#3 赤の勇者 【3-9】

「剣が全然振れないようなら後衛にしようと思ってたけど。まぁ思った、よ、り、は! 振れてた」


「良かったな。剣振れてたって」


 青髪の少年が言うと赤髪の少女は首を左右に振った。


「ちょっと愚弟、あくまで思ったよりは、よ」


「だってさ」


 青髪の少年は肩をすくめる。


 赤髪の少女は青髪の少年を睨むと、アーシュに視線を戻した。


「で、『その刃、風となりてソード・ウィンド』は見た感じ普通のボウガンの矢とかと大差ない感じね。質量ある分威力は上かも知れないけど相手が相手ならかわせちゃうし、さばけちゃう。牽制けんせいにはなるし、隙を突けば十分な火力だろうけども────」


 赤髪の少女はアーシュの姿を注視して。


「でも手持ちの剣少な過ぎない? 2本だけなの? 飛ばした剣手元に戻したりできる?」


「できないです…………」


 アーシュは立ち上がると答えた。

長剣を背中の鞘に納める。


「ふぅん?」


 赤髪の少女は半眼でアーシュを見て。


「もう、できることがすっごい半端。ちなみにアーシュガルドお金ある?」


「えっと……」


 アーシュがディアスに視線を向けた。


「金は俺が今預かってる」


 ディアスが言った。


「じゃあ私達がお金出す必要はないわね。この町にも武器屋はあるから適当に補充しなさい。…………ほら、アーシュガルド返事!」


「はい!」


「よし。じゃあ愚弟、案内してきてあげて」


「はーい」


 青髪の少年が気だるげに返事を返した。


「これって結局アーくん受かったの?」


 エミリアが疑問を口にした。


「ん? 落第よ」


 赤髪の少女が答えた。


「でもまぁ、クリフトフさんのご厚意で魔宮に一緒に連れてってもらうわけだからね。半端だったけど何もできないわけじゃなかったから仕方なく」


 赤髪の少女はアーシュが投げ放った剣を拾うとアーシュに差し出した。


「ありがとう」


 アーシュは剣を受け取ると腰の鞘に納める。


「けけ、でもさっき剣振れなかったら後衛にしようと思ってたって言ってたよね?」


「それがなによ」


「結局全然ダメでもパーティー組んでくれるつもりだったってことだよね」


「さてどうかしら」


「アーくんの剣買い足そうってなったときも言い方的にアーくんがお金無かったらお金出してくれる気だったんでしょ?」


「私そんな言い方したかしら」


 エミリアはにやにやと赤髪の少女を見た。


「ちょっと、頭巾被ってるからって見えないと思った? そのにやにや、やめなさいよ」


「けけけ」


「もう!」


 赤髪の少女はポリポリと頭をいた。


「でも、ほんとに良いの? おれ青髪の兄ちゃんにぼろ負けしちゃったのに」


 アーシュがたずねた。 


「まぁ、あれでも私の弟だからねぇー。むしろ勝って当然。負けて当然よ。て言うかアーシュガルド、君はもっと自己主張しなさい」


 赤髪の少女はアーシュの胸を人差し指でとんとんと小突いて。


「まず私が提案するよりも先に、俺の実力見てからものを言えー! て感じで実力を強引に示してかないと。この先、君の容姿だと絶対嘗められるよ」


「そうかな?」


「そうよ。そんな女の子みたいな見た目してたら絶対められる」 


 アーシュは赤髪の少女の発言に目を丸くした。


「ねぇエミリア! おれってそんなに女子みたい!?」


「うん。アーくんパッと見、女の子っぽいよ」


 その肩まである艶やかな黒髪。

中性的な顔立ち。

白い肌。

華奢な体躯を見てエミリアが答えた。


「……え。アーくん、気付いてなかったの?」


「眉毛もっと整えてドレスとか着せたらもうわかんないよね。とっても似合いそう。いいわー」


 赤髪の少女が恍惚とした表情で言った。


「え」


 アーシュは怪訝けげんな面持ちを浮かべる。


「ねぇちゃんの毒牙からのがれたかったら、おすすめは短髪にすることだぜ?」


 青髪の少年が背後からアーシュに耳打ちした。


 アーシュは青髪の少年の短く切り揃えられたツンツンの髪を見上げる。


「ちょっと愚弟! 変なこと吹き込まないでよ!」


 赤髪の少女が青髪の少年に向かって足早に迫った。

青髪の少年に手を伸ばす。


「やっべ。アーシュガルドくん、武器屋行こうぜ!」


 青髪の少年は赤髪の少女の手をかわした。

すかさず駆け出す。


「アーシュ!」


 ディアスは鞄から硬貨の入った袋を取り出すと、アーシュに投げ渡した。


 アーシュは袋を抱えて青髪の少年を追う。


 2人の姿は曲がり角の先に消えた。

ギルドの支部のある時計塔の下で3人が取り残される。


「…………言っとくけど、私変態とかじゃないからね」


 赤髪の少女が呟いた。

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