#3 赤の勇者 【3-15】

 ディアスとエミリアは周囲を見回した。

ディアスは通路の入口に散らばる紫色の破片に気付くと、その場に屈み込んで欠片を手にとって。

ディアスは通路の入口を見上げると舌打ちを漏らす。


「ディアス、アーくん達は?」


「おそらくこの先だ」


「この先って……行き止まりだけど」


 エミリアは通路の先へと視線を向ける。


「おそらく何らかの罠が作動した」


「罠? でもここって攻略されてからずいぶん……」


「いや、地図の更新は半年前。破片が落ちてるのを見ると、ここ最近現れた通路だ」


「でも、半年で魔宮がそんなに成長するなんて。ここは最低難度の魔宮だから、たくさん人を喰えてるとも思えないけど」


「だろうな」


 ディアスは立ち上がると続ける。


「おそらくどことも繋がらない密閉空間のまま長い年月をかけて拡大された区画が今になって繋がったんだ。…………アムドゥス」


「あいよ、ブラザー」


 アムドゥスはエミリアの頭巾から顔を覗かせた。

額の眼で通路を観測して。

その瞳に7色の光が幾何学的に走る。


「ケケケ、観測完了。こりゃ落とし穴だな」


「アムドゥス、アーくん達のとこにはどうやって行けばいいの?」


 エミリアがアムドゥスに振り返りながらいた。


「さぁなぁ? 俺様の眼は見たものしかわからねぇ。見えない魔宮の先の構造を把握すんのは俺様の仕事じゃねぇぜ。ケケケケケ」


 アムドゥスがエミリアの顔を覗き込みながら答えた。


 ディアスはエミリアに視線を向けて。


「エミリア、魔力はどこまで回復してる?」


「んと、普段の半分くらいかな」


「通路を探してる時間がない。エミリアの魔宮を展開して上書きしたあと、魔宮を閉じて穴を開ける。そこから下へ向かう。できるか?」


 ディアスが問うとエミリアはうなずいた。

その赤い瞳に灯る光が強くなる。


 だがその時、ディアスは足音を捉えて。

その足音は通路の先。

上りの階段から響いていた。


 ディアスとエミリアが見つめる中、1人の男が階段から現れた。

その男の背後には数人の仲間が続く。


「…………同業者か。派手な音が聞こえたけど無事か? あんたら」


 現れた冒険者の集団。

その先頭の男がディアスとエミリアに声をかけた。


「あたし達の仲間が落とし穴の罠にかかったみたいなの。誰か探索系のスキルを持った人はいませんか?」


 エミリアがたずねる。


「…………エミリア、まずい奴等と鉢合わせた」


 ディアスは先頭の男を凝視したまま、小声でエミリアに言った。

 

その男が身にまとう燃えるように赤い鎧と背中に背負った禍々しい長剣。

白髪に近いブロンドを撫で付けた髪型と猛禽類もうきんるいのような鋭い黄色い瞳。

その目とは裏腹に口許にたたえた余裕の笑み。

その姿にディアスは覚えがあって。

胸に光る赤いバッジを見て確信する。


「ケケケ。俺様も見るのは初めてだが、ステータスを見りゃ一発だ。なるほど、あいつがそうかぁ」


「え」


 エミリアはディアスに視線を返した。

いで頭巾の中へと引っ込んだアムドゥスを横目見る。


「探索系のスキルなら僕が保有してますよ。お嬢さん」


 赤い鎧の男の後ろから眼鏡をかけた青年が言った。

金縁の眼鏡からは緑色の小さな瞳が覗いている。


「だが罠? ここは攻略されて久しい魔宮だ。それも山の反対側と反対側を繋ぐ経路になってるこの道のすぐ側でってのは妙だな?」


 軽薄な笑みを浮かべながら赤い鎧の男が言った。


「壁が崩れた跡がある。おそらくここ最近現れた通路だ」


 ディアスが言うと、赤い鎧の男はディアスの足元に視線を落とした。

紫色の無機質な破片を捉えると、なるほどとうなずく。


「構成と人数は?」


「子供が3人だ」


「子供?」


 ディアスが答えると赤い鎧の男は眉をひそめた。


「駆け出しの冒険者の子供でパーティーを組んでた。俺は引率としてついていたが油断した」


 ディアスはギルドバッジを取り出した。

取り出したバッジを示す。


「A級冒険者か。…………念のため聞くが番号は?」


 赤い鎧の男はディアスのバッジをその鋭い瞳で睨みながらいた。

黄色い瞳がギラリと光る。


「番号をどうぞ。僕が照会します」


 眼鏡の青年はそう言うと手をかざした。

その手に青い光が灯ると、それは本の形をとる。


 他の冒険者達もディアスとエミリアに警戒をあらわにしていた。


 ディアスは自分のバッジの裏に刻まれた羅列を見た。

バッジに刻印された小さな『A-87241』の文字。


 ディアスは眼鏡の青年を見ると答える。


「Aの8724、0だ」


 ディアスの言葉を聞いて、眼鏡の青年は視線が鋭くなって。


「Aの87240、ですか。奇遇ですね」


 眼鏡の青年の手から光の本が消えた。

眼鏡の青年は襟に留めていたバッジを取ると裏返して。

そこに刻まれた羅列を指でなぞる。


「僕もAの87240ですよ……?」


 目を凝らすと、確かにそこにはそう刻印されていた。


「なぜ番号を偽った? あんたら、なにもんだ?」


 赤い鎧の男が背中の剣の柄を握った。


「やめとけよ」


 ディアスはバッジを懐にしまうと言った。


「こんな狭い通路であんたが抜剣ばっけんなんてしたら俺達はおろか、あんたのパーティーまで巻き添えを食うぞ。【赤の勇者】フリード」

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