#2 青い森の魔物【2-23】
────その時、閃光が辺りを照らして。
「エミリア!」
「分かって、る!」
アムドゥスが言うと同時にエミリアは後ろに跳躍。
結晶が展開する範囲から抜けると、すかさず魔物に弾かれた剣を拾って魔物の前に回り込む。
人面の魔物は駆け抜ながらその
エミリアの目前に迫ると
「よけろ、エミリア!」
背後からディアスの声。
ディアスはアーシュに支えられながらダンと足を踏みしめた。
そこから幅広の刃が魔物目掛けて伸びる。
すかさずエミリアは横に跳んだ。
そして幅広の刃の側面から無数の剣がそそり立った。
膨大な刀剣が柱のように連なり、魔物の攻撃を跳ね返す。
「エミリア、使え!」
ディアスが言うと束ねられた剣の柱が渦を描きながら広がった。
そしてその中から一振りの大剣が姿を現す。
現れたのは人の身の丈の倍以上はある長大な剣。
刃は混じりけのない純白で、そこに金色の装飾と紺の紋様が施されていた。
柄に近い辺りの刃の片側が半円場に切り取られ、そこには刃と同じ材質の白い柄が本体の柄とは別にあしらわれている。
その剣に鍔はなく、白い刃の中心から真っ黒な柄が伸びていて。
大きさこそ桁違いだが、その厳かな姿は伝説や物語に出てくる勇者の剣の具現のようだった。
「ケケケケケ! ディアスのやつ、俺様に隠れてこんなもん育ててやがったのか!」
アムドゥスは額の第3の瞳で剣を観測して。
[Ss?クラss 鞘?『■クロ?■?』]
だが読み取った情報にはノイズが走っていた。
アムドゥスは再び目を凝らす。
[S-クラス 封剣『
次は正しくその情報を読み取って。
「ケケ、S-クラスの魔封じの剣か!」
「剣の性能はあたしには関係ないけど────」
エミリアは剣に飛び付いて。
その刃の側面に着地すると柄を握り、体を後ろに倒した。
無数の剣が形作る台座から体重をかけてその剣を引き抜く。
エミリアは長い真っ黒な柄を腕に添わせると腰を
その一歩で深く腰を落として。
足裏で地面を強く掴み、下肢の力を余す事なく伝達して跳び上がる。
「得物はやっぱり、これくらい重量がないと、ねぇ……!」
振りかぶった刃を振り下ろすエミリア。
巨大な刃が風を切って人面の魔物へと叩きつけられる。
ガンと鈍い音を響かせて。
魔物の背が大きく
人面の魔物は衝撃にたまらず膝を折った。
振り下ろされた純白の刃は斬擊というよりは殴打に近い。
エミリアの身体は剣の重量に負けてテコのように上へと持ち上げられた。
下半身が宙に浮く。
魔物は首を大きく反らすと頭上のエミリアを凝視した。
暗黒の瞳の中に
そしてその激情を体現するようにその身体が強く
「また結晶?!」
エミリアは苦々しげに魔物へと視線を返した。
体重をかけながら柄にぶら下がると剣を傾けて。
エミリアはそのまま魔物の側面を蹴ると飛び
だが剣の重量が桁違いのため距離が出ない。
「ケケ! エミリア、剣を盾にしな!」
アムドゥスが言うと、すかさずエミリアは剣の腹を魔物に向けながら地面に突き立てて。
そして幾重にも重なった花弁のような結晶が展開された。
だが
エミリアは結晶の展開が終わると、剣の陰から顔を覗かせた。
自身の周囲とその後方だけが結晶化を免れていて。
「すごい。結晶の展開そのものを防いでる」
「ケケケ、魔封じの剣は魔物の特殊能力や魔宮のギミック対策に使われる剣だからなぁ!」
「でもやっぱり決定打にかける。魔人のあたしじゃ装備してステータスを上げる事もできないし、ソードアーツも使えない」
エミリアはディアスが来た方向を横目見た。
その先からは阿鼻叫喚する獣の魔物達の声。
その声はみるみる大きくなっている。
「さすがに
その時。
エミリアの小さな手に、彼女の手より一回りほど大きい手が重ねられて。
エミリアが振り向くと、そこにはアーシュが立っていた。
「アーくん!?」
エミリアは驚きの声を漏らす。
「エミリア、おれを抱えたまま動ける?」
アーシュが言うと、エミリアはすぐにアーシュのしようとしている事を察して。
「けけけ。アーくん、女の子におぶられるのは嫌だったんじゃないの?」
エミリアがニヤリと笑う。
だがすぐに首を左右に振った。
「うそうそ。抱えたままでもいけるよ。頑張る」
「おれもできる限り力は貸すから」
アーシュは剣を操作するとその刃を持ち上げた。
エミリアは剣を左手で握り、右手をアーシュの腰に回した。
アーシュは右手でエミリアの左手を包むと、左腕をエミリアの肩にかける。
「いくよ、アーくん!」
「うん。いこう、エミリア!」
エミリアとアーシュは魔物目掛けて駆け出した。
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