第43話 決断の時

 ローランが砂浜に転がったライフコアに目をやった。

 何かを探る様に目を凝らして、こっちを向く。


「主席殿、この討伐は私に譲り……」

「断る!絶対に!」


 ローランが言い終わるより早く、テレーザが拒否した。

 ローランがやれやれって感じで首を振る。


「そんなこと……認められない」

「ではライエルさん、貴方にお聞きしましょう。

この討伐は私の物にしませんか?対価はお支払いしましょう。30000クラウンです」


 ローランがにこやかな笑みを浮かべつつ言った。


「どういうことだ?」

「魔族と対峙した我々は死闘の末、敵を打ち倒す。

しかし一人は魔族の魔法の前に倒れる。尊い犠牲を払いつつ我々は勝利を収めた」


 何が言いたいのかは理解できた。


「断ると言ったら?」

「尊い犠牲がもう一人増えます。アルフェリズで活躍した錬成術師と魔法学園主席は魔族と命をかけて戦い、アルフェリズを守った。

皆が君たちの名を讃えるでしょう。私が確かに伝えます」


 俺からするととんでもないことを言っているようにしか思えないが。

 ローランが顔色一つ変えずに言う。


「あなたは優れた錬成術師だ。ライエルさん。しかしベテランである貴方なら分かるでしょう。3対1で我々を倒すのは無理です。

二人とも死ぬか、1人だけ死ぬかのどっちかです。金を受け取りなさい。それが賢明ですよ」


「冒険者同志の交戦はご法度だし、手柄の横取りは規約違反だぞ」

「それを言うものがいればね」


 ローランが手を広げて周りを見回した。

 濃い靄はまだ薄れる様子はなく、靄に覆われた周りには人の気配はない。

 ローランの左右についていた二人の剣士がそれぞれ武器を構えて圧力をかけるように間合いを詰めてきた。


「なぜ……ここまでする?」

「なぜ、とは?」


「お前には金も地位も名誉も素晴らしい魔法の素養もある。なぜここまでする必要がある?」


 テレーザの言葉を借りるなら、当世のスタイルの高レベルな魔法使いなのは間違いない。

 そもそもアレクトール学園の次席ってだけでその強さは想像がつくが。


 仮にテレーザが首席、こいつが次席でも客観的に見ればその後に重宝されるのはこいつの方だと思う。

 テレーザの強さは特殊だ。限定条件が付く。


「なるほど……アレクトール魔法学園のものではない貴方には分かりにくいかもしれませんが」


 ローランが少し考えて言う。


「……この学園の首席とは特別なものです。いいですか?そこらの闘技場の賭け試合とはなどとは格が違うのです。そこで何が大事か分かりますか?」

「さあな、分からん」


「それは、正しいものが勝利を得なくてはならない、ということです。

正しくないものが勝利を得れば、正しくないことを民に伝えてしまうことになる」


 そう言ってローランが言葉を切って、理解したか、と言わんばかりに俺を見る。


「さっきも言った通り、アレクト―ル魔法学園の主席は特別なものです。我が国でその年に最も優れた魔法使いがそれを得るのが正しい。資格のない者がそれを得るのは正しくない」


 そう言ってローランがテレーザを見下ろした。


「誰に聞いても、今期の最高の魔法使いは私だと答えるでしょう。それならば私が主席となるのが正しいというものです」


 一片の疑いもないって顔でローランが言った。

 ……冒険者の訓練施設でもギルドでのランク上げでも、幸運が味方した意外な勝ちもあったが理不尽な負けもあった。


 でも、それでもすべては実力勝負だった。

 だからこそ理不尽も苦労も受け入れて前に進めた。だが、これはそう言うのとは違う。


「……お前が今ここでやろうとしていることは、正しいのか?」

「正しい世界のためです。小事ですよ」


「ああ、そうかい。俺みたいな一般人には理解できないね。正々堂々と勝ち取らない主席に何の意味がある?」

「これがただの魔法比べや討伐任務の競争ならそれもいいでしょうね。だが格が違う話です」


 ローランがそう言って俺の方に手を差し伸べた。

 

「さあライエルさん、正しい側に立ちなさい。金を得て正しい行いが出来るのですから、何の不満があるのです?」

「ライエル……」


 テレーザがかろうじてって感じで顔をあげて俺を見た。


「……して」

「なんだって?」


 何かをテレーザが呟く。


「証明して……」


 そう言ってテレーザが俺を見つめた。


「……名匠マエストロだって」



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