第9話 無慈悲な一撃と出会い
「「「ぐはぁっ!」」」
鳥の化け物が放った風の刃は、無慈悲な一撃となって3人に襲い掛かった。
吹き飛ばされた3人は壁に打ち付けられ、ほんの一瞬意識が遠のくが、 僧侶が最後につぶやいた「回復…」で、3人は辛うじて意識を保つことができた。
しかし脚元に広がる血の海は、確実に彼らの命が終わりに近いことを悟らせた。この世界の「死」は現実なのである。
「ごめんね、ママがゲームなんかにはまらなければ…」
魔法使いのエリは涙をこぼし、日本に置いてきた娘が脳裏に浮かぶ。
戦士のマッキーは何も考えず鳥の化け物を見つめていた。
僧侶のワカナは立ち上がろうとするも、自分の両足がズタズタに切り裂かれていることに気付き絶句した。
鳥の化け物は勝ち誇ったように3人を見下ろしている。そして「ご馳走だ」と感じたかのように、その喉を鳴らした。
「グギョロゴロロ…」
3人にとってその音はかつて聞いたことがない悍ましいものであったが、先ほどの攻撃で致命傷となる一撃を受けており、耳をふさぐことも逃げることもできない。
~~
10階層を出た俺は、のんびりダンジョンを探索しながら地上を目指していた。
レベル10で取得したスキル「探索」は、まだ自分のレベルが低いため、自分のいる階層の前後1フロアまでしか探索範囲がない。
そして4階層に上がり何気なく「探索」を使うと、人が3人倒れていること、そしてあの鳥の化け物がその3人の前に立ちはだかっていることに気付いた。
「マズイぞ、場所は3階層か。ボン、急ぐぞ、間に合ってくれ!」
~~
3人は鳥の化け物に喰われることに気付き、恐怖した。
生きたまま食べられる、そんな現実は日本では考えられなかった。しかし今それが現実となろうとしている。
鳥の化け物は誰から食べるか、吟味しているようであった。そして魔法使いのエリ前で視線が止まる。地面に降り立ち、ゆっくりと歩いてきた。
「そんな、やめて、いやよ!ひっ、ひっ」
言葉にならない嗚咽が静寂と化した洞窟に響く。
鳥の化け物は遠慮なく口を開き、頭から飲み込もうと加えこむ瞬間、ダンジョンが揺れた。それは日本で言えば震度4ほどの地震、その瞬間驚いた鳥の化け物は羽ばたいて舞い上がる。
そして時間にして10秒ほどが過ぎ地震も収まると、再び鳥の化け物はエリの前に降り立つが、先ほどと違いかなり周囲を警戒している様子だ。
静寂が場を支配する中、鳥の化け物がエリに視線を戻した時、目にもとまらぬ速さで飛んできた石がその頭に激突した。
「グギャグギャ~~~~~~!」
鳥の化け物は怒りの咆哮を石が投んできた方向に向け、そしてサトルを見つけると風魔法で風の刃を巻き起こした!
「それは2度もくらってるんだよ!」
サトルはそう叫ぶと、風の刃をすべて交わし、一閃、炎をまとった剣が鳥の化け物の首を落とした。
ドスンという響きとともに鳥の化け物が倒れると、あたりを静寂が支配する。
魔法使いのエリは最後の力を振り絞り、顔を上げて鳥の化け物を倒した本人を見つけた。
あの化け物を倒してくれたのか、喰われずに済んで良かった。でもこの状態では私は助からない。せめて娘に一言伝言を…
しかしその悲痛な願いは、いい意味で裏切られた。彼女は信じられない現実を目の当たりにしたのだ。
「回復するから動かないで。完全回復!」
体から痛みは消え、彼女は自分が助かったことを理解した。
(ふぅ~っ。何とか間に合ってよかったよ。しかしびっくりしたよな。いきなり3人も死ぬところだったんだから)
(レベル10に上げて探索と完全回復を取得していなかったらヤバかった。それにしても、なんでこの魔物がここにいるんだ?)
「この化け物は10階層のやつだよな…」
“ダンジョンには周期があり、一定の周期で下の層から強い相手が紛れ込んでくることがあります。10階層の扉を守る鳥の化け物が出るのはごくわずかですラ”
腑に落ちない自分を意識したボンの解説で状況が理解できたが、3人はいまだに放心状態だ。
「みんな大丈夫か?俺はサトル。魔法戦士だ。このダンジョンにいるということは、日本人ということでいいのかな」
サトルはゲームクリアを証明する腕輪を見せながら3人に話しかけた。
「落ち着いたわ。助けてくれてありがとう。私は魔法使いのエリ、この通り、私たちはあのゲームのクリア者よ」
そういって3人は腕輪を見せてくれた。魔法使い、戦士、僧侶の3人か、ということは、俺を含めて4人が揃ったということかな。
「俺たちは君を探してこのダンジョンに来たのだが、まさかあんな化け物が出るとは。俺は戦士のマッキー、本当に助かった。心から礼をいいたい」
「私は僧侶のワカナ。私からもありがとう」
そういって二人は俺に頭を下げた。これで4人揃ったことになるが、どうすればいいのかわからない。冷静に考えるとまずは安全確保か。
「とにかくダンジョンを出ようか。さっきの化け物より強い奴が出たらマズい」
「そうね。かなり疲れたわ。それに、いろいろと確認した方が良さそうだし」
まだ地上まで3階層ある。油断はできないから「探索」を使いながら慎重に上を目指していく。
「ところでサトル君といえばいいのかな、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「君付けはなんか恥ずかしいな、サトルでいいよ」
「あなたはさっき下の階層から上がってきたよね」
「そうだ。さっき10階層をクリアしてきたばかりだからな。あの鳥の化け物は10階層の守護者と同じだった」
「「「えっ!」」」
「ということはソロで10階層をクリアしたっていうこと?信じられない!」
“確かにサトル様は単独で10階層の守護者を討伐しています。しかもダンジョンに入って2日でのものです。寂しいことに私は一度も戦闘に参加していませんラ”
ボンの説明で3人はサトルが嘘を言っていないことを理解する。
「たった2日で…」
複雑な目で俺を見る3人。彼らはこの規格外の魔法戦士を絶対に仲間にしなければと心に誓っていたのだ。
「パーティー結成」へつづく…
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