第118話 舞踏会の間に現れた者
お待たせしました。
本章の終わりまでほぼ書きあがったので連投を開始します。
◆
立っていたのは背の高い人間っぽく見えたが……改めて見ると全然違った。
確かに人間のように二本足で立ってはいるが。顔がくすんだ金色のたてがみを持つライオンだ。
背の高い団長よりさらに背が高い。2メートルは軽く超えているだろう。
血のように赤く輝く目がこっちを見下ろしている。
魔法陣のような文様が刻まれた灰色の胸当てをつけた胴体。下半身は青い毛の馬のように見える。
片手には身長の倍近い長さの、蛇のような波打った刃の長槍を持っていた。
そいつを中心に遠巻きになった広間に、静かに団長が進み出てきた。
腰のサーベルを抜く。氷室に放り込まれたように周りの気温が下がった。
「まさか、ここで会えるとはな……この師団にいた甲斐があったというもの」
剣の切っ先を突き付けて団長が言う。
「私のことを覚えているか」
『誰だお前は』
地の底から響くような暗い迫力のある声をそいつが発した。
……言葉を話す魔族だと。
今までの奴は知恵はあったが、意思の疎通が出来る奴は初めて会うぞ。
「……忘れているのか、私のことを」
『人間など塵のようなもの……塵のことなど覚えているはずもない』
「そうか、私は覚えているぞ……貴様はザブノクだったな」
『ああ、そうか、あの冒険者とかいう連中か。名前は忘れたが、あの怯えた顔は見も……」
言い終わるより早く、団長がサーベルを振った。
氷の槍がそいつの額と喉と心臓に当たる部分を刺し貫く。
「我が名はアグアリオ。だが、覚える必要はない……お前はここで殺す」
団長の仲間、S帯パーティを全滅に追い込んだのはこいつか。
氷の槍をそいつが無造作にへし折る。貫かれた部分が見る見るうちに治っていった。
『無駄なことだ。あの時も。今も』
「聞け。こいつの武器の攻撃には気をつけろ。傷が治らん。前衛は無理をするな。一撃離脱を心掛けろ!」
団長が叫ぶ。
フルーレを含む三人の団員がザブノクを取り囲んだ。
「了解です!」
「【ここは幽世8階層、槌を振るうは鎧鍛冶。黒き甲冑身に纏い、武威を示すは
ラファエラの詠唱が終わって前衛に白い防御に光が纏わりついた。
それぞれが剣を構えて間合いを詰める。
ザブノクが巨大な槍を振り回す。
1人がその槍を払いのけた。甲高い金属音がホールに響く。
かなり速いが精鋭の師団員の前衛が捌けないほどじゃない。
その隙をついてフルーレともう一人が切りかかる。足と胸を剣が切り裂いた。
傷口から赤い血煙のようなものが吹き上がったが、すぐに傷がふさがる。
やっぱり物理攻撃は効果が薄いか。
「二の太刀はない。クレイ!テレーザ!最大火力で仕留めろ!」
「分かりました」
「【書架は南・理性の壱列。参拾五頁弐節。私は口述する】」
二人が詠唱を始めた。
ザブノクがテレーザたちの方を赤い瞳で見る。団長が視線に間に立ちふさがるように立った。
こっちもいつでも風で防御を飛ばせるように意識を集中する。
団長の話では魔法使いを真っ先に狙ってきたというが、今は前衛が囲んでいて、さらに中衛で俺と団長がテレーザとローランをガードしている。
そう簡単には抜かせない。
槍を振り回すザブノクをフルーレたちが代わる代わる切りつけている。刃と刃がぶつかりあって鋭い音を立てた。
軽々と槍を振っているが、見た目より恐らくあの攻撃は重いっぽい。
ただ師団の前衛は押される気配はない。さすがだな。
あんな風に単に槍を振り回している分にはさほど脅威じゃないんだが……ただ、これだけとは思えない。
『なるほど、少しはやるようだ。では……სისხლის კლეპსიდრა』
いつものあの聞き取れない、耳障りな魔族の黒魔法の詠唱がして、槍の穂先が黒い炎のようなオーラを纏った。
三人が警戒したように足を止めて様子をうかがう。
ザブノクがさっきと同じように槍を振り回した。
また同じかと思ったが……小さく悲鳴が上がって赤い血がしぶいた。
◆
「なんだ?」
「バカな!」
ラファエラの防御が掛かっていたはずだが、三人の胸や腕、足が切られて血が噴き出している。
それぞれが傷口を押さえながら下がった。ザブノクが大槍を一振りして構えなおす。
「一体何が?」
誰かが言うが……何が起きたか、少し離れてみていたから辛うじて見えた。
今は元に戻っているが、フルーレが剣で槍を防ごうとした瞬間、槍の穂先が蝋細工のように変化した。
曲がった刃がフルーレの剣の防御をすり抜けた。
ザブノクが詠唱中の二人の方を向く。
槍を突くように構えた。
「風よ!」
とっさに刀身に風を纏わせて、刀を振り下ろす。
頭に響く金属音がして刀から手ごたえが伝わってきた。炎を纏った槍の穂先が床にぶち当たって跳ねる。
テレーザたちを狙ってくるのは読めたが、突きと振り下ろしたタイミングとが合ったのは偶然だ。ツキが味方してくれた。
長く伸びた穂先が布のようにうねって、一瞬で蛇のような波打った形に戻る。
「気を付けろ!その槍、穂先の形が変化するぞ!」
『そこの男……なかなかいい目をしているようだ』
ザブノクが俺を見ながら言う。
『では、これはどうだ?ათასი დანის პირას』
またザブノクが詠唱する。
ザブノクの周りの空間が歪んで、何十本ものナイフのような刃物が浮かんだ。
ナイフの切っ先がこっちを向く。やばい。
「風よ!」
「凍れ!」
氷の壁が床から次々とせり出す。風の壁が立った。
一瞬遅れてナイフが飛んでくる。
ナイフの一部が風に弾かれ、氷の壁に突き刺さったが。
まるで鳥のようにナイフが氷の壁と風をすり抜けてきた。
……全部は止めきれない。
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