#3 赤の勇者 【3-8】

「そ。実力を見せなさい。それでアーシュガルドがちゃんと戦えると判断したらパーティーを組んであげるし、ダメだと思ったらパーティーは組まない。…………その場合、私達はクリフトフさんの出した条件を満たせない事になるけど」


 赤髪の少女が横目でディアスをうかがう。


「大丈夫だ。実力不足と判断されたんなら、それは俺が無理難題を突きつけた事になる。その場合俺達と魔宮に入った後の行動は2人に任せる」


「これで公平なジャッジができるわね」


 赤髪の少女がにやりと笑った。


「じゃあ愚弟。ぎったんぎったんにしてやりなさい!」


「……さて」


 青髪の少年は槍を構えた。

槍を両手で握って腰を落とす。


「愚弟、返事!」


「はーい!」


 青髪の少年が答える。


「まったく、ねぇちゃんには困ったもんだよ」


 青髪の少年は聞こえないよう小声で呟いた。

いで深紅の瞳がアーシュを捉えて。


「アーシュガルドくん、剣を構えて。いくよ?」


 アーシュは剣を持ち上げたが、よろよろと体勢を崩した。

その様子を見て赤髪の少女は顔をしかめる。


「やっぱダメかなー」


 赤髪の少女は頭の上で腕を組みながら言った。


 そして周囲には数人の野次馬が集まりだしていた。


「なんだなんだ」


「お、ガキ同士の決闘か」


「ハッハッハッ。どっちも頑張れ」


「かわいそうに、片方の子は片腕がないじゃないか」


「あんな細っちい身体で剣が振れるのかね」


 アーシュは野次馬に気をとられて。

その隙をついて青髪の少年が踏み込んだ。


 地を蹴る音。

アーシュは視線を青髪の少年へと戻すと、その槍の切っ先はアーシュの喉元に迫っていて。


「はい、きまったー」


 赤髪の少女がつまらなそうに言った。


 だがアーシュはすぐさま剣を操作。

剣閃を安定させて剣を加速する。


「『その刃ソード、竜巻の如く・サイクロン』!」


剣を振るって槍の切っ先を逸らした。


「お、マジか────」


 青髪の少年は突き出した槍をすかさず手前に引いて。


「やるじゃん」


 呟きながら槍を横にぐ。


 アーシュは剣でそれを受け止めた。

だがその衝撃で崩した体勢を立て直す前に、青髪の少年は次の攻撃に移っている。


 青髪の少年は右手だけで槍を握り、手首を返すとアーシュの頭上から槍を振り下ろした。


 アーシュは剣を操作して頭上で剣を構える。

防御が間一髪間に合った────とアーシュは油断して。


 青髪の少年は左手を短槍の柄に叩くように添えた。

右手を軸に槍が逆方向に回って。

そのまま右手を引き、左手で柄の先端を突き出す。


 槍の柄がアーシュの腹部を強打。

アーシュがうめき声を漏らした。


 さらに青髪の少年はリズミカルに槍を操って。

柄で強打すると、すかさず槍を袈裟に振り下ろす。 


 アーシュは剣を操作、加速して迫る槍の切っ先を逸らした。


 だが槍は逸らされた勢いを利用して回転。

再び槍の柄がアーシュを打ち付ける。


 アーシュは後ろに跳んだ。

と同時に剣を投げ放って。


「『その刃、ソード風となりてウィンド』!」


 放たれた剣が加速。

剣は青髪の少年へと迫る。


 青髪の少年は槍を振るって。

剣の軌道をずらすと横にかわした。

アーシュの放った剣が石畳に弾かれる。


 すかさず青髪の少年はアーシュに肉薄。


 アーシュは背中の長剣を抜剣ばっけん

青髪の少年目掛けて振り下ろした。


 だが青髪の少年はステップで横にかわすと身をよじって。

跳躍と共に腰をひねり、足を振り上げた。

アーシュを蹴り倒し、馬乗りになると槍を逆手に持ち変える。

振り下ろされた切っ先。

その槍はアーシュの首筋を逸れて地面に打ち付けられた。

カンと乾いた音が響く。


 青髪の少年がアーシュを見下ろしていて。

いでにこりと笑った。


「はい、俺の勝ちー」


 青髪の少年がアーシュの上からよけた。

槍をくるくると回すと背中の留め具に槍を留める。


 周りの野次馬から歓声が上がった。


「にいちゃん、なかなか良かったぞ」


「そっちの細っちいのもよく頑張った!」


「なかなか面白かったぜ」


 口々に感想を言いながら野次馬達が去っていく。


 アーシュは痛みにうめきながら上体を起こした。

槍の柄が打ち付けられた箇所がズキズキと痛む。


 短い攻防だったがアーシュの額は汗でぐっしょりだった。

アーシュは肩を上下させながらハァハァと荒く息をつく。


「あんなによろよろしてたのに、よく俺の槍をさばさけたな」


 青髪の少年は腰に手を置きながら言った。


「んで、ねぇちゃんの判定は?」


 青髪の少年が振り向くと、赤髪の少女は眉間にしわを寄せて悩んでいて。


「ぶっちゃけ微妙!」


 赤髪の少女が叫んだ。


「やっぱり」


 青髪の少年は苦笑を漏らす。

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