第6話 転生にはペナルティは付きものでして。

「ラシュア、日本って国、知ってるか?」



 ……思わぬ言葉に、私は目を見開き、持っていたコップを落としてしまった。

 今、彼は何て言っただろうか……日本と言う国……日本!?



「な……んで……貴方が知っているの……」

「あぁ、やっぱり日本人なんだな」

「どういう事なの……まさか……」



 ――まさか夫なの?



 喉まで出かけた言葉を何とか呑み込むと、アシュレイはホッとした様子で「実は」と語り始めた。

 この王国以外にも、日本からの転生者が多かったこと。

 自分では気づいていないけれど、日本人だとすぐわかる行動をしている所も何度も見かけたこと。

 そして何より……それに気が付けたのは、自分が前世の記憶を持って生まれ変わったからだと教えてくれた。



「俺の前世の記憶はさ……彼女も出来たこともない社畜って奴だよ。過労死で気が付けば異世界転生審査課に連れてかれてさ。急に異世界にいけますがどうしますか? だもんな。驚いたし、何より悔やんだ」

「悔やんだ?」

「……俺、一緒に出歩くって言ったら妹だけでさ。彼女も出来ずに異世界転生か~って悔やむ気持ちもあってさ。けど、ハーレム作りたいとか、俺ツエーしたい訳じゃなかったから。三つまで願い事聞けるっていわれたから、戦争のない国で普通の冒険者でいいですっていったのに、何かのペナがついたとかでバーサーカースタート。最初は恨んだね」

「なるほど……もう一つの願い事がペナルティに引っ掛かったのかしら? 何てお願いしたの?」



 そう問いかけると、アシュレイは顔を真っ赤に染めて私から顔を背けると、小さく、それでも私に聞こえる声で口にした。



 ――自分にとって、理想の女性と結婚して幸せになりたい……と。



「あー……それは大きなペナルティ入りそうね、願いとしては大きすぎるわ」

「仕方ないだろ!? 今まで彼女も出来たことのない俺の最大の願いなんだから!」

「はいはい、それで、理想の女性は見つかったの?」



 呆れたように口にすると、アシュレイは顔を背けて私に指をさした。



「ん?」

「ん」

「んん??」

「ん!」

「私が?」

「……そう」

「私が何?」

「だから、ラシュアが理想の女性そのまんまなの!! だからバーサーカーの花嫁って出て有頂天になっちゃったの! 失礼なことあの時言ったかもしれないけど、一目惚れなのは事実なんだよ! あーあーあーもう言っちゃったし! 恥ずかしくて死ぬ!!」



 頭から湯気が出そうなほど真っ赤に染まったアシュレイに、私は呆然としてしまったけれど……いやいや待って。



「あのね、アシュレイ。貴方は私みたいなオバサンじゃなくて、もっと若い子と結婚すべきよ?」

「ラシュアが何歳で死んだかは知らないけど、少なくともこの世界じゃ俺の方が年上だろ?」

「まぁ、そうだけど」

「お友達からスタートなのは解ってるんだけど……好きって気持ちって止められないんだよ。気持ち悪がられるかもしれないけど……本当ごめん。でも好き」

「ん、乙女かな?」



 アシュレイの真っすぐとした告白に思わず苦笑いが出てしまったけれど、気持ちは素直に嬉しかった。

 多分、アシュレイは私より先に死んでしまってこの世界に転生したのだろう。

 そして、自分にとって理想の女性と結婚したいと言う大きな願い事により、ペナルティを食らったのは事実のようだ。



「つまり、この世界には異世界転生してきた人たちが多いのね」

「ああ、異世界転生してきたって気が付かないままの奴も多いみたいだ。死後の世界とも違うんだけどさ……いや、一応死後の世界なのか?」

「どうかしら? でも二度目の人生を歩めているのは事実ね。……そう、二度目の人生なのよね」

「ラシュア?」



 そうだ、二度目の人生なんだ。

 離婚するなと言う親もいない。

 離婚したくて我慢して我慢して、最後はあんな最悪な死に方をしたんだもの。

 この世界で幸せになることくらいは、許されてもいいんじゃないかしら……相手によるけど。

 そう思ってアシュレイをジッと見つめると、アシュレイは首を傾げて私を見つめた。



 この世界では珍しくもない、けれど綺麗な茶色の短い髪に、優しい緑の瞳。

 やんちゃ坊主がそのまま成長したような見た目と、素直で嘘がつけない照れやすい子。



 ん――……恋愛はまだ怖い。

 怖いけど、ちゃんとこの子には前向きに返事を返した方がいい気がする。

 でも、こちらの事情も聴いてほしいのよね……。



「アシュレイ、私が以前結婚も恋愛もしないって言ったこと覚えてる?」

「え? ぁ……ああ、クズな男の話をしてたのを覚えてる」

「うん、あのクズな男が実は日本での夫だったの」

「は!?」



 驚いた様子で声を上げたアシュレイに、私は溜息を吐いて「実はね……」と、アシュレイと向き合う為にも話をすることにした。

 20代で親の勧めで結婚したものの、一緒に住んでいたのは一週間あるかないかで、そのあと直ぐに夫は愛人の許へといってしまい、離婚したくても親に止められて離婚出来なかったこと。

 家にお金を入れてくれることもなく、自分で働いて自分の生活費を稼いでいたこと。

 子供もおらず、40を過ぎ、久々に夫が帰宅したかと思いきや出かけると言われ、頭を殴られ、最後はトラックが突っ込んできて死んだことを告げると、アシュレイは唯々呆然としていた。



「そう言う男性経験が尾を引いて、この世界でも恋愛も結婚もしないって決めてたの」

「それは……それは相手の阿呆が悪いだろ。周りだってそうだ。ラシュアには何も問題ないじゃないか」

「問題……無かったのかな」

「ただの被害者じゃん!」

「被害者……」



 その言葉が不思議とストンと自分の中に落ちてきた。

 あえて考えないようにしていた、離婚出来ない理由。

 離婚したくても、離婚届けも取りに行っても、世間体を気にして離婚させてくれなかった両親と、夫……。



 そっか、私、被害者なんだ。

 でも、離婚しようと思えばできたのに、逃げようと思えば逃げれたのに、私の勇気が足りなかったからこんなことになったのね……。

 あの当時の自分がかわいそうとか思わないけれど、アシュレイの言葉はすんなりと私の中に入ってきてくれる。

 それはきっと――彼が嘘をつかない優しい人だからだわ。



「……ありがとうアシュレイ」

「え?」

「まだ心の整理はつかないけれど、少しだけ楽になった気がするわ」



 夫の事が許せるわけでもないけど。

 離婚をさせてくれなかった両親を恨む気持ちも消えないけれど。

 もう、私、次に進んでいいのかもしれない。



「素敵な友達のお陰で前を向けそうよ」

「それは良かった……出来れば素敵な彼氏になれるように努力するよ」



 思いがけない言葉に私は目を見開いたのち「こんなオバサンでよければね?」と口にして笑った。




======

予約投稿です。


転生にはペナルティも発生したら面白いなと思いまして。

「この願いを叶える代わりにペナルティはありますよ」みたいな。

最初からツエーじゃちょっと楽しみがない気もした。


第二の人生で異世界に行けるとしたら、皆さん何がしたいです?

ペナルティ、受けない方法で堅実に行くか。

ペナルティがあっても、何かを取るか。


私は、平和に生きたいのでペナルティ無が良いです(笑)


二人の今後を応援したいよって方がいらっしゃったら、★やハートでの応援をよろしくお願いします(`・ω・´)ゞ

そして、ついでに作者への応援もあれば……うれしいなぁ( ;∀;)

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