第4話 ジョブ診断をしてみまして。

「アシュレイ!」



 まさか教会にいるとは思わず駆け寄ると、アシュレイは嬉しそうに微笑んだ。



「良かったわ、冒険者ギルドには連絡入れることが出来たのね」

「ああ、危うく死亡届が出される寸前だったよ、あれ出されると変更手続きすごく面倒だからギリギリセーフ」

「ってことは、一度出されたことあるのね」

「う……んー……まぁ」



 苦笑いを浮かべるアシュレイだけれど、あまり思い出したくもない内容なのだろう。私は直ぐに話題を変えることにした。



「それで、何故教会に?」

「今回実入りが大きかったからさ、教会を通して孤児院にわずかばかりの寄付をね」

「まぁ!」

「俺も昔は苦労したからさ……でも、この王国は凄いよ! 弱者に寄り添うっていうのかな? そういうのが凄く伝わるし分かりやすい国だよな! ジョブ差別もないし! 俺みたいな不遇なジョブにとっては理想郷だよ」



 目を輝かせて口にするアシュレイに私は思わずクスリと笑い、アシュレイ同様同じように心ばかりの寄付をすることにした。

 とは言え、私は孤児院に行けばいつでも寄付が出来るんだけど、こういうのも気持ちの問題かなって思った。



「それで、ラシュアは何しに教会へ?」

「ええ、ジョブ診断してるって話を聞いて、一応一度だけでも受けておこうかなって」

「へぇ……俺も一緒に行っていいかな」

「ええ、良いわよ」



 既に、異世界転移審査課とかいうところで、花屋での仕事をすることは希望通り叶っているし、更に言えば戦争のない国に住んでいるっていう時点で二つの希望が叶っている。

 元夫の事はわからないけれど、このまま関係がないのならそれに越したことはない。

 ジョブ検査の順番が来て、アシュレイと共に向かうと、球体の水晶のようなものに手を翳し、そこから出てきたジョブを読み上げられるようだ。


 けれど、出てきた文字を見て、検査をしていた男性は狼狽えた。

 え? 何か私変なの出ちゃったのかしら?



「あの……何か悪いものでした?」

「いえ! 悪いものと言うよりジョブと言うものとはちょっと違うと言うか」

「気になるな、一体何が出たっていうんだ?」

「驚かないので教えてください」



 そう私が告げると、診断してくれた男性は小さな声で思わぬことを口にした。



「貴女のジョブは………【バーサーカーの花嫁】と出ています」

「「は?」」



 私とアシュレイの声が重なった。

 いやいや、ちょっと待って。

 私はこの異世界でも結婚する気はない。

 ましてや、前世の結婚が最悪だった為、そっちの悪い記憶の方が強いのに、バーサーカーの嫁って何?

 私が呆然としている隣で、ふとアシュレイと目が合った。



「バーサーカーの花嫁……」

「アシュレイ、そんな期待に満ちた目をしないで」



 目を輝かせ私を見つめるアシュレイ。

 けれど、アシュレイは何度も首を横に振り、頬を赤くして喜びを全身で露にした。



「だって凄いだろ!?」

「何が!?」

「不遇ジョブ過ぎて、女だけの盗賊団に捕まった時だってバーサーカーって解った途端、森に投げ捨てられるようなジョブの花嫁って!!」

「なにそれ全然嬉しくない!!」

「俺は嬉しい!! 結婚して欲しい!! 寧ろ一目惚れでした!」

「今それ言う!?」



 思わぬ言葉の羅列にツッコミが追い付かない。

 けれど、アシュレイは本気の様で耳まで赤くして「いや、だって」と口にしている。

 すると、咳払いが聞こえ神父さんから外へ移動するよう指をさされ、私は溜息を吐き、期待に満ちた瞳のアシュレイを掴んで教会の外へと出た。

 外に出て人気のない場所まで移動すると、私は溜息を吐き、アシュレイは深呼吸して私に向き合う。



「アシュレイ、あのね?」

「バーサーカーの花嫁ってそんなにイヤ?」

「嫌とかいう以前の前に、私……誰とも結婚する気がないの」

「え?」

「結婚なんてしても、幸せになれないわよ」



 ほんの八つ当たりの気分で言った言葉だった。

 けれどアシュレイは、私が孤児院育ちと言う事を何故か知っていて、そこから何かを連想したようだった。



「それは……君の生い立ちを考えたらそうかも知れないけど」

「孤児院云々と言う以前の問題なの。私が誰とも結婚する気になれないの。いまだに恋すらしたことはないわ。私は恋を封印しているの」

「何でそこまで……」



 何でそこまでと言われても、前世の夫がクズ過ぎたとも言えなくて、私は唇を噛みしめると、彼から目をそらした。



「……例えばよ? 結婚したのに、夫は愛人のもとに行ったっきり、20代で結婚して40になるまで夫が帰宅することのない生活って……どう思う?」

「え? 何それ、男の方がクズじゃん」

「でしょう? 私はそういう事例を知ってるの。だから結婚したくないの」

「でも、それが君に関係していることなの?」

「それは教えられないわ」

「ラシュア、君はその男の良い所でも知ってるの?」

「知らないわ」



 本当に何も知らない。

 最後に殴られたことくらいの記憶はあるけれど、本当に馬鹿な男と結婚していたものだと自分でも呆れてしまう。

 何ですぐ離婚できなかったんだろう。嗚呼、そうか、父が泣いて離婚だけはやめてくれって頼んだんだっけ……。



 今の世界に両親は居ない。

 結婚して離婚しようと自己責任。

 何も不安になることはないのに……トラウマなのか不安が押し寄せてくる。



「ごめんなさいアシュレイ……でも……恋愛は怖いの、結婚も怖いの」

「いや、俺こそ先を急ぎ過ぎた。まずは友達からだよな」

「アシュレイ……」

「まずは、この不遇ジョブの俺と友達になってくれるか?」



 苦笑いするアシュレイに、私は小さく呆れたような溜息を吐き、彼の頭をコツンと叩くと――。



「ジョブによる差別はしないって言ったでしょ? お友達なら大歓迎よ」

「――ありがとう!」

「でも、冒険者でいられると心配になるジョブの筆頭よね。大丈夫なの?」



 そう、誰ともPTが組めないと言う事は、死んでも誰も分からないと言う事。

 その心配をしていると、アシュレイは一瞬驚いたような表情をしたのち、直ぐに苦笑いしながら「実はな」と口にする。



「俺の友人が今度、冒険者から今度魔物討伐隊に入るんだよ。それで、俺にも魔物討伐隊に入らないかって言われててさ」

「へぇ……っていうか、魔物討伐隊も危険な仕事だけど」

「冒険者から魔物討伐隊に入る奴らは結構多いんだ。ジョブ不問、必要なのは経験と魔物をどれだけ知り、どれだけ倒したことがあるかが重要になる」



 確かにその点で言えばアシュレイは優秀な部類に入るだろう。

 一人での対応の仕方もシッカリ頭にあるだろうし、何より魔物討伐隊は部隊で動く者。名誉ある死として葬儀が行われることもあるけれど、最近はその葬儀も少ない。



「友人と同じ部隊所属になる可能性もある。だからメリットしかないかな」

「なるほど……それで安全性が増すのなら……私も毎回心配しなくていいのかしら?」

「ははは! 今回のオーガキング討伐で魔物討伐隊の隊長からも誘われてたから、この際だからってのもあるんだよ。バーサーカーっていうジョブは変わらないけど、安全性と、友人の心配事を減らすっていう意味では、直ぐにでも魔物討伐隊に入るべきかな?」



 そう言って私を見て笑顔を見せるアシュレイに「それもそうかもね」と口にすると、アシュレイは更に笑顔を増してくれた。

 冒険者がカッコイイと言うのは事実で、冒険者PTを見ているのも楽しくはある。

 けれど、アシュレイのような一人でなんでもこなさないと行けないっていうジョブの人にとって、ソロ活動がどれほど過酷なのかは私の想像以上なんだと思っている。

 なら、部隊で動く魔物討伐隊に入ってくれていた方が安心だわ。



「お友達として、アシュレイの魔物討伐隊入りを応援するわ」

「ありがとう」

「討伐隊に入ったら教えてくれる? お祝いしたいから」

「ああ!」



 ――こうして、アシュレイに花屋まで送ってもらった後、彼は走って城の方へと向かっていった。きっとその足で魔物討伐隊に入るつもりなんだろうと言うのは直ぐにわかったけれど……。



「アシュレイ、危険な仕事なのは変わらないのよ。でも気を付けて頑張って」



 彼には届かない言葉。

 でも、遠く走っていく彼の姿を見ていると、不思議と応援したくなっている自分がいることに気が付き、首を横に振り店へと戻ることにした。





=====

予約投稿で失礼します。


アシュレイ、年下のように思われますが年上の男性です。

素直な男性は可愛いですよね(笑)

私には珍しいタイプの男性キャラかと思われます。


ラシュアがオカンみたいになってますが、今後二人がどうなっていくのか

是非お楽しみに!

そして、★での応援やハート等ありますと、育児疲れ仕事疲れも吹き飛びます。

是非、二人の応援にポチッとしてくださると幸いです/)`;ω;´)

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