第3話 彼は一命を取り留めまして。
「随分と酷い怪我をしていたねぇ……あなた方が回復魔法を唱えていなければ、彼は死んでいたかもしれませんよ」
「無事でよかったですね」
「助かりました」
一命をとりとめた冒険者らしき男性は深々と頭を下げると、包帯だらけの体を不思議そうに見つめたのち、私の視線に気が付いたのだろう、苦笑いを浮かべた。
「こんな風に手厚い手当てをされたのは久しぶりなんだ。本当に、どう恩返しをすればいいか」
「気にしないで、貴方死にかけてたんだから」
「そうだぞ、全く……あんなふうになるまで何と戦ってきたんだ?」
マダリアさんとルシールさんに呆れられた男性は、苦笑いをしながら今までの経緯を語ってくれた。
何でも、この王国の近くにオーガキングが出没していたらしく、魔物討伐隊だけでは倒せないかも知れなかった事。
それで、冒険者を募って退治に向かったこと。
そして――何とか倒したものの、自分は深手を負い、魔物討伐隊の馬車に乗りたかったが、自分以上に重症の者も多く、彼らを優先させ、歩いて城下町まで帰ることが出来たこと。
しかし……。
「宿につく前に倒れてしまって……嬢ちゃんが助けてくれなかったら今頃女神のもとに召されていたかもしれないな」
「縁起でもない事言わないで。せっかく助かった命だもの」
「それもそうだな」
屈託なく笑う男性の名は――アシュレイ。
冒険者を生業とし、生計を立てているのだと言う。
それでも、日々暮らしていけるだけのお金で何とかやり繰りしているため、怪我をしてもあまり治療をしたことがないのだと言うのだ。
「冒険者なら、仲間たちと一緒に行動すれば怪我も少なくて済むんじゃないの?」
「いや、俺の場合はジョブ的に無理だな。相手に断られる」
「どういうこと?」
不信に思い問いかけると、彼のジョブは……バーサーカーなのだと教えてくれた。
バーサーカー……狂戦士。
一度バーサークすると敵味方構わず攻撃し、危険なジョブ筆頭だ。
なるほど、だからずっと一人で冒険してきたのね。
一人で受ければ実入りは大きい、けれど失敗すれば死ぬ。
そんなギリギリの生活を今までしてきたのだと知った時、私は無意識に彼の頭を撫でていた。
「嬢ちゃん?」
「……今まで頑張ってきたのね」
思いがけない言葉だったのだろうか?
アシュレイは目を見開くと私を見つめたまま呆然としている。
「ごめんなさい、でもそんなに驚かないで。私はバーサーカーだからって差別するつもりなんて毛頭ないわ」
「……そ、そうか」
「寧ろ、一人で危険な冒険をしてきたんでしょう? 誇るべきよ」
両手を腰に添えて口にすると、何が面白かったのか分からないがアシュレイは吹き出して笑い出した。
「アシュレイ?」
「いや……クククッ バーサーカーを怖がらない所か……っ 誇るべきって言う奴は初めて見たよ。でも、ありがとな」
「この国ではジョブによる差別は殆どと言っていいほどない。あまり他国と同じようにみられるのもいい気分はしないな」
「ええ、私も貴方がバーサーカーだと聞いても、へぇ~凄いのねってくらいしか感じなかったわ」
そう語るマダリアさんとルシールさんにアシュレイは深々と頭を下げ「有難うございます」と口にした。
その日の夜は、あまり歩けないだろうアシュレイは、花屋から程近くに住んでいるルシールさんのお宅で体を休ませることになり、私も店じまいすると家路へとついた。
次の日――店を開ける作業をしていると、アシュレイは驚異の回復力でやってきて、再度お礼を伝えて冒険者ギルドへ生存確認の手続きをしに向かったようだ。
冒険者は何時死ぬかわからない。
本人がクエストの依頼を受け、達成するしないに限らずギルドに報告しなかった場合、死んだものとして手続きが行われてしまう。
それを避けるためにアシュレイは急いで冒険者ギルドへと向かった。
「慌ただしい人」
でも、不思議と嫌な気はしないわね。
元気な男の子って感じかしら?
40で死んだ身としては、20代って若く見えるのよね。
そんなことを考えながら店を開け、いつも通りの日常を送っていた。
キーパーに並ぶ綺麗な花々の水を替え、花や苗ものに水を与え、光加減を調整して、やってくるお客さんにアレンジを作る。
この世界にはアレンジと言う物がなかったけれど、私発案と言う事で、アレンジは飛ぶように売れた。
三角形の形をしたトライアングル。
ドーム型のラウンド。
この基礎さえできていれば、どんなアレンジだって出来るのだ。
小さいものから少し大きなものまで、日々注文に追われ、練習して取得したマーガレットとアリミアとの三人でアレンジを作る日々は充実していた。
たまに嫌な客だって来るけれど、客商売していれば色々なお客さんが来るのは仕方のない事だわ。
例えば、奥様の為に1輪の赤いバラを買いに来る、杖をついたお爺様。
亡くなった奥様の為に、月命日には必ず赤いバラを買いに来るお爺様は、毎回ぶっきらぼうに、それでいて頬を赤くして赤いバラを買ってくる。
けれど、バラを手にした途端、ぶっきらぼうな顔は柔らかく、奥様を見つめる優しい瞳に変わるのだから、この仕事は止められない。
花の数だけドラマがある。
花を買いに来るお客様の数だけドラマがある。
人生の節目を見ることが出来る花屋は、私にとって刺激にあふれていた。
「ところで、マーガレットは昨日ローランさんとジョブ診断に行ってきたんでしょう?マーガレットのジョブは何だったの?」
「ジョブ診断っていっても碌なもんじゃないわよ。私のジョブ、何だったと思う?」
「……さぁ?」
「武闘家ですって! 私って暴力的に見えるのかしら……」
「「あ――……」」
マーガレットの一発って、痛いものね……納得。
――と、言いそうになって思わず言葉を呑み込み「ドンマイ」と苦笑いしておいたのは優しさかしら。
「こうなったら二人とも行ってきなさいよね! 護衛は……ローランに頼めばまぁ」
「フフッ そうね」
「……私は昨日行ってきた……ジョブは風水師…」
「風水師? 天候を操るとか言う奴?」
「……天気がそろそろ変わりそうくらいしか……わからないけど」
「ほらね、あんまり役に立たないジョブ診断だったよね」
「……うん」
「うーん」
転生前、花屋で働きたいと言って転生してきたし、私はジョブを見る必要はない気がするけど、二人が行ってるなら私も行かないとダメかしら?
「……ラシュアが行くなら、まぁ……参考程度に……かな」
「そうよね」
「ちなみに、ジュリアス国王陛下のジョブは聖騎士、リコネル王妃のジョブは聖剣らしいわよ」
「「「すご――い!」」」
会話に入ってきたマダリアさんに私たち3人が驚きの声を上げると、丁度昼食休憩が終わり、花屋は夕方まで賑わいを見せた。
でもジョブ診断……行ってみようかな。
幸い今日は店を閉めるまでいなくて済むシフトの日だし。
気になったら確認すべきよね。
そう思った私は、夕方仕事が終わると神殿へ向かおうと歩き出した。
人通りはまだまだ多い時間帯、そう言えばアシュレイは死亡届出されず無事に冒険者として仕事が受けらえるのかしら?
そんな事を考えながら歩いていると――。
「ラシュア!」
「!」
神殿の前に、神官と語っていたアシュレイが私に手を振っていた。
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妻シリーズ第二弾、スタートしました!
二弾目は、バーサーカーの妻になってみました(笑)
色々な職業あるけど、バーサーカーの妻って聞いたことないなーとか思いまして。
後は、何とかイチャラブが書けたらいいな……と言う気持ちを込めて恋愛ものです。
予約投稿となりますが、楽しんで頂けたら幸いです。
また、小説家になろうでも更新しておりますが
毎日更新予定なので(その為、予約投稿ですが)ストレスなく(?)読めるかと思います。
そして、応援やハート等あると、作者の仕事疲れと育児疲れが少しずつ減っていきます(笑)
予約投稿している現在(2020.7.26現在)では、20話まで執筆完了中です。
8月は、リアル忙しい時期なので、7月中に23話分書ければ、毎日更新がギリギリ出来る状態になりますので、現在頑張って執筆中です。
(アップする時には過去話ですね)
頑張って更新していきますので、応援よろしくお願いします/)`;ω;´)
第二弾……が、頑張りますっ!!
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