第12話 初陣の終わり

  さっきの魔法で本当に全部倒せてしまったらしい。動く敵はいなくなっていた。

 暫く周りの音や気配に集中するが、もう敵の居る感じはしない。

 剣を下ろして息を吐いた。


 一発目の余波はまだくすぶっていた。空気が熱い。

 焼け爛れた木の肌と焼き尽くされた灌木の焦げたにおいが漂っている。


 そして二発目、周りを取り囲んでいたブラッドハウンドのすべてを一瞬で倒した。しかも逃げているやつを追いかけるように飛ぶとは。

 こんな強力な攻撃系魔法見たことがない。


 ただ詠唱は恐ろしく長い。普通の魔法使いの3倍か4倍近いだろう。


魔術師メイジか」


 今や魔法使いは支援魔法使いソーサラーばかりになってしまったが、昔はいろんな種類の魔法使いがいた。 

 攻撃魔法に長けた魔術師メイジ魔法理論ロゴスに長けた魔法学士セージ、それを併せ持つ魔導士ウィザード

 しかし、すっかり魔術師メイジは見なくなってしまった。


魔術導師ウォーロックだ。間違えるな」


 念を押すようにテレーザが言う。

 魔術導師ウォーロック魔導士ウィザードよりさらに優れた魔法使いにのみ送られる称号だ。

 といっても、近年は魔法使いの地位が相対的に下がっているからそんな称号は物語か歌劇の中だけにものだになっているが。


「まあ呼び名はさておき……」

「さておくな。重要なことだぞ。私の力がわかっただろうが」


「それは確かにな」

「分かったら私のことは魔術導師ウォーロックと呼びように」


 デカいことを言うだけあって予想よりはるかに強力な魔法だった。


「ところで、詠唱の長さはあんなもんなのか?」


 そういうと、煩わしそうにテレーザが目を背けた。


「不満か?」

「そうじゃない、単なる確認だ。だいたいあの位の詠唱になるってことか?」


「ああ……そうだ」

「そうか、分かった」


 というか、なぜ守る必要があるのかわかった。

 瞬間火力はおそらく前衛の10人分に匹敵する。火力は自分が出すという言葉は偽りはなかった。

 あの威力なら、お前は守備に徹しろというのも納得がいく。 


 ただ詠唱の長さも威力相応に長い。

 威力は控えめでも早く的確に詠唱を済ませるのが当世流だから、なかなかお目に掛かれない。

 

「……それだけか?」


 テレーザが不審げな口調で聞いてくる。


「他に何かあるのか?」

「……詠唱が長いのは……不満ではないのか?」


 わずかに不安げな感じがにじんでいた。

 まあ確かに長いと言えば長い。確かにあれだけ詠唱が長いと近年では使いにくいと評されるだろうな。

 それに前衛がいれば彼らが殴り倒してしまえばいいから、こんな火力は必要ないともいえる。


「長いが、それが分かっていればどうとでもなる。問題ないさ」

「ああ……そうなのか?」


 長く色んな奴と組んでこれば其れなりに経験も増える。さすがにこのほど極端な魔法使いと組んだことはないが。

 かつて、前衛の火力がそこまで高くなかった時代は、前衛が壁となり魔法使いの詠唱の時間を稼いだらしいが、今や絶滅した古い世代の魔法使いだな。


「それに、大した威力だ。長い詠唱もこれだけの火力と引換なら納得だ」


 これだけの火力が出るなら俺は防御に専念して詠唱時間を確保するのに徹すればいい。

 テレーザの表情に嬉しそうな誇らしそうな笑みが浮かんですぐ消えた。


「本当に……そう思うか?」

「ああ」

 

「私の力を……認めるか?」

「認めるよ」


「偽りはないな?」

「パーティの仲間の戦力評価については嘘は言わない」


「そうか……」


 テレーザが一つため息をつく。少し間を置いていつも通りの冷静な目が俺を見上げた。


「お前も見事だった。予想通りだった」

「ああ、そりゃどうも」


「聞くが、もっと大きな魔獣に対してはどうする?」

「言葉にはしにくいんだが、よりせまい範囲に密度を増した風を叩きつけて下がらせる」

 

 今回はブラッドハウンドがそこまでデカくなかったから広く薄い壁を作ったが、大きな相手にはそれなりの対処法がある。


「なるほど、分かった」


 彼女が頷いて手を差し出してきた。


「完璧な防御だった。安心して魔法を使えた。これからもよろしく頼むぞ」


 差し出された手を握る。テレーザが握り返してきた。


 まあこれはいい組み合わせなのかもしれない。

 時代にはじき出された錬成術師と、過去の遺物のような魔術師か。


「ああ、こちらこそ」


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