#2 青い森の魔物【2-11】

 現れたのは青く透き通る水晶のような身体を持った異形の魔物。

8本の脚を持ち、無数の尾の先端には鋭く大きな針を備えて。

そして顔の位置には上下逆さになった人面があった。

その全身には幾何学きかがく的な模様が刻まれ、光の点滅がその模様の上を走る。


 アムドゥスの放った闇をその魔物は蹄で踏みつけた。

蹄の先へと幾何学きかがく模様を通して光が集束し、閃光と共に闇が消し飛ぶ。


 魔物はぎょろぎょろと視線を走らせていた。

エミリアを。

アムドゥスを。

そして5人の少年少女を捉えると、にこりと笑みを浮かべる。


「アハッ」


 魔物は頭を左右に振りながら気味の悪い笑い声をあげた。


 アムドゥスは元の姿に戻ると額の瞳に意識を集中。

虹彩こうさいに7色の光が走った。


「『創始者の匣庭ディザイン・ヴェルト』による観測結果は…………エラーだぁ!?」


 アムドゥスはかぶりを振った。


「ケケ、んでもってカテゴリーも不明ときたもんだ。できたのはレベルの測定だけ。そして測定レベルは63でA難度相当。得体が知れない上にレベルが高い」


 アムドゥスはエミリアの肩にとまった。


「嬢ちゃん、無事か?」


「なん……とか」


 息も絶え絶えにエミリアが答える。


「青い森の魔物だ……」


「ここは青い森からまだ離れてるのに、なんでいるんだ!?」


 長身の少年と坊主頭の少年は驚愕。


「嘘……」


 少女の顔には恐怖の色が浮かんだ。


「『神秘を紐解く眼アナライズ』で確認しましたが、やはりそこの魔人よりもステータスは上です。どうします……?」


 最年少の少年はリーダー格の少年に意見を求める。


 だがリーダー格の少年が答えるよりも先に異形の魔物は動いた。

笑い声といななきの混じったような奇声をあげながら走り出す。


 魔物が向かう先には少女と最年少の少年。


 断続的な蹄の音。

いで強く地を蹴って。

魔物は飛び上がると2人の頭上に迫り、蹄を大きく振り上げる。


「アハッ」


 2人を見下ろしながら狂気に満ちた笑顔を浮かべる人面の魔物。


 最年少の少年は意を決して。

一歩前に踏み出すと剣の逆手に持ち、剣の腹を魔物に向けた。

片手を剣の腹に添えて魔物の蹄を受け止める。


「ソードアーツ『盾にして矛リフレクト攻守の流転リバーサル』!」


 攻撃を受け止める瞬間に発動されたソードアーツ。

それによって展開されるのは半円状の光の壁。

魔法陣によって構成された壁は与えられた衝撃を吸収し、その威力を対象に放ち返す。


 魔物はソードアーツによるカウンターを受けて上体をのけ反らせた。


 そこに3人の少年が武器を構えて襲いかかる。


「ソードアーツ────」


 リーダー格の少年が剣の魔力を解放する。

スペルアーツ『魔力流出マナドレイン』と『魔力吸収アブソーブション』の相乗効果によって、その長剣には再びソードアーツを放つのに必要な魔力が早くも蓄えられていて。


 だがその瞬間、魔物の目がぐるんとリーダー格の少年を向いた。

魔物は尾をしならせ、リーダー格の少年の剣を絡めとって。

その手から長剣を奪い取ると遠くへと投げ捨てる。


 無防備になるリーダー格の少年。


 すかさず長身の少年と坊主頭の少年がカバーに向かうが、魔物は無数の尾を操って少年2人を阻んだ。

そしてリーダー格の少年の心臓目掛け、尾の先端に伸びる鋭い針が突き出される。


 魔物の顔が能面のような冷たい笑みを浮かべていた。


 リーダー格の少年はその真っ黒な瞳と凍りつくような笑みを前に死を覚悟した。

脳裏をよぎる走馬灯。

思い出されるのは4人の仲間達との冒険の日々。

そして泣き虫な幼い男の子の姿で。


────刹那せつな、風切りの音。

投げ放たれた刃が加速し、リーダー格の少年に迫る尾を切り裂いた。

続けざまに短剣が飛来し、魔物の尾を断ち切る。


 魔物の絶叫がこだまする中、剣をたずさえた影が木陰こかげから飛び出した。


「『その刃、風とならんソード・ウィンド』!!」


 さらに短剣を投げ放ち、アーシュはその刃を加速させる。


「な、アーシュガルド!?」


 リーダー格の少年が驚きの声を漏らした。

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