#13 最強の勇者と、魔王覚醒【13-■】
男は山よりも高い巨人の肩で大弓を構えていた。
眼下にはひび割れた大地とそれをまばらに覆う雲。
地平の
だが偽りの空を裂いた傷は黒い線となって走り、
今にも全て崩れて落ちてしまいそうな
男が
1人の魔術師が生んだ、あまりにも
魔宮の巨人は
そこに昇る黒い月を目指して。
男は小さく息をついた。
かれこれ数時間以上、得物を構えて索敵を続けていた男。
彼は気を引き締めると、なおも視線を走らせて向かってくるものがないか目を光らせる。
「姿が見えないと思ったらこんなところに」
常に行動を共にしていた──
その身から不気味な魔物の影をたなびかせながら歩み寄るのは白い宝珠剣を杖のように逆手に握り、金の
「ギルベルト様、お戻りください」
男は青年に──自身の主たる冒険者の筆頭【緑の勇者】ギルベルトにすかさず言った。
「ええ、戻りましょう、貴方も一緒に。索敵なら他の冒険者や魔人の方々もいますし、それ以上の無理は身体に
ギルベルトは
見るとそのせり出したふくよかな腹は血にまみれていて。
今も男は
「貴方がその病に
「……ギルベルト様には感謝しています。貴方のおかげで私はこうして生き
「だからこそ。貴方は早く娘さんのそばへ戻るべきです。私の生む世界は完全な個の世界。共に過ごせる時間はもう限られています」
「あの子が望んでくれればあの子の世界に私はいます。ずっと一緒です」
「それは……その通りですが」
言い
自身の計画が人類に今できる最善だという彼の確信は揺らがない。
だが最善であっても完璧では、ない。
展開される個人の
ギルベルトに向き直る。
「私が死ねば目も見えず、他に身寄りもないあの子は路頭に迷う。この奪い奪われの世界では私が冒険者として財を築いて
まっすぐにギルベルトの目を見つめて
「……ですがその前に貴方が死んでしまってどうするのです。貴方も幸せになるべき1人なのですよ。それにあの子はいつだって貴方を想っています。そして貴方の声を。貴方のぬくもりを必要としていますよ。
」
「私は何よりもあの子の幸せを願っています。その達成のためなら本来はとうに燃え尽きた命、惜しくはありません。この
「…………貴方は誰よりも彼女の幸せを願っている。なのに。いやだからこそ。人の願う幸せはこうしてすれ違ってしまう」
ギルベルトは肩を落とし、小さく
人はそれに突き動かされて星のリソースを喰らい、かつてない早さで滅びの直前にまで至ってしまった、とギルベルトは思う。
誰もが私利私欲だったわけではなかったはずなのに。
ただほんの少し、愛する人が今よりも幸せであれと願ったゆえに。
ギルベルトは
「分かりました。引き続き索敵をお願いします。もうすぐ黒い月を直上に捉える。そうしたらこの
ギルベルトの言葉に
ギルベルトは彼のそばに残りたかったが、
次の段階に移行する準備のためにもギルベルトは戻らなければならなかった。
このまま何事もなく計画が進んでくれれば、とギルベルトは思う。
そうすれば彼の命が尽きる前に全人類の魔人堕としと魔宮の展開が間に合うかもしれない。
そうでなくとも世界の崩壊と新生が間近に迫り。
そして今この瞬間も崩落に巻き込まれて多くの命が失われていく。
急がなくては。
少しでも早く。
1つでも多くの命を、救うために。
だがギルベルトは大気を震わせる
「……っ!」
魔宮の巨人は体勢を崩した。
崩落する大地に足を取られてその天を
崩壊が進んでいるとは言え折り重なった分厚い原初の魔宮が巨人を支えきれずに崩れたわけではない。
それだけの堅牢な大地を、巨人の足を止めるほどの広範囲で破壊する力が放たれたのだ。
ギルベルトは
雲の尾を引いて。
再びの轟音と共に巨人は膝を着き、倒れる上体を支えるために両手も大地に着いた。
同時に衝撃波が拡がり、それを追うように
「中枢を離れのが
ギルベルトは
「一体どこから……!」
「相手は索敵の目を
ギルベルトが言った。
空の上と地下からの接近もギルベルトは視野に入れていて。
そしてその迎撃は十分に間に合うと仮定していた。
だが想定外だったのはその威力と規模。
地下から直接、巨人の足を止めるほどの干渉ができるとは思わない。
先に
それに続いてギルベルトもその姿を捉えた。
気付かないわけがなかった。
その羽ばたき1つで迎撃に向かう高ランクの魔人の放つ魔物達を容易く
次々と
「
ギルベルトは黒竜からその尾に掴まる人影に視線を移した。
その男の赤い瞳と視線が交わる。
「白の勇者、やはり貴方か」
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