第6話 食事の問題



しばらくすると、お店のお客もいなくなった。

フレイアはエプロンを外し、ランちゃんに言う

「お疲れ様。 ランちゃんこれで食事でもしてきて」

帝都ホテルの食事券を渡していた。

何でも特別優待券みたいだ。

ランちゃんは目を大きくして、飛び上がるように喜んでいた。

フレイアにペコッと頭を下げて、急ぎ足で帝都ホテルに向かったようだ。


食事券は先の邪神王の戦いの後にいただいたという。

10年くらいはタダでおいしい食べ物が食べられるのだとか。

とはいえ、お金を払っても減ることはないみたいだが。

凄いぞ、フレイア。


お昼のお店が終わったようだ。

フレイアが優たちの横に来て座る。

「えっと、テツのことだったわね」

フレイアは微笑みながら話す。

「うん。 優のおばあさんの話だと、どこかへ飛ばされたとか・・おばあさんもあまり心配していなかったし、詳しくはこちらも聞かなかったのよ」

レイアが複雑な表情で言う。

フレイアはにっこりとして話す。

「そうね・・私も心配はしていないわ。 アニムが言うには、地球のアイテムボックスのような空間にいるのですって。 そして、その空間がテツの何かを必要として、それが満たされれば解放されると言っていたわ。 だから私も全然・・って言えば嘘になるけど、ルナ様の分身体もついているし、問題ないんじゃないかしら」

フレイアが一気にそう話した。


レイアと優はその話を静かに聞いている。

「そうなのですか・・ばあちゃんの話を聞いて少し心配していたのですが、この星とは全く違うところではないのですね」

優が静かに話す。

「そうね、優君。 でも、次元は違うわよ」

フレイアが言う。

「「え? 次元・・」」

「そう、次元が違うのよ」

フレイアがそう言って説明をした。

・・・・

・・

「「なるほど・・」」

優とレイアがつぶやく。


フレイアは優たちがハモりながらつぶやくのが可笑おかしかった。

「あはは・・あなたたち、ほんとに仲いいわね。 ま、そういうことだから、心配しないでいいわよ。 あ、それにテツが解放されるのはそんなに長い時間は必要ないかもしれないわね」

フレイアが言う。

「え、お姉ちゃん、どういうこと?」

レイアがポカンとした表情で聞く。

「あ、これは私の推測なんだけど、私が邪神王の中にいたときに過ごした時間・・その中ではかなりの時間過ごしていたような感じがしたの。 でも、結局は数日だけだったようなの。 なんていうのか、その空間とこちらの空間って時間の流れが全然違うと言うか・・そう! アイテムボックスって、時間が止まったような感じでしょ? あの感じよ」

フレイアが言う。

「アイテムボックスか・・」

レイアがつぶやく。

優は黙って聞いている。

「ま、何にしても心配しても始まらないし、ね」

フレイアが明るく微笑んでいた。


◇◇


<テツたちの旅>


俺たちは神殿を後にして隣の街に向かった。

移動手段に飛行船はない。

代わりに地上を動く乗り物があるという。

魔法で動くようだ。

神官長に聞いたところによると、100人程度を一度に輸送できるという。

冒険者は自分の足で移動するものもいるが、武装集団などが街をつなぐ街道で出没することがあり、危険を伴うのだそうだ。

都市の中は安全が保たれているが、その社会システムに適応できないものなどが街の外で暮らしているらしい。


なんだか、社会システムが発達しても適応できないものは一定数はいるのだろうな。

俺はそんなことを思いながら、輸送してくれる車の場所まで向かった。


神殿都市の街の外れにあるようだ。

都市の街並みは、アニム王国とそれほど変わらない。

ただ、より近代的な感じがする。

幾何学的な作りが多いせいかもしれない。

歩いている人は軽装な感じが多い。

俺みたいに刀をぶら下げているやつは少ない。

背中に剣を背負っている人たちをたまに見るくらいだ。

後は魔法使いだろうか、杖などを持った人が多い。


そういえば、あのスノトラって子、銃を持っていたよな?

神官銃とか何とか・・。

確かに、剣も見かけることは見かけるが、小型の銃器を持っている人が多いのかもしれない。

パッと見た目には、持っているのかどうかわからない人が多いような気がする。

俺のシルバーもこちらの世界では使えるかもしれない。

そう思って、アイテムボックスから出し、防具の内側に装着した。


俺の銃を見てルナJrが言う。

「テツ、その銃だが見せてもらえるか?」

「え、えぇ、いいですよ」

ゆっくりとルナJrに手渡す。

渡した瞬間に思った。

しまった。

もしかしてルナJrでは持てないかもしれない。

そう思ってルナJrに声を掛けようかと思ったら、問題なかった。

ルナJrが、少し重そうな感じで銃を持っているが、問題なく持てているようだ。

「なるほど・・ずっしりとくる感じがする。 ワシが完全体であれば簡単に持てるのだろうがな。 これはテツの父上が作ってくれたのか?」

ルナJrが言う。

「はい、そうです。 私が無理を言って作ってもらいました」

「ふむ・・さすがだな」

ルナJrはそう言うと銃を返してきた。

俺はそれを受け取ると元の場所へ戻す。


目の前に輸送車の停車場だろうか、そんな場所が見えてきた。

バスターミナルのような感じだが、それほど大きくはない。

すぐに卵型の大きな物体が、静かに移動してきた。

銀色の大きな卵のようだ。

タイヤはついていない。

帝都の飛行船ほどは大きくはないが、俺が南極に行ったものよりは大きい。

地上からは50センチほど浮いているのだろうか。

停車場のところへ来ると、少し低い位置になり音もなく入り口が開く。

人が2人ほど通れる広さだ。

楕円形に入り口が作られている。

前に並んでいる人たちに続いて中へ入る。

!!

驚いた。

中は広い。

見た目と全然違う。

確かに100人くらいは運べるんじゃないか?


そうか、空間拡張か・・俺はそう勝手に思う。

ルナJrは別に気にするでもなく、スタスタと歩いて行き席につく。

俺はルナJrの後を遅れずについて行き横に座った。

1人1人座れる椅子で、横に5列ほど並んでいる。

外観からは中の空間は想像もできないな。

どう見ても20人乗れるかどうかの大きさだ。

マイクロバスくらいの大きさの卵型の乗り物に、実際は100人くらいは乗れる代物だ。

この世界の文明って、やっぱり進んでるじゃね?

ルナは椅子にもたれて目を閉じていた。

どうやら寝ているようだ。

疲れたのかな?

まぁいい。

15分ほどで隣の街に運んでくれるようだ。


俺の2つ前の席に座っている冒険者だろうか、話し声が聞こえる。

「・・おい、知ってるか? 光の巫女がいなくなったって話だぞ」

「まさか、誰が見たんだ?」

「いや、話だ。 誰から聞いたかな・・忘れたが、そんな話をしているのを耳にしたんだよ」

「もしそれが本当だったら大変なことになるぞ」

「そうだな、光の信徒は多いが、それをよく思ってない連中もいるからな」

「戦争にでもなったら、俺逃げるぜ」

「あぁ、全くだ。 神官銃なんて撃たれた日にゃ、奴隷確定だものな」

「あぁ、すべての意思を刈り取られて廃人だよ」

「それにしてもお前、そんな情報を本当にどこで仕入れたんだよ」

「・・それが、よく思い出せないんだ」

「なんだそれ?」

・・・

・・

冒険者は笑いながら話していた。


俺はそれを聞いていて考えることがあった。

もしそんな情報が流れているなら陰謀だろうと思う。

神官長は、光の巫女は一般人の目に触れることは一生ないと言った。

これを真実とすれば、光の巫女をさらったものたちがわざと情報を流しているのだろう。

だが、何の目的で?

それがわかれば苦労はしないな。

俺はそう思うと自嘲した。

それにしても、神官銃ってそんなヤバい代物だったのか。

撃たれたら意思を失わせるのか?

そういう魔法付与をしてあるのかな?

俺がそんなことを考えていいたら街についたようだ。


街はイザベルと呼ばれている、まぁまぁ大きな街のようだ。

移動中は、窓がないので外の景色が見えないのではないのかと思ったが、普通に見えた。

外の映像がそのまま流れている。

マジックミラーなのかと思ったが、よくわからない。

停車場について、移動車から降りてみると、神殿都市よりもより近代的な感じがする。

サラリーマンじゃないぞ、なんて思ってみるが歩く人は冒険者スタイルだ。

さて、まずはルナJrと街を歩いてみようかと俺は思っていた。

ん?

なんかルナJrがしんどそうだ。

「ルナさん、どうしたのですか? 体調が悪いのですか?」

俺が聞くと、しんどそうな感じで答える。

「うむ。 まぁ問題ないと言えば問題ないが、あると言えばある」

は?

何それ?

「・・ルナさん、どういうことですか?」

「うむ・・食事の問題だな」

「食事・・ですか?」

「うむ。 ダンジョンを維持しているときは、大量に魔素が流れ込んでくるのだが、今は途切れている。 それに私は分身体だ。 まぁそのまま消滅しても問題はないのだがな・・」

・・・

いやいや、ルナさん。

それは俺が困ります。

何で、何もしていないこんな女の子が消えなきゃいけないのです。

俺は、ルナJrにそんなことを言ってみた。


「そうは言ってもなぁ・・」

ルナJrは何か言いにくそうな感じで話す。

「ルナさん、食事の問題と言ってましたね。 誰かを食べないとダメだとか・・」

俺がそう言うと、思いっきり殴られた。

バコッ!

「アホか、テツ。 そんな獣魔のようなことをするか。 ライフドレインと言って、相手の生命エネルギーをいただくのだ」

「ライフドレイン・・」

「そうだ。 まぁ生命エネルギーとっても、ほとんどの生き物は垂れ流しているからな。 ダンジョンでは魔物もいるから問題なかったのだが・・ここではなぁ」

俺は聞いていて思った。

俺の生命エネルギーではダメなのだろうか?

いや、もし吸われて俺の身体能力が落ちるのはちょっと嫌だな。

でも、ルナJrがこのままいなくなるのはもっと嫌だ。


「ルナさん、俺の生命エネルギーではダメですか?」

俺がそういうと、ルナJrが少し驚いた顔で俺を見る。

「いや、全く問題ないが・・」

「それと・・その生命エネルギーを奪われたら、俺の能力値が低下するとか何か不具合が発生したりしますか?」

俺がおそるおそる聞くと、ルナJrが笑いながら答える。

「カッカッカ・・そんなわけなかろう。 そうだな・・少し全力で動いて疲れた程度だろう。 半日もすればすぐに回復するようなものだ」

俺はそれを聞いて少しホッとした。

「そうですか。 ではルナさん、俺の生命エネルギーを使ってください」

俺は言う。

「・・テツ、いいのか? 本当にいいのか・・」

ルナJrは、少し目をうるうるさせていう。

ルナさん、少し不安になるよ。

本当に大丈夫なんだろうな・・やっぱやめようかな。

「ルナさん、本当に俺の身体に不具合はないですよね?」

俺がそう言うと、大きくうなずいた。


怪しすぎるだろ・・大丈夫か?

「ルナさん・・まぁいいですよ。 それよりも先に休憩できる場所を選んでからですね」

ルナJrが少し元気になったような気がした。

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