第2話 傷ついた男性と出会いまして。
一つ目の願い……花屋で働きたいと言う願いが叶った瞬間でもあった。
やっぱりあの時の契約は夢ではなかったのだと痛感出来たのは嬉しかった。
これで夫とも会わなくて済む。いえ、もう元夫かしら?
花屋での生活は水を得た魚のように働くことが出来たのは、この異世界と前世の花に大差がなかったから。
名前だって一緒だし、そんなに苦労することもなく上司には褒められた。
そのうち……ジュリアス国王陛下夫妻が大事にしている施設を狙った放火殺人が頻繁に起こるようになったけれど、直ぐに解決したことでホッとした。
でも―――。
「ラシュア!!」
「マーガレット……どうしたの? そんなに急いで」
「お父さんが……お父さんが!!」
「お父さんが……どうしたの?」
そう問いかけた私に、泣き崩れたマーガレット。
そして何時もは無口なアリミアが、泣きながら父の死を告げた。
――特別老人院での火災で、父は帰らぬ人となったのだ。
犯人の火炙りの刑の際、私は父を殺した犯人が許せなくて、大きな石を投げつけた。
その石は元王太子だとか喚く男の頭に当たり、少しだけ静かになった所での火炙りの刑が執行され、それから数日後――国王陛下夫妻による合同葬儀が行われた。
「リコネル様……ジュリアス様……父は最後まで幸せだったと思います……」
「本当に、この様な大きな合同葬儀を有難うございます」
「………」
前世では両親より早く死んでしまった私。
そして、この異世界では事件に巻き込まれて亡くなってしまった父……。
親を失う悲しみをこの時初めて知った……。
けれど――。
「痛ましい事件でした……そして、私の罪でもあるのでしょうね」
「ジュリアス様?」
「あなた方のお父様を守れなかった私は、国王として失格でしょう……。ですが、こんな不出来な王でも、また国民である、あなた方を守らせていただけますか?」
「勿論です!」
ジュリアス陛下はお優しい人……平民の、いいえ、民の為に涙を流し、それでも守ろうとしてくださる。
そんなジュリアス様を支えるリコネル様だって、涙を溜めて気丈に振る舞っていらっしゃる。
あぁ……私はこの国に、親に捨てられたという現実は変わらないけれど、幸せな事なんだなって感じることが出来た。
戦争のない国、アルファルト王国。
私はこの先、結婚する気はないけれど、ジュリアス様とリコネル様の王国で、平和に暮らしていくんだと思っていた。
それから数年が経ち、私は二十歳になった。
その頃から、国は他国では当たり前だった【ジョブ適正検査】を導入し、国にも他国から来た冒険者が働きやすいようにと色々と施設が整っていったし、実際冒険者たちを見ることは多くなった。
「もう!! また冒険者に声かけられたのよ!? 宿に来ないかーだって!」
「花屋勤務を花売りと間違えてるんじゃないの?」
「腹立つわー!」
「アリミア、間違っても変な冒険者なんかについて行っちゃだめよ! アシュレイ! 貴女もだからね!!」
「分かってるわ」
「……うん」
この頃、冒険者たちは見境なく、可愛いや綺麗な女の人に声をかけまくっていて問題になっていた。
特に若い女性には見境なく……と言った感じで、花屋の店長をしているマダリアさんと、副店長のルシールさんは私たちの事を、とても心配してくれていた。
実際、花屋に押しかけてくる冒険者もいて、私服警備の方々に何度もお世話になったし、それでも懲りない冒険者は兵士の詰め所へと連れていかれていた。
このアルファルト王国では、数年前まで見目麗しい人は少なかった。
元王都が炎上してから、そのあたりがごっちゃになったけれど、それにしても女とみれば……と言う態度は、まるで前世の夫を見ているようで気持ちが悪かった。
「それにしても、冒険者でもちゃんとした人は多いのに、悪い事をする人がいるだけで冒険者の質が低く見えちゃいますね」
「本当ね」
「……飢えた狼」
「「それね」」
そんな事を語り合いながらの花屋の仕事。
けれど、冒険者の中には純愛な方もいらっしゃるみたいで、アリミアは冒険者が買った花を手渡され、付き合って欲しいとまで言われていた。
これには怒ったマーガレットにより撃退されてしまったのだけれど、まじめに恋愛したいのなら私はアリじゃないかなって思ってる。
少なくとも、現地妻が欲しいとか、奥さんがいるけど愛人として囲いたいとかじゃなければ、大事にしたいっていう思いが強いならいいと思うんだけど……。
そんな冒険者に対する威嚇をするマーガレットだけど、客としてたまに来る冒険者には良くしていることを知っている。
雰囲気がアリミアに似ているからか、マーガレットも気兼ねなく話せるみたい。
「ローラン!」
「……お久しぶりです。今日はバラを頂けますか?」
「良いバラが入ってるわよ、どの色がいい?」
「そうですね……では、この愛らしいピンクを」
「ラッピングは?」
「家に飾るので……大丈夫です」
ローラン。
職業は暗黒騎士らしいけど、全然暗黒騎士らしくなく、彼はどっちかというと賢者とかそんな雰囲気のある細マッチョだった。
暗黒騎士と言えば、某ゲームだと、どうしても勝てない相手が出た場合、必殺技を使って自分に敵対心を稼がせ、味方を逃がす役目が多かったはず。
ある意味、影のナイトなのかも知れない。
「ピンクなんて珍しいわね。この前はヒマワリだったわ」
「読んでいる小説に出てくる花を……ね」
「へぇ、ローランは小説を読むの?」
「あぁ、他国では本屋なんて早々なかったし……何より高かったからね。ここには作家さんも多いし、沢山の本が読めるから幸せだよ」
おっとりと語るローランさんにマーガレットは嬉しそうに微笑んだ。
この国の事をよく言われることは、とても嬉しいことだ。
「そう言えば、教会でジョブ診断が半額で受けれるみたいだよ……まだ受けてないのなら行ってみたらどう?」
「ジョブ診断ねぇ……」
「行くなら護衛で付き合うよ……お礼はハチミツたっぷりのパンケーキがいいな」
「もう、そう言われたら断れないじゃない。ラシュアもアリミアも一緒に行きましょう?」
「「「え?」」」
どうやらローランはマーガレットだけを誘いたかったようだけれど、私とアリミアがその事に気が付き首を横に振ると、マーガレットは首を傾げた。
「私とアリミアは買い出しのついでに行くわ。マーガレットはローランさんと一緒に行ってきて、どうだったか教えてくれる? ローランさん、マーガレットの護衛お願いしますね」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
頬を赤くして優しく微笑んだローランさん。
お互い相思相愛なのに、マーガレットは今までそういう経験が無い為か、ちょっと疎いのよね。でもそこが可愛いんだけれど。
「じゃあ、今日の仕事上がりに迎えに来てくれる? 帰りに美味しいハチミツたっぷりのパンケーキ屋に行きましょう?」
「……うん!」
「決まりね!」
こうしてローランさんは嬉しそうにピンクのバラを手にお帰りになり、その日の閉店時間頃にローランさんが迎えに来て、二人は嬉しそうに教会へと向かっていった。
アリミアは配達帰りにそのまま家に帰ることになってるし、今花屋に残っているのは、店長のマダリアさんと副店長のルシールさん、そして私だけ。
そろそろ店じまいと思い外に出ると――ドサッと言う音と共に、暗がりで一人の男性が倒れたのが見えた。
酔っ払い……?
そう思って近寄ると、鉄臭い臭いがして慌てて男性に駆け寄ると――。
「ちょっと! 大丈夫ですか!?」
「うぅ……っ」
「血だらけじゃないですか!! しっかり!!」
冒険者だろうか?
あちらこちらに怪我をして、何とかそれでも立とうとする彼を私は慌てて支え、店の中へと案内すると、マダリアさんとルシールさんは驚き、私たちのもとへと駆け寄った。
「ラシュア! 一体どうしたんだ!」
「ルシールさん! 奥の休憩室借ります! 出血が多いの……直ぐに回復魔法を掛けます!」
「分かった! 俺は医者を呼んでくる!」
「私も少しだけ回復魔法が使えるわ、止血くらいは出来るかしら」
「お願いします!」
こうして、ルシールさんが医者を呼びに行っている間に、私は名も知らない彼に対し、二人掛かりで弱い回復魔法を唱え続けた。
少しずつ傷が癒えていくのを見た彼は驚いた様子で私の顔を見たけれど、私は安心させるように優しく微笑み「大丈夫ですよ」と声を掛けた。
=====
後一話続きます。
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