第4話 動物達の革命

崖の上で佇み山田達を見下ろす鹿の目は完全に冷めていてた。

まるで人間達を見下すかのように。


鹿?:「ヴォー、ヴォー、ヴォー!」


そうかと思えば鹿は空を仰ぎ見、月に向かって鳴き声を発し森林中にこだました。


落合:「……何だあの鹿」


宮部:「一体、何をしてるんでしょう?」


沢村:「発情期なんじゃない? 近くにメスがいるとか」


山田:「いやそれはないな、鹿の発情期は7月から11月頃までの秋だ。

今は春、ありえない」


沢村:「あんたのそういう知識をひけらかす所、面倒くさくて嫌いだったわ」


宮部:「博識でカッコいいじゃないですか」


ジェシー伍長:「……発情期じゃないとしたら、一体………」


宮部と沢村が面と向かってケンカしようとした瞬間、

伍長が疑問を口にして割って入る。

二人はケンカの興が削がれ睨み合うだけに留まる。


三木大佐:「……まさか、仲間を呼んでいる?」


その言葉を口にした大佐に全員の視線が向けられる。

一瞬の沈黙後誰かがその重い沈黙を、やぶろうと口を開きかけたその時。

周囲の草木から物音がして振り返る。そこには数匹のケルベロスが、

唸りを発しながら森林から現れた。


それだけでなく四方八方からマンティス、マーシャール・ベアー、

ライオンくらいの大きさで太い尻尾のある獣、一つの体に二つの頭が生えた

オオカミ等の怪物達が群れを為して山田達を取り囲んだ。


囲まれた軍キャンプの人達は一カ所に集まり全員で背中合わせになり、武器を持ち

怪物達に狙いを定める。


落合:「ちょっと大佐! あんたが縁起でもないことを言うから

こうなったじゃないですか!? 」


三木大佐:「俺の所為じゃないだろ」


宮部:「で、でもこれってまずいんじゃないんですか?

も、森中の動物達が集まってませんか?」


栗山:「まるで私達を敵と見なして今にも襲いかかりそうな雰囲気です……」


ジェシー伍長:「今まで私達人間が動物達に対して行った事による報い、

なんでしょうか………?」


三木大佐:「……それじゃあ何か? これは人間達への動物の下克上だとでも?」


落合:「それなんて革命?」


沢村:「ねぇたー君!何とかしてよ、私動物が嫌いなの知ってるでしょ」


山田:「武器の無い俺に言われても、ただの無茶ぶりだよ」


沢村に縋るように体を揺さぶられる山田はうんざりした顔で表情が曇る。

一瞬崖の上にいる鹿と目が合った気がして鹿の方に顔を向ける。


この鹿がこの怒り狂う唸りを上げる獣達を、呼び寄せたのは間違いない。

この森のボスに値しているのかもしれない、警戒を解けてはならない。。

しかし何故か獣達は立ち止まったままで動く気配がない。


それを不思議に思った山田が口を開く。


「………いつでも襲える状況なのに、どうして来ないんでしょう?」


三木大佐:「……何かを待っている?」


落合:「だから! 不吉なことを言わないでって……」


その時だった、地面が揺れた。


そんな気がしたと思った次の瞬間、背中合わせをしている群衆のど真ん中から、

地鳴り起こしながら地面の中から巨大な大蛇が現れる。

傍にいた人達は次々となし崩しに倒れていき、その場の体勢が崩れた。


地面から生えた大蛇は胴体から頭に掛けて、5メートルもあろうかという

巨大さだった。まだ残りの埋まっている体を合わせるとどれぐらいになるのか?

その大蛇は混乱する人間達を見下ろし、大きく口を開け牙を晒した。


イーヴィルワーム:「シャシャーーー!!」


鹿?:「ヴォーーー!!」




大蛇の出現が合図かのように崖の上にいる鹿が吼えた。

それは出撃開始を告げる古代のラッパのよう。


その場から一歩も動かなかった怪物達が一斉に動き出し、四方八方から人間達を襲い始める。




女性兵士:「いやーいやー!」



女性兵士2:「嫌だー! まだ死にたくな……」



女性兵士3:「助け、誰か……」




ライオンくらいの大きさで太い尻尾のある獣、オルトロスが次々と近くにいた

標的に狙いを定め、頭を噛み砕いていく。


一つの体に二つの頭が生えたオオカミ、フェンリルは巨大な四肢の鉤爪で、

女性兵達を引き裂く。


イーヴィルワームは近くにいた女性達を次々と丸ごと飲み込み、マンティスは

素早い動きであっという間に10人の首を落とした。




ジェシー伍長:
「た、体勢を整えて! 反撃を、開始……初めて!」




次々と死んで逝く仲間達を見て悲しみを押し殺した様な声で、目に涙を溜め

若干パニックを抑えながら、兵士としての命令を発する。


宮部も悲痛な声を上げながら冷たくなった手から、ショットガンを取り上げ、

向かって来るフェンリルとオルトロス達を撃ち殺していく。



銃声や爆発音が聞こえ始めたが、それよりも女性達の悲鳴や断末魔の方が

遥かに多かった。




沢村:
「たーくん! こっちに来たーー!!」




山田:
「……すいません、借ります!」




血塗れで瀕死の女性に近づき握っていたライフルを取り上げ、女性達を

潰しながら自分達に向かって来たマーシャール・ベアーに銃口を向け、引き金を絞り続けた。
体中に穴が空いたマーシャール・ベアーは体を痙攣させ地面に倒れた。

血反吐を吐いた後息絶える。




沢村:
「たーくんすごい! あんたなら出来るって信じてたわ!」




腰が抜け女の子座りをしていた沢村が、山田の腰にしがみ付いて

喜びの歓喜を上げる。


直後背後から物音がして山田が振り向いた。

フェンリルが瀕死だった女性を貪り食っていた。もう一体の頭と目が合う。


山田:「よせ! やめろーー!!」


フェンリル:「きゃうん!」


ライフルの弾丸を何発もフェンリルに撃ち込む。

子犬の様な泣き声を発したかと思えばフェンリルは、前脚を空に上げた情けない格好で果てる。

山田は無惨な遺体となった女性に視線を戻した。息絶えた女性を数秒沈痛な面持ちで見た後、女性達を襲っている怪物達に向け連射する。


連射出来る様な武器ではないため、一発一発必死に引き金に指を掛け続ける。


山田:「うわぁあああーーー!!!」


次々と怪物達を殺し、ありったけの銃弾を撃った結果ライフルの弾が無くなり、

ライフルが空になる。地面に倒れても尚生きている瀕死のオルトロスを、空になったライフルの銃床で頭を潰す。何度も腕を振りオルトロスの頭を潰し続ける。


その行為を栗山は悲しそうな表情で山田を見つめた。

そのよそ見をした一瞬の隙を付き栗山にケルベロスが伸し掛った。

ケルベロスは栗山に唸り声を聞かせた後、口を大きく開け顔面を噛み砕こうとした。


だが伍長にそれを阻まれた。

サブマシンガンによって蜂の巣にされたケルベロスの亡骸を、押しのけながら栗山がやっとの想いで立ち上がり伍長に感謝を伝える。そんな伍長に大佐が近づく。


三木大佐:「伍長! 俺の手錠を外せ」


ジェシー伍長:「何をこんな時に!」


三木大佐:「こんな時だからだ! このままじゃ皆殺しだぞ!?

俺も戦力になれる、何もせずに大佐になった訳じゃない!」


悩んでいる暇はないとさらに付け足し伍長を煽った。

少し戸惑った伍長だがポケットから手錠の鍵を取り出し、大佐の手錠を外していく。

それを見た落合が二人に近づく。


落合:「僕も! 僕も僕も! 手錠を外して……。ぎゃああ!!」


落合の目の前にマンティスが威嚇しながら降り立った。

大きく鎌を上げ振り下ろした。運良く手錠の繋がれている部分を切った。

両手が自由になった事を喜んだが、マンティスから連撃を受ける。


ジェシー伍長:「ヤマタノオロチさん、今助け……うっ!」


目の前にオルトロスが立ち塞がった。

だが大佐は伍長のサブマシンガを奪い取り、躊躇無くオルトロスに

弾丸をぶち込んだ。


落合:「いーやーだー! こっち来ないでぇええーーー!!」


マンティス:「キシェエエーー!」


両手の鎌を交互左右に振り回しながら逃げる落合の後を追いかける。

足をもたつかせながら落合は泣きそうな顔で近くのテントに、スライディング

しながら入っていった。マンティスもテントに入っていき、瞬時にそのテントは

ボロボロになっていく。その直後マンティスが弧を描きながら吹っ飛んで来た。


ボロボロのテントから、ショットガンを持った落合が出て来る。


落合:「よっしゃオラー!! 落合様の完全復活だ! 昆虫如きが

調子乗んなよ!!」


落合に再び襲いかかろうと体勢を整えようとしたマンティスに、落合はショットガンの弾をありったけ撃ち込んだ。

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