#1 最小展開域のダンジョンマスター【1-13】

「アムドゥス、追ってくれ」


「あいよ、ブラザー」


 アムドゥスはディアスに答えると、エミリアのあとを追って飛び立った。


 ディアスはその背中を見送ると、剣の回収を始める。


 避けるように距離をとる周囲の冒険者達。

ディアスを盗み見るその目には警戒の色が浮かんでいた。


 そんな冒険者達の中から3人。

淡々と剣の回収を進めるディアスに近づく者がいて。


「はいこれ。あなたの剣でしょ」


 長い三つ編みを垂らした冒険者が切っ先の折れた刺突剣をディアスに差し出した。


「…………ありがとうございます」


 ディアスは探していた最後の剣を受け取ると、背中の鞘に納める。


「お礼を言いたいのはこっちだわ。あなたがいなきゃ私達、間違いなく死んでたもの」


「ありがとう。助かったよ」


 三つ編みの冒険者に続いて、隣にいたボウガン使いが言った。


「…………だが、確認はさせてもらいてぇな」


 鎧を着込んだ冒険者がそう言って一歩前に踏み出した。

その手は腰の剣に置かれている。


「魔人のお前さんがなんで冒険者を手助けした? お前さんは何の目的で旅をしている」


「答えないと言ったら?」


 ディアスの言葉に鎧の冒険者の眉がぴくりと動いて。


「そんときゃ、危険度の高い魔人のお前さんを野放しにするわけにはいかないよな」


 いで鎧の冒険者は鞘からすらりと剣を抜く。


「実力はさっき見させてもらった。お前さんは強い。だが、さっきの戦いでかなり消耗してる。能力も魔人相手と言うよりはお前さんがいくらか使って見せた『遠隔斬擊ストーム系』の剣技を使う冒険者に近い。ソードアーツの使える魔人てのは厄介だが、それもさっきの戦いで使いきってるはずだ」


「私達はあなたと勝負したいわけじゃないのよ。とっても感謝してるもの。でも、見逃すには最低限度の大義名分が必要なの。あなたは人喰いの魔人で私達は冒険者なんだから」


 三つ編みの冒険者が困ったように言った。


「…………」


 少しの間。

そしてディアスは大きくため息をついて。


「俺は魔人堕まじんおちだ。元々はあなた達と同じ冒険者。魔宮攻略の際に相手の魔人に負けて、こんな身体にされた」


「それを証明できるもんはあるのか」


 鎧の冒険者がたずねた。


 ポケットを探り、小さなバッジを取り出すディアス。

そのバッジを見た3人は目を丸くして。


「うそ、ギルドバッジ。それもこの形状は勇者のものじゃない!?」


「10本の剣と白のバッジ! あんたは7年前の黒骨の魔王討伐で死んだとされていた白の勇者なのか!」


 三つ編みの冒険者に続いてボウガン使いの冒険者が驚嘆の声をあげる。


「声が大きい」


 ディアスは心底うんざりしたような顔で言った。


「黒骨の魔王討伐を俺は諦めてない。こんな身体にされたけじめはつける。そのための力を蓄えるために魔人討伐をしている」


「そのバッジがホントにお前さんのものだと証明できるのか」


 ディアスは鎧の冒険者の問いに首を左右に振った。


「だが俺は人喰いをしていない。その証明はできる」


 ディアスはそう言って服をまくり上げた。

その下の体を見て言葉を失う3人の冒険者。

3人の顔から血の気がみるみる引いていく。


「人喰いをせず、冒険者を手助けして魔人討伐に貢献した。あなたの言う俺を見逃すだけの大義名分にはまだ足りませんか?」


 ディアスがたずねた。


「…………いや、でも待って。仮にあなたが7年間人を喰わないでいたとしたらあなたに残された時間は」


「お前さん、自分の最期がどんなもんかは知ってるんだよな?」


 三つ編みの冒険者と鎧の冒険者の言わんとしてる事をディアスは十二分に理解していた。

ディアスは静かにうなずいてみせる。


 鎧の冒険者はそれを見て、剣を鞘に納めた。


「時間を取らせて悪かったな」


 鎧の冒険者は軽く頭を下げると、エミリアの走っていった方に視線を向けて。


「あの子はどうする? 俺達の方でオーナーとしてあの子を引き取る事もできるが」


「あの子次第ですけど、一緒に来ないか誘ってみるつもりです」


「そうか」


 ディアスが答えると、鎧の冒険者が言った。


「私達はしばらくここにいるから、あの子の保護が必要になったら連れてきてちょうだい。絶対悪いようにはしないから」


 ディアスは三つ編みの冒険者にうなずいたり

次いで3人に軽く会釈えしゃくをするときびすを返して。

エミリアとそれを追っていったアムドゥスのもとへ向けて歩き出した。







 エミリアは草原のただ中でたたずんでいた。

静かに月を見上げている。


「よう、嬢ちゃん」


 アムドゥスはエミリアのそばに降りると声をかけた。

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