#1 最小展開域のダンジョンマスター【1-14】

「カラスさん」


 アムドゥスに気付いたエミリアが言った。


「んなとこで何してんだい」


「月を見てた、かな」


 アムドゥスの問いにエミリアが答えた。

彼女が見上げていた先には蒼白く輝く月が浮かんでいる。


「あたし、蒼い月が一番好きなんだ」


「そうなのか」


「カラスさんはどの月が好き?」


 エミリアがアムドゥスにいた。


「俺様は特に好き嫌いはねぇが、俺の主様が黒い月が好きでな。黒い月の日は月見によく付き合わされたな。黒い月の夜は星が綺麗に見えるって言ってな」


「カラスさんの主ってあの魔人のお兄ちゃんのこと?」


「ケケケ、違う違う」


 アムドゥスは首を左右に振った。


「あいつと俺様はいわばビジネスパートナーだ。利害関係だけの間柄よ」


「ふーん、じゃあ、カラスさんの本当の主ってどんな人なの?」


 エミリアはしゃがみ込むと、アムドゥスと向かい合う。


「お前さんと同じぐらいの女の子だぜ? 同じぐらいってももう500年は生きてるが」


 アムドゥスはケケケと笑った。


「魔人ってみんな長生きなのかな」


「さぁてな。少なくとも寿命で死んだ魔人の話は聞いたことがねぇが」


「そっか」


 エミリアは小さく呟くとうつむく。


「ケケ、孤独が怖いのか?」


 アムドゥスの問いにエミリアは静かにうなずいた。


「あたしのパパもママも、友達も村のみんなも死んじゃって、それであたしだけ取り残されると思うと怖い」


「なら、俺様達と来るか?」


 アムドゥスからの提案にエミリアは目を丸くする。


「なんだ。嫌なのか」


「え、違う! そうじゃないの!」


 エミリアはぶんぶんと首を振った。


「…………でも、いいの?」


「なにがだぁ?」


 アムドゥスは首をかしげると、エミリアをじっと見上げて。


「来たけりゃ来ればいいし、来たくなきゃ来なきゃいい。1人で行くのも冒険者んとこに戻るのも嬢ちゃんの自由だ。なんなら自死すんのも自由だぜぇ?」


 アムドゥスの言葉にエミリアは肩を落とした。


「…………そっか、死ぬのもありなんだもんね」


「嬢ちゃんが死にたいってんなら俺様は止めねぇよ」


「じゃあ────」


「嬢ちゃんが望むなら、な」


 アムドゥスはつぶらな瞳でエミリアをじっと見つめて。


「死にたいのか?」


「…………」


「ケケ、少なくとも魔人だからとか、そうすべきみたいな義務感で死のうってんならやめときな」


「でも、あたしは」


「なら逆に聞くぜ? 嬢ちゃんは、生きたいか?」


 アムドゥスの問いにエミリアは言葉を詰まらせる。


「決めんのは嬢ちゃんだぜ?」


「…………あたしは、生きててもいいの?」


 エミリアはアムドゥスをまっすぐ見つめながら言った。

真剣な眼差し。


だがアムドゥスは笑い声をあげる。


「ケケケケケ! 良いも悪いも生きるのに誰かの許可なんかいらねぇだろうが。違うか?」


 アムドゥスはため息を漏らした。


「そもそも嬢ちゃん最近笑ってるかぁ? あのおっさんのビビった顔を思い出せよ。さんざんいじめられてきたんだろ? 痛快だったろうが」


 アムドゥスはエミリアの肩に飛び乗った。


「ケケケケケ! ほら、あのおっさんの泡吹いて倒れてたの思い出して笑ってみな」


「…………あはは」


「いまいちだな、やり直し。ケケケケケ!」


「…………けけけけ、け?」


「もっと大きな声で! ケケケケケ!」


「けけけけけ!」


「ケケケケケ!!」


「けけけけけ!!」


 エミリアは大きな声でアムドゥスの笑い方を真似る。


「ケケ! いい感じだな。んでどうする? 俺様達と来るか? 来ないか? 嬢ちゃんの好きにしな」


「あたしの名前はエミリア。カラスさんの名前は?」


「…………ケケ、俺様の名はアムドゥスだ」


 アムドゥスが名乗ると、そのタイミングで背後から足音が聞こえた。


「アムドゥス、そこか?」


「おう、ブラザー」


 ディアスの問いにアムドゥスは答える。


「つーわけで、俺様の下僕2号だ」


「エミリアです。よろしくお願いしま…………す? あれ、あたしってアムドゥスの下僕なの?」


 エミリアは首をかしげると、肩に乗ったアムドゥスに振り返った。


「おうよ」


 アムドゥスは即答する。


「つーわけで、俺様の下僕2号だ」


 アムドゥスが翼でエミリアを指しながら言った。


「下僕2号です。よろしくお願いします」


 エミリアがぺこりと頭を下げる。


「俺はディアスだ」


 ディアスは端的に自己紹介するとアムドゥスに視線を向ける。


「この感じだと話はついてるのか?」


「ああ、ついてくるとよ」


 アムドゥスが答えるとディアスはエミリアに視線を移して。


「エミリア? は、いいのか。冒険者の方とも話をしたが、君が望むなら冒険者側に戻ることもできる。俺には保証はできないが待遇の改善もしてくれるって話だが」


 エミリアは首を左右に振った。


「お邪魔でなければ、あたしも一緒に行かせてください!」


 エミリアが深々と頭を下げる。


「ああ、俺は構わないよ。これからよろしくなエミリア」


「ケケケ、話は決まりだな!」


アムドゥスはディアスの肩に飛び移った。


エミリアをパーティーに加え、2人と1羽は次の目的地に向けて歩き始めた。

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