#3 赤の勇者 【3-31】

 アーシュはフリードを見ると持ち上げられたまま、じたばたと暴れた。

巨漢の男はアーシュを降ろす。


「ディアスにいちゃん達をどうするの?」


 アーシュはフリードに駆け寄るといた。

フリードはアーシュを見下ろすと自分のあごをさすって。


「女の子の方はキール・クロスブライト──彼女の元ご主人様のところまで。そっちの白の勇者はひとまず俺らと同行だ。黒骨の魔王の魔宮についての情報や、調査予定だった森の永久魔宮と赤蕀の魔王の魔宮の異常な展開域拡大についていくらか情報持ってるらしいからな」


「エミリアと別々になるの?」


「ああ。ちなみに言っとくと、これは白の勇者からの提案だ」


「ディアスにいちゃんの?」


 アーシュはディアスに振り返った。

ディアス視線を返して。


「エミリアのためだ。ギルドの管理下にエミリアを戻す。それを条件に降伏しなかったらエミリアは殺されていた」


「畜生以下の扱いを受けてまで生き長らえさせたいもんかね。ここで殺してやるのが人間のためにも、その女の子のためにも俺は良いと思うがな」


 巨漢の男はその大きな手で丸めた頭をボリボリとく。


 アーシュは巨漢の男の言葉にむっとして。

巨漢の男を思わず睨む。


「俺らのポリシーとは反するが、それが降伏の条件だったから仕方ない。あのまま戦えば俺達のパーティーにも甚大じんだいな被害が出てたろうからな。落としどころとしては悪くないさ」


 フリードが言った。


「アーシュ、荷物はそこだ。回収したらエミリアを護送する冒険者と一緒に行け。途中まで目的地と方向は一緒だ。ただし、変な気は起こすなよ?」


 ディアスが目線で小さな鞄と長い袋を示した。


「でも……」


「いいか、変な気は起こすな。そしてお前はエミリアと一緒に行くんだ。魔人の護送にはとりが使われるがエミリアはそのおりが嫌いなんだ。一緒にいればおとなしくさせれるとかうまく言え。アーシュもエミリアがおりに閉じ込められて一人きりになんて嫌だろ?」


「でも」


「大丈夫だ、アーシュ」


「でも…………」


「アーシュ」


「…………わかった」


 アーシュはしょんぼりとうなだれる。


「話はまとまったか?」


 フリードがいた。

それにディアスがうなずく。


「よし、一度町へ出るぞ。そこで用意や連絡を────」


 フリードがパーティーに指示を出す。


 その姿を横目見ながら、ディアスはククッと小さく笑みを漏らした。







 朝日に照らされて。


「それでは、こちらの魔人は我々が引き継ぎます!」


 冒険者の1人が敬礼と共にフリードに言った。


 ギルドの支部がある時計塔の前の広場でフリード達と派遣はけんされた冒険者達が集まっていて。

フリードの対面には5人の冒険者と一台の荷馬車が停まっていた。

フリード達の背後にも一台の荷馬車が停まっている。


 エミリアの首にはきつく首輪を巻かれ、そこから伸びる白の鎖を冒険者が握っていた。

エミリアは首から垂れ下がる重い鎖と馬車の荷台に積まれた白い小さなおりを見て口をへの字に曲げる。


「ああ、任せた。あとは同行者を3人頼みたいんだが」


「話は伺っております! 荷台のスペースの関係もあるので全員を乗せる事はできませんが、道中の安全は我々が命に代えてお守りいたします!」


「そんじゃ、お前らとはお別れだ」


 フリードは背後に並ぶアーシュ、スカーレット、シアンに振り返ると言った。


「会えて光栄でした【赤の勇者】フリード。お仲間にも命を助けていただいて」


 スカーレットが言った。


「あくまで症状の進行を止めてるだけだって話だから気ぃつけてな」


「はい!」


「俺もフリードさんに会えて光栄です。ねぇちゃんを助けてもらったのにはもちろん感謝してますけど、あのスライムをぎ払う剣が見られて感激です!」


 シアンが言った。


「ハッハッハッ。機会があれば次はあんなナマクラじゃなくて、俺の愛剣の抜剣ばっけんを見せてやるよ」


 フリードは鋭い目付きとは裏腹にほがらかに笑って答えた。


「…………」


 アーシュは無言のままペコリと頭を下げた。

アーシュはそっぽを向いてフリードに目を合わせない。


 冒険者はエミリアの首輪から伸びる鎖を引くと、荷台のおりへと引っ張っていった。


「入れ」


 冒険者に言われ、エミリアは屈むとおりへと入る。

その間際、振り返って。

向かいの馬車の荷台に視線を向けると、おりの中からディアスの赤い瞳が視線を返した。


 冒険者はおりの扉を閉めると、鍵をかける。

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