第4話 報告


「おそらくテツの何かの能力に反応したのだろうな。 それにこれは召喚術などのように、次元の違うものを移動させるものだ。 魔素に反応するわけではない。 ふむ・・私の分身体もついている。 そのうち戻ってくるだろう」

ルナは初め真剣に答えていたが、最後の方には軽い感じになっていた。

「ルナ様、それは本当ですか?」

ウベールが声を出す。

「そうだな・・問題となるようなことはないということだ」


ウベールは余計にわけがわからなくなった。

「ルナ様、何をおっしゃってるのかわかりませんが・・」

「うむ。 召喚するための配置布石、それに反応したテツが召喚されたのだ。 神かそれと同等の存在としてな。 だからこその遺跡の反応なのだろう。 今頃、向こうで楽園じゃないのか、テツのやつ」

ルナはそう言うと笑っていた。


その言葉を聞いたアニム王も少し驚いたような感じだ。

周りにいた人なども口々つぶやいている。

「・・神と同等の存在?」

「まさか・・そんなことが・・」

「あの地球人はそれほどの能力を・・」

「邪神王と戦ったのは王様ではなかったのか・・」

・・・・

・・

などなど、勝手な言葉が聞こえていた。


アニム王はそんな会話を微笑みながら聞いている。

だが、ウベールは笑えるわけもない。

それにどこに転移させられたのか、まだ解決していなかった。

「ルナ様・・私には笑うことができません。 テツ殿とあなた様の分身体がどこに転移させられたかもわからないのですよ」

ウベールは必死の表情で言う。

周りの人間もハッとしたような表情でルナを見る。

ルナも笑うのをやめ、一同を見渡して言う。

「だからアニムが言ったではないか。 どこにも転移されていない。 この星にくっついて亜空間にいるのだ。 アイテムボックスの中にいると言ってもいい」

アニム王以外、皆ポカーンとしている。

「ま、そのうち空間の要望が満たされれば、解放されるだろう」

ルナはアニム王に疲れたから帰ると言って去っていった。

アニム王も一応理解したようだ。


ルナが部屋から出て行くのを見送ると、アニム王たちはまた会話を始める。

ウベールが真剣な顔でアニム王の方を向く。

「王様・・ルナ様はあのようにおっしゃいますが、私にはすぐに受け入れることができません」

「ウベール、テツの状況はわからないが、転移自体は私もそれほど心配してはいないよ。 ルナの言葉通りだと思う。 この星に属しているのなら、変な言葉だが、安心だよ」

アニム王はそう言うと、後はよろしくといって部屋から出て行った。


ウベールは他の調査員たちと顔を見合わせて、資料の整理をする。

「ウベール様、王様もルナ様もご理解されたようです。 我々もその方向で考えていかなければ・・」

神官職の美人さんが声をかけていた。

「わかってはいるのだが、ね。 私の目の前での失態。 私が不甲斐ないばかりに・・」

ウベールはまた自分を責めていた。


◇◇


アニム王は王宮を後にして、テツの家の方へ向かっていた。

今回の件を知らせておかなければならない。


テツの両親の家の前に来た。

家の呼び出しを鳴らす。

「はーい」

ばあちゃんの声だ。

しばらくして、ドアが開く。

ばあちゃんは少し驚いて、言葉が出てこなかった。

「テツのご母堂様、お知らせしたいことがありまして伺いました」

「え、えぇ、こんにちは、王様・・」

ばあちゃんは少し放心状態のようだ。

「中へ入ってもよろしいですか?」

アニム王が言う。

「あ、はい、はい。 どうぞ」

ばあちゃんが中へ案内する。


アニム王はリビングへ案内されて、じいちゃんを見つける。

「これはテツの御父上様、いつもお世話になります」

アニム王が丁寧に挨拶をする。

じいちゃんはゆっくりと立ち上がり、頭を下げて言う。

「いえいえ、こちらこそこんな年寄りを使っていただいて、ありがとうございます」

じいちゃんはそう挨拶を返すと、ソファに座る。

アニム王もソファに座った。

ばあちゃんがお茶をれていたようで、2人に差し出す。


お茶を一口飲んでアニム王が話す。

「やはり、これはおいしいですね」

そして、続けて言う。

「テツのことですが・・」

・・・・

・・

アニム王は話始めた。

テツが転移させられたであろうこと。

またそれがこの地球のアイテムボックスのような空間で、遠くではないこと。

こちらからはアクセスできないが、必ず戻って来るであろうことなどを伝えていた。


「そうですか。 わざわざお越しいただいて申し訳ありません」

ばあちゃんが言う。

「いえ、私には報告する義務があります」

「王様、あんなバカ息子、放っておいても勝手に帰ってきますよ。 ありがとうございます」

ばあちゃんはそういうと、じいちゃんと一緒に頭を下げていた。


アニム王はお茶をいただくと、ばあちゃんの家を後にする。

次はフレイアに言っておかなければいけないだろう。

きっと怒るだろうな。

アニム王はそう思いつつ、フレイアのカフェの前に来た。


時間は11時頃。

フレイアのカフェの入口を開け、カラン、カランと鳴らしながら入って行く。

「いらっしゃいませ~」

フレイアの声が迎えてくれる。


「あら、アニムじゃない。 どうしたの、珍しいわね」

フレイアが声をかけてくる。

「フレイア、忙しいところすまないね」

「ううん、まだ忙しくなるには少し時間があるわ」

フレイアが微笑みながら答える。

「うむ。 実はねフレイア、テツのことなんだが・・」

・・・・

・・

アニム王はテツの両親に話したのと同じことをフレイアに話した。


「そうなんだ・・」

アニム王はフレイアがそう答えながら、あまり落ち込んでいないことを不思議に思った。

「フレイア、怒らないのかい?」

「何を言ってるのよ、アニム。 別にテツが死んだわけじゃないのでしょ? それにこの星にいるんじゃない。 離れているわけじゃないわ」

「すまないな、フレイア。 私たちも遺跡のことを甘く見ていたようだ」

アニム王が軽く頭を下げる。

「ううん、そんなことないわよ。 ま、そのうち帰って来るでしょ」

フレイアが明るく答える。

カフェの入口が開く。


「いらっしゃいませ~」

フレイアが声を出す。

アニム王は立ち上がり、フレイアに挨拶をしてカフェを後にする。


カフェに入って来たお客が一瞬不思議そうな顔をして、お互いに顔を見合わせた。

「おい、今の人ってアニム王じゃなかったか?」

「まさか・・よく似てたけど、こんなところにいるわけないよ」

「それもそうだな・・」

そう言ってカウンターに行った。

フレイアがにっこりとして、お客を迎える。

「お客様、こんなところで悪かったわね」

お客はお互いに顔を向き合わせて、一斉にカウンターに頭をこすりつけた。

「「す、すいませんでしたぁ!!」」


アニム王は最後にテツの嫁の家の前に到着。

さて、私とはあまり面識はないが報告はせねばなるまい。

家の呼び鈴を鳴らす。

「はーい」

凛の声がした。

少しして、入り口のドアが開く。

凛がドアを開け、アニム王を見る。

颯の従魔のバーンがパタパタと凛の近くで飛んでいる。


「こんにちは・・えっと、凛ちゃんだったね。 お母さんはいるかい?」

アニム王が聞く。

「あ、はい。 王様ですよね? ちょっと待ってくださいね」

凛は不審そうな顔でアニム王を見て、奥へと声を掛けにいった。

バーンが凛にくっついて飛んでいきながら、王様、王様とうるさい。

入り口でアニム王は待っている。

家の奥で凛の声が小さく聞こえていた。

「ママ、王様が来たよ・・」

「凛、何言ってるのよ。 王様がこんな家に来るわけないじゃない。 誰が来たのかしら・・」

そんな声を聞きながらアニム王が待っていると、テツの奥さんが来たようだ。


アニム王は微笑みながら入り口で立っていた。

嫁はその姿を見て固まっていた。

動けないようだ。

「テツの奥さんですね。 実は報告したいことがありまして・・」

アニム王がそう言うと、嫁はハッと我に返り振り向いて急いで声を出す。

「お母さん、王様! アニム王が来られたわ。 えっと、お、王様。 中へどうぞ。 狭いところですが・・」

嫁はあたふたしながらアニム王を家の中へ入れる。


リビングは散らかっていたが、お義母さんが急いで片づけていた。

アニム王が入って来ると、肩で息をしながら微笑んでいる。

「王様、こんにちは」

お義母さんが挨拶をする。

アニム王も軽く頭を下げ、挨拶を返す。

凛が近寄って来て、

「王様、ここに座ってくださいね」

そう言ってソファに案内した。

アニム王がソファにゆっくりと座る。

その座り方にやはり品を感じる。


颯が凛と一緒にアニム王の近くに座った。

バーンが王様、王様と連呼している。

「バーン、少しうるさいよ」

颯に注意され、すぐにバーンが静かになった。

足下ではスラちゃんがゴミを片づけていたようだ。

アニム王は微笑みながら、その光景を見ていた。


いいものだな、家族は。

そう思っていると、嫁がコーヒーを淹れて出してくれた。

アニム王は一口飲んでテツのことを話しだす。

「テツの奥さん、実はですね・・」

ばあちゃんの家やフレイアの家で話した内容と同じことを話す。

・・・

・・

話が終わると嫁が言う。

「王様、わざわざそんな報告を・・ありがとうございます。 ですが、死んだわけではないようですし、問題ありません」

「えぇ、私もそれで安心しています。 とにかく地球にいるようですしね」

そう言って、出された飲み物を飲み干した。

「うちの旦那がそんなところへ飛ばされたなんてねぇ・・まぁ今までもいてもいなくても変わらないから大丈夫かな?」

嫁がそんな言葉をつぶやいていた。

「梓!」

お義母さんが声を掛ける。

「あはは・・王様、お知らせしていただき、本当にありがとうございました。 私たち家族は問題ありません」

嫁はそう言うと、アニム王に深々と頭を下げていた。

アニム王は、報告が終わると嫁の家を後にする。


歩きながらアニム王は思っていた。

家族というのはいいものだ。

しかし、テツもあれでなかなか苦労しているようだ。

そう思うと苦笑してしまった。

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