第64話 その後の彼ら・4(旧パーティ視点)
「ロイド・ヴェリントン。アルフェリズのギルドマスターの名においてB3への昇格を認める」
アルフェリズの冒険者ギルドのメインホール。
ギルドマスターのエンリケが言って、周りの冒険者たちから拍手が沸いた。
「おめでとう、ロイド」
「やるな。まだ1年ほどだろ」
「大したもんだぜ」
冒険者のランクはBに上がれば十分な実力者とみなされる。
パーティのリーダーになるのもB帯になるのが必須だ。だからこそB帯への昇格にはギルドも慎重に吟味する。
ランクの壁を超えるのは特別だが、C1とB3の間にはほかの昇格とは違う。特別な意味があるのだ。
「ありがとうございます」
この俺なら当然だ、とか言いそうだったが。普段は強気なロイドだが今日は神妙だ。
冒険者にとって格別な瞬間であることが分かっているんだろう。
優秀な成績で冒険者の養成施設を出たとはいえど、1年足らずのB帯昇格はかなりの速さだ。
素質はあるが精神的に不安定で自分の力を過信しがちだった姿はもうない。
いまやアルフェリズの冒険者ギルドでも一流の前衛として成長した。
「ギルドへのさらなる貢献を期待するよ。ロイド」
エンリケがにこやかに笑いながら言った。
◆
「改めて、おめでとう」
「やるわね、ロイド」
「ありがとよ、ヴァレンの旦那にイブ姐さん、それにエレミア姐さん」
乾杯のグラスがまたぶつかり合った。
テーブルの上には祝いの御馳走が並べられているが、祝宴も半ばを過ぎて、皿の大半は空いてる。
乾杯は今日は何度目やったのか忘れたが。
「ついにB帯だぜ。何度やってもいいよな、いい気分だ」
ロイドが嬉しそうに笑う。
いつも強気で、自分がB帯へ昇格するのは当然とか思っていただろうが。
それでも実際上がってみると感慨深いんだろうな。俺にも経験はある。
「なあ、ヴァレンの旦那。一つお願いがあるんだが」
グラスの残っていたワインを一口で煽ったロイドが、普段とは違う感じの真剣な口調で口を開いた。
「なんだ?」
嫌な予感がした
……B帯に入れば自分のパーティを編成できる。
訓練施設を出たばかりのロイドをスカウトしたのは、俺のパーティのエースとして長く戦ってもらうためだが。
……自分のパーティを持ってリーダーになりたい、といわれれば止めることはできない。
「なんだ?」
なるべく動揺しないように問い返す。
「実はよ……俺はB帯になったら」
そう言って真剣な顔でロイドが俺を見た。
「王都に行ってみたかったんだ」
◆
予想外の話だったが……パーティを出ていくという話じゃなかったのは一安心だった。
心の中で胸をなでおろす。
「なるほど。ライエルがいるからね」
茶化すようにイブが言う。
なんでもあの魔族を共に討伐した女魔法使いに誘われて王都のギルドに移籍するらしい。
「違うぜイブ姐さん……俺はだな、ただステップアップしたいんだ。俺の器はアルフェリズでは収まらない。そういうことよ」
王都ヴァルメーロでの依頼は近隣のみならず国全体から集まってくるからアルフェリズより幅が広い。
難易度が高い依頼も多い。稼ぎも其の分大きいが。
「移籍したいってことか?」
王都ヴァルメーロに限らないが、基本的に冒険者として戦うためにはギルドに登録しなければいけない。
王都のギルドへ正式に移籍するには審査が必要だったはずだ。
「本格的な移籍ってわけじゃないんだがよ……見てみたいんだよな。俺の力が通じるかが見たい。俺はもっと上に行きたいんだよ」
ロイドが真剣な口調で言って、イブとエレミアを見た
「正式な移籍ってわけじゃないんでしょ、ならアタシは構わないわ」
「どこにいたって戦うのは変わらないんだし、別にいいと思う」
イブとエレミアが言う。ロイドが俺を見た。
「まあいいだろう……行ってみるか」
馬車で言ってもいいが時間がかかりすぎる。
街道汽車の切符を手配しなくてはいけないな。
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