第5話 まずは隣の街へ
アニム王が帰った嫁の家。
嫁がお義母さんと向かい合ってコーヒーを飲んでいる。
「お母さん、まさか王様がこんなところへ来るなんてねぇ」
「ほんとに・・私だって驚いたわよ」
「ほんと、ほんと。 あんな旦那、どうなってもいいんだけどね。 お金も今はいっぱいあるし・・」
「梓、そのお金って、テツさんが稼いだものでしょ?」
「うん、そうみたい。 何でもギルドを通じて私に振り込まれているらしいの。 月に2度ほどに分けてね。 この街に来てあまりお金も使わないから、どうでもいいのだけれど・・」
「ふふ・・そうね。 お金はあまり必要のない世界になったわね。 でも、あの王様が直接挨拶に来るなんて、テツさんってそんなに偉くなったのかしら?」
お義母さんは言う。
「私にはわからないわ。 でも、避難していた後で帰ってきたら、英雄扱いされてたわよ。 晩餐会は私たちは参加できなかったけど、優に聞いたらいろんな人に囲まれていたって言ってたから・・あの旦那、友達なんて藤岡さんくらいしかいなかったはずなのに・・」
嫁はブツブツ愚痴を言うように話していた。
「そうなんだ・・ま、私たちにはよくわからないわね。 何はともあれ、今の生活は最高だからそれでいいんじゃない?」
お義母さんは相変わらず軽い感じだ。
「そうよね、前の生活に比べたら最高だわね。 さてと、片づけたらスーパーエイトにでもお買い物に行こう、お母さん」
お義母さんもうなずいて一緒に食器を片づける。
凛はスラちゃんを抱え、颯はバーンと一緒に床で遊んでいた。
◇◇
<テツとルナJr>
テツたちは、休憩用に神官長から広い部屋を使わせてもらっていた。
テツがベッドに腰かけてルナJrに話しかける。
「ルナさん、どう思いますか、あの神官長の話」
「うむ。 嘘は言っていないだろう」
「そうですか・・俺たちが、その光の巫女を探さなければいけないのでしょうか?」
俺は早く地上へ帰りたかった。
「ふむ・・それが鍵だろうな」
ルナJrが言う。
「鍵?」
「そうだ。 元の場所へ帰るための要素だろうな」
「要素? ということは、他にもまだ何か必要なんでしょうか?」
俺は不安ではないが、何をどうすればいいのかわからないことに戸惑いを感じる。
「それがわかれば苦労はせんよ、テツ」
ルナJrが笑っていた。
「とりあえずは、その流れに任せてみなければなるまい。 帰りたいのならな」
「そりゃ帰りたいですよ」
俺がそう答えると、ルナJrがニヤッとして言葉を返す。
「ワシはこのままでもいいのだぞ。 お前と一緒にここで暮らすのもいいかもしれんな」
はぁ?
何言ってるんですか、このチビは。
そりゃルナさんは超絶美女ですよ。
でもね、目の前のルナJrは凛と同じくらいの子供です。
美女というよりかわいい子共です。
俺はルナJrの頭を撫でながら言った。
「ルナさん、俺もルナさんみたいな美人と一緒ならうれしいですけど、やっぱり元の世界がいいですね」
「テ、テツ。 貴様、本気にしておらんだろ。 それに頭を撫でるのはやめろ!」
ルナJrは短い手で俺の手を振り払おうとする。
俺は面白くなってきて、両手で頭をもしゃもしゃとする。
「こら、やめろ!」
ゴシゴシ・・。
そのうち俺は両手でルナJrを抱き上げた。
まるで高い、高いをしているようだ。
ルナJrは降ろせ、降ろせと足をバタバタさせている。
俺はゆっくりとルナJrを降ろし見つめて言う。
「ルナさん、ありがとうございます。 なんか少し不安だったのですが、消えました。 そして、これから帰るまでよろしくお願いします」
ルナJrは頭を掻きながら、
「ま、まぁ、仕方ないな。 とにかく帰ったら覚えておれ」
ルナJrはブツブツつぶやいている。
全くこんな1/10の分身体では何もできやしないとかなんとか。
そんなルナJrを見つめていると、ドアをノックする音がする。
コンコン・・。
「失礼します」
ドアが開く。
神官長がいた。
「ルナ様、テツ様、失礼いたします」
「・・・」
俺は言葉がない。
神官長だろ?
そんな人が「様」付けで呼ぶ不自然さ・・引くぞ!
神官長が少し驚いたような表情をする。
「どうかされましたか?」
「い、いえ・・それで、何か?」
光の巫女の件らしい。
・・・
俺はルナJrを見て、神官長を見る。
「神官長、俺たちで良ければ協力させてもらいますよ」
俺の言葉に神官長がいきなり涙を流しだした。
「おぉ・・ありがとうございます。 使徒様と龍神様にそう言っていただければ問題は解決したのと同じでございます。 本当になんとお礼を言ってよいやら・・」
いやいや、まだ始まってもないのにお礼言うなよ!
俺は突っ込もうかと思ったが、そんな雰囲気ではない。
神官長はこの世界で動くには何か身分を証明するものがあれば便利だろうと提案。
冒険者ライセンスなどを取得しておくと一番怪しまれずに各国を回ることができる。
そういって、神官長がライセンスカードを持ってきていた。
聞けば、このライセンスカードは神官認定のライセンスカードらしい。
先程パネルボードに触れた情報を元に作成したのだそうだ。
いろんなところで、普通の冒険者よりも優遇してもらえるという。
・・・
それにしても、神官長は俺たちの返事を聞く前に、既にライセンスカードを作っていたのか。
この人・・もしかして予言者?
神官長から渡されたライセンスカードは金色に彩られている。
一般のライセンスカードは銀色っぽい色だそうだ。
俺はライセンスカードを見つめる。
なるほど、帝都ギルドで発行されたものとよく似ている。
テツ(神殿騎士)。
それだけが表示されていた。
何でも神官に所属するものは、情報が秘密扱いになるという。
神殿の特殊なボードパネルでないと詳細はわからない。
もっとも、俺たちのステータスはそれでもわからなかったらしいが。
俺たちはライセンスカードをもらい、神官長からまずは隣の街で情報を集めてみるのがいいのではないかと教えてもらった。
神殿でもある程度の情報は集まるようだが、それでも現場の方がわかりやすいし、この世界の雰囲気もわかるだろうと言う。
その通りだな。
また、各街にも小さな神殿があり、そこではいつでもここと連絡が取れると言う。
遠慮なく利用してくれとも言われた。
助かるな。
俺はルナJrを見ると、早速出発しようとしていた。
神官長は喜んでいる。
早速出発してくださるのですか? などと膝をついてルナJrに祈りを捧げている。
やめろ、やめろ!
俺はルナJrと一緒に部屋を後にして、出発。
神官長以下、神殿の人たちが見送ってくれた。
・・・
なんか、初めてのおつかいみたいだぞ。
◇◇
<地上>
フレイアのカフェの入口が開く。
「いらっしゃいませ~」
優とレイアが入って来た。
「あら、少し混雑してるけど、こちらへどうぞ。 ランちゃん、ちょっとお願いするわね」
「はい」
学生のランちゃんが元気よく返事をして、飲み物を運んでいた。
「どうしたの? こんな時間に珍しいわね」
フレイアが優とレイアを見て言う。
「うん、あの、優のおばあさんから聞いたのだけど、テツさんのこと・・」
レイアの言葉にフレイアはニコッとして回答。
「あぁ、そのことね。 そうね・・今のお客様が一段落したらお話ししましょ」
フレイアは入り口の外に準備中の掛札をつけに行く。
すぐに戻ってきて、カウンターの中へ入って行った。
ランちゃんとフレイアがテキパキと作業をこなしていく。
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