第3話 召喚術



俺はゆっくりと神官長に近づいて行き、軽く神官長の肩に触れる。

「神官長様、どうぞお顔をお上げください。 年長者の方が軽々しくそんな態度をするべきではないですよ」

神官長は顔を上げいきなり泣き出した。

「おぉ、何と慈悲深きお言葉。 ありがとうございます。 私ごとき下賤げせんなものに触れていただき、感謝の言葉もありません」

「いや、あのね・・」

「「どうか、ご容赦を!!」」

神官長は若い男と一緒にただひれ伏している。

俺の言葉を聞いてないだろ。

しかし、俺も笑う気にはなれなかった。

チラっとルナJrを見ると軽くうなずいていた。


「神官長、わかりました。 どうぞお顔をあげてください」

神官長たちはゆっくりと顔を上げてにっこりとしている。

おい、若い男、おでこから血が出てるぞ。

俺がその額の血のところを指さそうとすると、またしても頭をこすりつける。

あ、距離が近すぎるんだ。

俺は少し距離をとった。

神官長たちは落ち着いて来たようだ。

なんだ、やはり距離が近かったのか。

面倒なやつだな。


「神官長、別にどうということはありません。 俺たちはこの世界のことはよくわかりません。 よろしければその辺のことを教えていただけませんか?」

神官長は快く教えてくれる。

この神殿国家はブレイザブリクと呼ばれている。

世界には大きく分けて6つの国が存在し、この国が世界で最大の勢力を持っているという。

機械文明を発達させた国、魔法を発達させた国など。

この国はバランスよく両方を取り入れている。

それらの国が分かれて6つの国になっているという。

ただ死霊国家なるものがあり、夜の神を名乗っている国がある。

調査に行ったものはいるが、帰ってきたものはいない。


また、この世界は3神を信仰している種族のようだ。

光の神、夜の神、龍神の3神だ。

その中でも光の神が半数以上を占めている。

神は象徴的な存在で信仰の対象になっているらしい。

つまり、神官長なども現物を見るのは初めてなのだという。

それで狼狽したのか。

まぁ、いい。

そして、国の運営を行っているのは王様みたいだ。

5年ごとに国民の総意で選出されるそうだ。

・・・・

・・

いろいろと話してくれた。


話の後、神官長と若い男が難しい顔をしていた。

何か言いたそうだが言えない、そんな感じだ。

少しして神官長が覚悟を決めたのか、俺たちに話してきた。

「夜の神に仕える方、そして龍神の眷属の方。 この出会いと転移は偶然ではないように私には思えるのです」

ルナJrは神官長を見つめている。

「どういうことなのですか?」

俺は聞いてみた。


神官長と若い男が向かい合ってうなずくと、俺たちに話してくれた。

「はい、実は先日、光の神に仕える巫女が誕生したのです。 母子ともに健康に過ごされていました。 それが3日ほど前に突然いなくなったのです。 神に仕える巫女は、我々神官職がお守りし、一般市民と接触することはありません。 生涯、その存在は確認されますが、神官職以外の人と接触することはないのです。 その巫女と母がいきなりいなくなりました。 全神官に聞いても、誰も知らないというのです。 これが外に漏れれば大変な事態になることは明白です。 そんな時、あなた方が現れたのです。 これは神の意思以外の何物でもありません・・」

・・・・

・・・

神官長はいろいろと話してくれる。

光の神の巫女がいないとわかると、神殿国家は信頼を失ってしまう。

そうなれば、今均衡を保っている国同士など、どうなるかわからない。

光の神の下、その祝福の恩恵のためにつながっているようなものだから。


◇◇


<遺跡調査から帰還したウベール隊>


飛行船が発着場に到着。

ウベールは飛行船の入り口が開くのをイライラしながら待っていた。

入り口が開くと全力で王宮へ向かう。

他の調査員は忘れ物がないかを確認して、なるべく急いでウベールの後を追う。


ウベールは王宮の係に軽く挨拶するとそのまま大広間に向かった。

この時間は大広間でおられるはずだ。

ウベールはそう思いながら大広間に到着。

入り口からアニム王を確認すると、急ぎ足で向かって行く。


すぐにアニム王の前に到着し頭を下げる。

「王様、私がいながら申し訳ありません」

「ウベール、あなたの責任ではありません。 内容は聞いていますが驚いています」

アニム王は落ち着いた口調で言う。

「本当に申し訳ございません。 遺跡を調査した時には何の反応もありませんでした。 魔素を測定しても自然界の魔素レベルでした。 油断しました・・」

ウベールは自分を責めていた。

「ウベール。 誰も予見できるものではない事案です。 さて、調査員たちも到着したようですし、報告を調べ直しましょう」

アニム王がそういうと奥の部屋へと皆で移動する。

・・・

・・

調べていても、問題があるような感じではない。


遺跡の時代が王国の遥か以前の文明と似ているという。

ザナドゥ、あの邪神教団の宗主の居た時代らしい。

古いものでは、それ以前かもしれないという。

それが何故この地球にあるのかはわからない。

だが、今はそれよりもテツとルナの分身体が消えたことだ。


ルナはダンジョンの制作で出かけているので間もなく帰って来ると思うが、それまでに分かることははっきりさせておきたい。

作業をしているとウベールが言葉を発する。

「私も少し落ち着いて来ました。 そこで思うのですが、王様はあまり焦られてはおられないように感じます」

アニム王は少し微笑みながら答える。

「そうだね。 テツが死んだのではないということ。 ルナは分身体なのでこちらは問題ない。 それに念話などが通じず、気配すら感じられない。 これが不思議なのだよ」

「・・どういうことですか?」

ウベールが聞く。

他の調査員や政務官も皆、アニム王の方を向く。


アニム王が皆を見渡して言う。

「おかしいとは思わないか? 全くその存在を感じさせずに転移。 ウベールたちが調べても、自然に存在する魔素以外にない場所だ。 転移させる側が干渉しているのなら、そのつながった名残があっても不思議ではない。 それがない」

アニム王がそこで一息つき、続ける。

「そこで、これは私の推論なのだが、邪神王がフレイアを閉じ込めていたような空間。 アイテムボックスのような空間に収納されているのではないだろうか。 そう考えると納得できるのだがね」

アニム王がそう言うと、よく響く女の人の声が聞こえてきた。

「よくわかっているではないか、アニムよ」

ルナが入って来た。

その場にいた、アニム王以外のものが全員席を立つ。


ルナはそのまま歩いてゆき、アニム王の近くの席に座った。

「ルナ、お疲れ様でした。 これが今私たちが見ている資料です」

アニム王はそう言って資料を提示。

パネルボードに撮影したものを立体的に映し出す。

テツたちが遺跡の中で、白い光に包まれていきそのまま消える。

ルナが来るまでに何度も見た映像だ。

ルナがもう一度見せろと言う。

「おい、そこで止めろ」

ルナがそう言うと、テツが1歩踏み出したところの映像で固定されていた。

ルナはジッとその映像を見る。

「なるほど・・アニムよ。 この石の配置だが、おぬしたちの言うようにザナドゥ以前の魔術の召喚術によく使われていた配置だ」

!!

ルナの言葉に皆が驚く。

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