第8話 先を行く三人
「そっち行ったわよ!」(エリ)
「オッケー、くっ、思った以上に固いな!」(マッキー)
「しっかりして!こいつを片付けたらそっちに行くから」(エリ)
「まもなく防御魔法の効果が切れます。早く!」(ワカナ)
魔物に翻弄されながら、3人は力を合わせてなんとか4階層をクリアした。
「やっぱり3人だとキツイわね」(エリ)
「戦士、魔法使い、僧侶はバランスが悪い。やっぱりゲームと同じように魔法戦士が欲しいところだな」(マッキー)
「こっちに来て10日ぐらい経つけど、なかなか出会えないものね。次のダンジョンにいっているのかしら。いやソロでそれはないはず。まさか引きこもってんじゃないでしょうね…」(エリ)
“一度エスタに戻るのもいいかと思います。3人で下の層に行くのはリスクが高いかト”
召喚獣のアドバイスに3人は頷いた。
確かにそうだ。ゲーム世界では雑魚に分類されるこの程度のモンスターに手こずるようでは、この先さらに厳しくなる。やはりここはエスタに戻って、4人目を探す方が無難かも。しかし私には時間がない。早くあっちに戻らないと娘が心配だ。
「そうね。装備の点検も兼ねて戻りましょう」(エリ)
日本から来た3人は鳥の森ダンジョン4階層から街へ戻った。
~~
その頃サトルは、鳥の森5階層で鷲のようなモンスターと戦っていた。
「よっし倒せた。なかなかだな。なぁボン、今レベルが5に上がったけど、レベル上げのスピード的にはどんなものかな」
“歴代でもトップかと。
このダンジョンに入って単独で、たった2日でレベル5は記録にありません。素晴らしいですラ。
なお、レベル5になったのでスキルが増えているかと思います。ご確認くださいラ”
それは嬉しいね。さっそく腕輪を操作し、ウインドウを開いて確認してみた。
しかしレベル2で使えるようになったこのウインドウは優れもので便利。スキルや能力、持ち物に体力まで丸わかりである。ただ、この世界の人には使えないスキルだそうだ。
スキルを見ると火系の魔法と回復系の魔法が使えるようになった。魔法戦士は攻撃力が一気に上がることはないが、様々なスキルにバランスがいいのが使いやすくていい。
ただ大物を倒すのに時間がかかるからなぁ。「伝説の宝玉」クリアに時間がかかったのもそのせいだし。
さっそく回復魔法を自分に使ってみた。先ほど使ったポーションより心地よい。
「これは凄いな。今日はぶっ続けで8時間ぐらい戦ったが、疲れが吹っ飛んだ。これなら何日でもダンジョンにこもっていられる」
あと最初のアイテム選択でテントを選んだのは正解。食料も水も多めにあるから当分大丈夫だな。このテントならダンジョンでも快適快眠だし、アウトドア派の俺にはちょうどいい。
まずはレベル10を目指していこう。俺はテントを出してダンジョンの隅で眠りについた。
~~
その数時間後、エスタには3人の日本人が食事をとりながら下を向いていた。
店の名前は「アタミ」。日本っぽい名前で、料理も和食に近く、日本から来たクリア者なら必ず寄るであろう場所だ。日の出前から深夜まで営業し、店主も俺たち日本人のことをよく知っている。
「まさかこの席で飯を食っていたとは」(マッキー)
「はぁ~。行く先はおそらく鳥の森ですね。完全に行き違いだったようです」(ワカナ)
「でも、店主の話ではこっちにきて2日か3日くらいよ。ダンジョンに入ったとしても、レベルは1か2が限界でしょ。完全に足手まといかも。それに魔法戦士かどうかもわからないし」(エリ)
「僧侶は二人いらない、ですよね…」(ワカナ)
「探しに行く気もそがれたし、別のクリア者が来るのを待つか?」(マッキー)
「でも伝説の宝玉イベントは限定人数しかクリアできないし、そんなにいるとは思えない。ミーナはどう思う?」(エリ)
ミーナはスカーレット王女に召喚された牝のタヌコで、このパーティーの魔法使いエリに付いている。
“おそらくその方が最後の一人かと思いますワ。仲間にするかしないかはともかく、一度お会いするのがいいのでワ”
「まぁそれがいいな。ソロでレベル2に上がっていれば、見込みもあるだろうし」(マッキー)
3人と3匹は戦士のマッキーと召喚獣ラック、魔法使いのエリと召喚獣ミーナ、僧侶のワカナと召喚獣クロミ。サトルより前に「伝説の宝玉」をクリアし、この世界に来た。
到着時間がほぼ同じだったこともあり、すぐに出会ってパーティーを組んだ。それから約10日間ダンジョンでレベルを上げ、現時点で4に達している。
彼らは明日、鳥の森ダンジョンへ向かうことにして、その日は休養にあてることにした。
~~
単独で鳥の森ダンジョンに潜っているサトルは、5階層をクリアしてから18時間後、今は11階層に降りる最後の扉の前に立っている。すでにこの10階層では、魔法を使う巨大な鳥の化け物を倒しており、レベルも10に達していた。
(なかなか手こずったが、こいつの動きとパターンはゲームで熟知している。手こずったのは最初の数分で、あとは作業の繰り返しといった感じだ)
「ふぅ~、なんとか倒したな。レベルも10に上がったし、どんなスキルが増えているかな。ちなみに11階層はどんな感じ?」
“それにしても驚きました。ここまで一度も加勢を必要とせず単独で10階層をクリアするとは。
そちらの世界では規格外という言葉があるようですが、それを感じさせますラ。
11階層以降は今までのような洞窟ではなく、外のような様々な地形があるはずですラ”
「スキルは、おっ、なかなかいいね。ゲームとも同じ流れで、これは現実的にも理にかなっている気がする。よく考えられているなぁ」
“すぐに11階層に降りますか?それとも一度戻って出直しますラ?”
そろそろ保存食も飽きてきたし、外の新鮮な空気を吸いたい気もする。装備を新しくしてもいいし、ドロップしたアイテムを売るのも良さそうだ。ここは一度戻るかな。
「よし、一度戻ろう。風呂にも入りたいし、アタミの美味しい食事が恋しくなってきた」
俺は10階層の魔物が落とした赤い魔石を拾い、上の階層へ向けて歩き出した。
~~
エスタを出発し鳥の森に戻った3人は、3階層で苦戦を強いられていた。
この階層に出る鳥の魔物は、通常であれば3人でも苦戦せず倒せる相手だ。
ただしダンジョンには周期があり、一定の周期で下の層から強い相手が紛れ込んでくることがある。今回彼らが出くわしたのは、本来出るはずのない10階層の扉を守る鳥の化け物だった。
残念ながらレベル4の3人では、明らかに荷が重い相手でもある。
「やっぱり戻ればよかった。ソロでやれるはずがない。上の階層にいなかったし、もう死んだのよ!」(エリ)
「もしそうだとすると、俺たちの今後はお先真っ暗だ。そもそも生きていることを信じて探そうといったのはお前だろ!」(マッキー)
「もうポーションはありません。回復魔力も次で最後です!戻りましょう!」(ワカナ)
「そうしたいが、相手の動きが速すぎる。どこかで一撃を与えて、隙を作らないと」(マッキー)
「くっ、最後の一発よ、お願い効いて!火球砲弾!」(エリ)
しかしその願いはむなしく、鳥の化け物の羽を焦がすことさえできなかった。
「防御力が高すぎる!今の魔力では倒せない!」(エリ)
今回のダンジョン探索は完全に失敗だった。
まず3人の召喚獣を、最後の一人について調べるために王城へ行かせてしまったこと。
もし召喚獣たちがいれば、この状況も打破できただろう。
そして軽い気持ちでダンジョンに挑み、2階層ぐらいで帰るつもりが、過信と驕りが下の層まで足を運ばせたこと。
そして見たこともない鳥の魔物を前にしても、自分たちなら大丈夫だろうと状況を甘く見てしまったこと。
彼らのレベルは4。この魔物を倒すには、レベル9の実力が必要。現時点ではどうあがいても通用しない力差がある。
そして、無慈悲な一撃が彼らを襲った。
唐突に襲い掛かったレベル10クラスの風魔法は、彼らの四方八方から100ほどの刃となって襲い掛かり、どこにも逃げ場はなかった。そしてその威力は彼らの守備力を突破するのに十分、致命傷となる一撃であった。
「無慈悲な一撃と出会い」へつづく
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