第7話 その頃の日本、世界を動かす者


「総理、副総理、今日は彼が来る日です」


「わかっている。スケジュールは開けてあるよ。22時だったな」


「はい、それではいつもの場所で待っています。今日はどこに連れていかれますかね?」


「ヒマラヤの頂上とかは勘弁してほしいな」



22時。総理官邸にある特別な個室。そこに日本の内閣総理大臣、副総理、内閣官房長官が揃っていた。3人とも心なしか不安の様子。それぞれが緊張を隠せていない。そして数秒が過ぎ、空気が固まった、そんな誤解を3人が感じた時、その男は部屋の隅に立っていた。


「お待たせしたかな」


「いや我々も来たばかりだ。さっそく報告を聞きたい」


「では移動しよう。すでにこの部屋の外は魔法で覆っているので心配ない。ではいくぞ、転移」


その男が語った瞬間、部屋にいた4人の姿が消えた。





場所は変わって…


「ここはどこかね?外が騒がしいようだが」


「今日はアメリカの独立記念日で、どこもかしこも人だらけさ。窓の外から見えるだろう」


先ほどまで4人がいたのは日本の総理官邸だ。しかしほんの数秒で地球の裏側ともいえるニューヨークに来ている。ここは高層ビルの30階あたりだろうか。


「さて報告は3つ。


一つ目は、20人が揃ったので、計画を最終段階に移行する。


2つ目はレンジャーの4人が規定レベルに達したが、あまり期待できなかった。ただ、そのうち報告も兼ねて帰国させるので、日程の調整をお願いしたい。


最後に、20人目があっちにいっているので、いつものように家族や職場への対応を任せる。詳細はこれだ。


俺からは以上だ。そちらからは?」


日本のトップである総理大臣を前にまったく遠慮のない口調で話すこの男。自分のことを「俺」と呼んでいるだけで、この4人の序列ははっきしりしている。そして話の内容は一般人はまず何のことだかわかるまい。だが首相を含めた3人は内容を理解した。


この男と会ったのは何度目だろうか。盗聴を防ぐため、そして自らの力を誇示するかのように毎回世界中に場所を替えているのだから、とんでもない人間だということはわかる。


数秒で日本からアメリカに移動できるだけでも異常だ…。


しかし今は彼の言葉を信じるしかないし、疑う気は毛頭ない。


「20人そろったことについてはわかった。家族や職場への対応も問題ない。レンジャーの4人はそんなにダメだったか?」


「まぁ、例えるなら、猫相手には戦えるが、ライオンやトラ相手には荷が重いといった感じだな。使い方は俺が決めるからな」


「それについては一切口を出さない。こちらも3つだけ聞きたい。例の件は、やはり本当なのか?アメリカはどう考えているのか?」


「残念ながら確定のようだ。得られる情報からはそう判断せざるを得ない。


アメリカについては、大統領選挙とウイルスの影響もあって動きが鈍い。仮に時期が重なれば期待できないかもな。もう一つの質問を聞こう」


「本当に、地球は大丈夫なのか?」




その頃、惑星エヌ。


宿を抑え、早めの夕食を済ませたサトルはポンとともに街に出た。夕食のラメンは日本でいうラーメンそのものだ。麺も味も、なんら日本で食べるものとそん色ない、少し安心したサトルでもあった。ただ部屋でじっとしているほど落ち着いてはいられなかったこともあり、まだ賑わう町をぶらついてみた。


レベル上げをするにしても、仲間を探すにしても、まずはこの世界を知らなければ意味がないと思っている。聞くだけでなく、目で見て感じなければ分からないことも多いはずだろう。


「ポン、いくつか質問するがいいか?」


“はいどうぞ、何なりとお聞きください”


「まず貨幣価値、時間、単位、ダンジョン、レベル上げ、最後にこの星を襲っている魔物についてかな」


“はい。貨幣価値、時間、単位については、ソーマジック・サーガと同じと思っていただいて問題ありません。すなわちゴルド単位ですラ。貨幣はすべて特殊な魔法で保護されていますので、偽造も複製もできません。ゴルド金貨は1万ゴルド、ゴルド銀貨は1000ゴルド、ゴルド銅貨は100ゴルド。ゴルド鉄貨は1ゴルドとなっていますラ”


目の前にある出店ではリンゴのような果物が販売されていた。金額を見ると100ゴルドと書いてある。日本でリンゴ1個100円と考えれば、貨幣価値は同じくらいだろうか。


“時間は1日20時間で1か月30日。1年は360日です。ちなみに50分で1時間、50秒1で1分です。なお曜日という概念はありません。単位も長さがメトルとセンチ、重さがグラン、水の量がリトルです。


ただし、これらの単位が作られて統一されたのはおよそ5年前ですので、場所によっては通用しない場合もあります。


そしてダンジョンは、この王城から半径500,000メトルの間に5つありますラ。基本的にこの星の住民はダンジョンに近寄りません。ダンジョンはすべて国で厳重に管理されており、許可を受けた特定の人物でなければ入ることができません。


この5つのダンジョンは、後半にいけばいくほど難易度が高まります。サトル様が現在挑戦できるレベルのダンジョンは、ここから東に向かって1500メトルほどの場所にある「鳥の森」ですラ。このダンジョンは20階層となっており、1つの階層をクリアすることでレベルが一つ上がります。ただ数多く倒せばレベルが上がるわけではありませんラ。層をクリアしなければレベルは上がりません。他のダンジョンについては、このダンジョンをクリアしてからでいいでしょう。


最後にこの星を襲っている魔物については、しかるべき時が来ましたらご説明させていただきますラ”


ボンは優秀な秘書らしく、一切の迷いもなく言い切った。日本に関する知識も多少持ち合わせているようだし、どういう教育を受けてきたんだろうな。


「わかった。まずはどうしたらいい?」


先ほどの出店で買ったリンゴを齧りながらボンに聞く。


“それでは、明日に練習も兼ねて最初のダンジョンである鳥の森へ行きましょう。1階層であれば、サトル様一人でも問題ありません。そこで現時点における自分の力やスキルを把握されるのがよろしいラ”


いきなり実戦か。不安もあるが、もはや後戻りできないところまで来た気がする。それに、何か自分ならやれそうだという根拠のない自信も。


賑わう街には様々な人種がみられる。この喧騒を見る感じ、この世界は平和に思えるし、魔物を警戒する気配は全く感じられない。そこに少なからず違和感も感じるが…


町を散策しどこに何があるか大まかにチェック、30分ほどで宿屋へ戻ってきた。程よい疲れもあり、これなら何とか寝れそうだ。サトルは明日ダンジョンへ挑戦することを決め、今日は早めに就寝することにした。



「先を行く三人」へつづく

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