第5話 アシュレイから質問されまして。

 それから数日後――アシュレイは店にやってきた。

 それも、ローランさんと一緒に。



「無事に魔物討伐隊に入れたことをご報告だ!」

「おめでとうアシュレイ!」

「ローランのお陰だよ、本当ありがとな」

「……古い付き合いだ、心配だってする……」



 どうやら二人は昔からの付き合いがあるみたいで、ローランさんは穏やかに微笑み今日も花を買う。

 マーガレットもアシュレイがローランの古い友人だと知ると、警戒心を少しだけ解いたようだったし、アリミアも私の方を見つめ「ん」と何故か応援していた。



「ローランさんとお知り合いだったのね」

「ああ、同じ村出身で暫く一緒に冒険もしてたんだ。魔物討伐隊に入れたのも、ローランが誘ってくれたからだしさ」

「え? ローラン魔物討伐隊に入ったの?」



 マーガレットも初めて聞く内容だったらしく、ローランは頷くと「大丈夫だよ?」と首を傾げつつ苦笑いを浮かべた。

 何とも可愛らしい表現の仕方で、思わずホッコリしてしまう。



「魔物討伐隊は死傷者が多いって……」

「マーガレット」

「だって……本当に大丈夫なの? ローラン怪我して帰ってきたりしない?」



 ローランに駆け寄ったマーガレットに、ローランは彼女の頭を撫でて「慣れてるよ?」と再度口にすると、マーガレットは一瞬だけ目を見開いたのち、小さく唇を噛んでから「信用してるわ」と何とか口にした。



「さて! 前に話してた通り、お祝いしないとね。どんなお祝いがいいかしら?」

「ハチミツたっぷりのパンケーキは勘弁してくれよ? 昨日ローランの驕りで大量に食べさせられたからさ」

「そうだったのね」

「……僕は……食べたりなかったけどね。マーガレット……今度一緒にどう?」

「ええ、一緒に行くわ」



 即答する辺りマーガレットらしいな~って思っていると、アシュレイは一枚のチラシを私に手渡してきた。

 そこには、おしゃれなカフェでも、ちょっといいお店でもなく、近々あるお祭りが書かれたチラシだった。



「リコネル王妃が嫁いでから始まったお祝いね」

「その通り。屋台とか出るみたいだし、そこでお祝いしてもらえたら祝いも二倍かなってさ」

「ふふ……リコネル王妃様にあやかりたいのね?」

「そりゃな。あのお方の経歴を見ると凄いもんだぜ? 元王太子からの婚約破棄、更に悪役令嬢と名高かった女性が、今では聖剣と呼ばれる王妃だぜ? 何かしらにあやかりたい冒険者だって多いんだ」



 確かにリコネル王妃の経歴を見ると中々にハードだけど、王妃と何度かあったことがある私からすれば、何故か親近感を覚えるような不思議な感じがした。

 王妃様に対して失礼な事だろうけれど、政策の方法もまるで――。



「な? 一緒に屋台で食べないか?」

「ええ、良いわよ。送り迎えはお願いね?」

「勿論さ! それに、聞きたいこともあったからさ」

「聞きたいこと?」

「その時話すよ」



 そう言うとアシュレイは花を買ったローラント一緒に帰ってしまった。

 ――アシュレイが私に聞きたいこと……一体何かしら?



「……アシュレイ、あなたの事が好きなのが伝わるけど……何か隠してるわよね」

「……ざわざわ、もやもや」

「好きなのは有難いけど、私は誰とも結婚するつもりもお付き合いするつもりもありません。さ、注文分のアレンジ作っちゃおう?」

「「はーい」」



 こうして、お祭りまでの日々は当たり前の日常を送った。

 花屋はお祭りが近づくにつれて繁盛期に入り、目まぐるしい日々を送ったし、リコネル園芸店からはプリザーフラワーも大量に入ってくるようになり、三人で必死にそれらをアレンジして売りさばく日々を送る。

 そろそろ花屋にも新しい人員が欲しいですねーって話してた頃、マダリアさんがリコネル王妃様に掛け合ってくれたようで、今度は男性の従業員が入ることになりそうだ。

 護衛も兼ねてる男性らしく、これで私たちも少しだけホッと安心できるのかな? なんて思いながら仕事を進め、やっと繁盛期が終わったころ、お祭りが始まった。



 一応失礼が無いようにと着替えを済ませ、軽く化粧をしてからアシュレイを待っていると、昨日やっと遠征から帰ってきたアシュレイが走って迎えに来てくれた。



「そんなに急いで走ってこなくても大丈夫だったのに」

「いやいや……大丈夫、隊ではもっと走り込みとかさせられてるし、大丈夫!」



 流石魔物討伐隊……訓練量が凄いのかしら……。



「それに、待たせたくなかった!」

「そ、そう」

「ふ――……少し落ち着いた、一緒に行こう」



 そう言って無意識なんだろうけど、私の鞄を持ち、更に手を繋いでくるアシュレイに、私は違和感を覚えた。

 この国では、女性にそこまで気を遣う男性は居ない。

 それに、この気の使い方はまるで……。



「あ、あの焼き鳥うまそう」

「本当! お酒と一緒に食べたいわね」

「じゃあ、お酒片手に食べ歩きするか!」

「そうね!」



 ふと感じた違和感は、空腹と焼き鳥、更にお酒と言うコンボで忘れ去ってしまった。

 その後二人でお酒を飲みながら食べ歩きし、別にオシャレ必要なかったかなって思ったけれど、こういうのは礼儀だと思って楽しめた。

 何より、こんな風に男性と一緒に食べ歩きするのは久しぶり。

 滅多にない経験を楽しもうと思い、二人でお祭りの話やこの国についての話で盛り上がった。


 それに、他国では、アシュレイのようなバーサーカーや、ローランのような暗黒騎士は不遇ジョブと言われ、特に忌み嫌われているらしい。

 直ぐ死にやすいジョブとPTを組むことは、本当に使い捨ての駒として必要になった時だけだったと語るアシュレイに、私は言葉が出てこなかった。



「何度も死にそうになったし、それと比べたらこの国の差別のなさもそうだけど、魔物討伐隊に俺みたいなバーサーカーが入れること自体がレアなんだよ」

「そうだったのね……」

「でも、俺たちの部隊の副隊長は女性なんだけどさ、その副隊長が本当にあっけらかんとしてるというか……『バーサーカーかね! 君の働きには期待しちゃうぞ!』 って言ってくれてさ。なんか受け入れて貰えてるって感じがして嬉しかった」



 アシュレイの所属している部隊の副隊長さんはきっと心が広い人なんだろう。

 そんな話を聞くとホッと安堵できた。



「そう言えばアシュレイ、私に聞きたいことがあったんじゃないの?」

「そうそう! いや、間違いだったら申し訳ないし、もし仮に俺が言っている言葉が分からなかったら教えて欲しいんだけどさ」

「勿体ぶらないでいいから聞いて? どんな事なの?」



 お酒の力もあり彼に笑いながら問いかけると、アシュレイはお酒をグイッと飲み欲し渡しを見つめると――。



「ラシュア、日本って国、知ってるか?」



 ……思わぬ言葉に、私は目を見開き、持っていたコップを落としてしまった。






=======

予約投稿となっております。


アシュレイからのまさかの質問!

気になる次回は明日予約更新です!(朝9時更新となっております)


食べ歩きしながら街を散策するって、今のご時世難しいことですね。

マスクと帰宅後の手洗いは欠かせない……。


現段階で8月13日までの更新分の小説は書き終わっております。

(今週までは執筆が出来そうです)

なので、それまでは予約投稿で進んでいくと思いますので、応援よろしくお願いします(`・ω・´)ゞ


★やハート等送ってくださると、育児疲れと仕事疲れが吹き飛びます(笑)


一番は楽しんで読んで頂くことですが(;・∀・)

面白いと思って貰える小説を書くのって難しいですね……(;´Д`)

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