」



 彼女の突っ込みに大きく深呼吸すると、俺は生き生きとした表情でラシュアを見た。



「ラシュア」

「ん?」

「結婚しよう!」

「お友達からでしょう?」

「俺もう胃袋捕まれたよ、ガッツリだよ、もう戻れないよ!」

「アシュレイって本当素直な子よね」



 クスクスと笑う彼女に軽くあしらわれてしまうけれど、ラシュアだってまんざらでも無さそうで、凄く嬉しいと言う気持ちが伝わってくる笑顔だった。



「でも……こんな風に誰かと食事をするのは久しぶりだし、何より私の料理を美味しいって言って食べてくれる男性は、私が知る限りアシュレイだけよ」

「そ……そうか」

「プロポーズしてきたのに私が反応すると照れるのね、可愛い」



 年齢は俺の方が上だ。

 けれど、精神年齢はラシュアの方が間違いなく上だと分かる瞬間でもある。



「今度の遠征は明日からだったかしら?」

「ああ、明日から数日間……かな」

「じゃあ帰ってきたら教えて頂戴。その日に用意できればいいけど、翌日には必ず帰還祝いにご飯を用意するわ」

「絶対無事に帰ってくるから!」

「無事に帰ってきてもらわないと困るわよ」



 そう言って俺のおでこをツンとつつく彼女に、何としても遠征から無事に帰宅してラシュアの手作りの料理を食べると言う目標が出来た。

 遠征中は彼女の笑顔をお守りに頑張ろうって気合を入れることも出来た。



「俺……幸せ者だな」



 自分でも変な笑顔で言ったかもしれない。

 けどラシュアは目を見開いて呆然とした後、頬を少しだけ赤くして「それは良かったわ」と顔を反らす。

 そんな姿だって愛しくて、可愛くて、抱きしめたくて……でも、俺たちはまだ恋人でもなくて……。

 まずは年下男性扱いを何とかするべきなのかどうかさえも悩みとして出てくるけれど、何となく……本当に何となくだけれど、彼女の美味しい手料理を食べることが一番のような気がした。



「明日行ってくるよ、でもちゃんと『ただいま』って言うから。『ただいま』って言いに行くから、待ってくれる?」

「……わかったわ、だから私が今言えることは……行ってらっしゃい、気を付けてね」

「ありがとう……本当好き」



 最期の本音にラシュアは笑い、ご飯を食べ終わった後は二人で洗い物をしてから俺は家路についた。

 家路と言っても、安い日本で言うアパートだけれど。

 貯金はある、けど……俺一人の為に家を用意するのも空しい。

 でも……。



「ラシュアと一緒に暮らすことを考えたら……一軒家欲しいなぁ」



 そんな願いを口にしながら、誰もいない部屋に入った筈、だった――。





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予約投稿です。


海外に住んでいても、きっと舌は日本食を求める……。

海外研修に以前行ったとき、私は日本食が恋しかったです(;'∀')

いや、肉ばかりでもいいんですよ。

肉大好物です。

でもね、米が食べたくなったりするわけですよ……。

異世界転生して一番困るのは、きっと日本食への欲求だと思います。

私なら間違いなくそうなる('ω')



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