第6話 賊を追いかけて
闇にうごめく人影が、口々に聞き取れぬ何かを叫びながら、ロンドとガストに襲いかかる。
ガストが剣を抜き、ロンドよりも前に出た。
「ロンド様、後は警護隊に任せて、貴方は逃げてください」
猛然と押し寄せてくる賊を前に、ロンドの全身が冷たくなる。
怖い、逃げたい……そんな思いを追い出すように、奥歯を噛みしめる。
「に、逃げません。僕にもできることがありますから」
ロンドは馬上で両手を組み、早口につぶやく。
『天駆ける光の精霊、今ここに、その存在の徴を見せたまえ。闇を照らす小さき太陽の閃光を――』
つぶやくたびにロンドの身体は光を帯び、神々しさを増していく。
賊が襲い来るというのに、ロンドの心は鎮まっていく。
「ガスト様、三秒ほど目を閉じてください」
「わかりました」
即座にガストが目を閉じる。それを横目で見やると、ロンドは最後の言霊を口にした。
『――我に与えたまえ』
その刹那、白き閃光がロンドの身体から放たれる。
勇み足で襲いかかってきた賊の目に、閃光の矢が突き刺さった。
彼らが乗っている馬も光に驚き、いなないて上体を持ち上げる。
「うわ! め、目が!」
辺りを貫く閃光は、暗闇に慣れていた賊の目を容赦なく焼きつける。
賊の誰もが目を押さえ、頭を振り、中には落馬して地をのたうち回る者もいた。
目を開けたガストが、喉を鳴らして息を呑む。
「一体何をしたのですか?」
「光の法術で目をくらませました。さあ、秘薬を取り戻しに行きましょう」
ロンドは言葉が終わらないうちに馬を走らせ、その場を駆け出す。
が、視力を奪われて暴れる賊を前に、ロンドは馬を止める。
すぐにロンドの横へ、ガストが馬を寄せ、大剣で賊をなぎ倒した。
「ここの賊は私が引き受けます。ロンド様は小瓶を持った男の足止めをお願いします」
「は、はい!」
怖さと心配に後ろ髪を引かれたが、ロンドは覚悟を決めて前に進んだ。
闇の中にぼんやりと浮かぶ棒状の影が並ぶ地と、そこへ馬を走らせていく男の影が見える。
早く追いつきたいのに、ロンドが一歩近づくたびに空気は重くなり、思わず息が止まりそうになる。心なしか馬の走りも鈍い。
辺りに木々が生え、大地は腐葉土に覆われている中、そこだけは青々とした雑草が根を生やしていた。
大地には錆びて朽ちかけた槍が、一カ所に何本も突き刺さっている。
少し触れただけで折れそうだ。しかし、街の人間が誰も近づこうとしないため、今もこうして残っている。
街の人間なら、誰でもこの地を恐れる。
(ここは『
賊たちの狙いにロンドは気づき、血の気が引いた。
気持ちだけが先走るばかりで、ロンドの体は思うように動かない。
けれど男は重々しい場の空気に圧されることなく、変わらぬ速さで駆けていく。
男が馬の足を止め――「そーれっ!」という、気の抜けたかけ声を出した。
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