第13話 討伐一回目の結末
さすがにその日はもう乗合馬車は出ていなかったから、翌日にアルフェリズに帰ることになった。
前と同じく、昼下がりのガランとしたギルドで報酬の手続きを受ける。
「どうでした……主席は」
エレナが声を殺して聞いてきた。
テレーザは掲示板で依頼の紙を物色している。
「大したもんだったよ」
「そんなにですか?」
「火力だけなら前衛10人分だな」
前衛は不要、自分を守れば火力を出す、というのは確かにハッタリじゃなかった。
詠唱の長さがあるから、その間の手数を考えると圧倒的に優位ってわけじゃないが。
それでも瞬間的にあれだけの威力を出せるなら十分に強いと言って良いだろう。主席の座もおかしくない。
こっちとしても、成り行きとは言え、あいつの魔法を二つ見れたのはよかった
あれだけの威力、そして詠唱の長さ。そういうものだとわかればこっちも役割も明確だ。それに守り甲斐もある。
「そうですか……正直言って心配していたので良かったです」
エレナが安心したように言った。
まあ魔法使いと防御よりの錬成術師のパーティで前衛無しなんて普通じゃない。
二人そろってブラッドハウンドに食われることを心配されても無理からぬことだな。
「では、報酬はこちらです。ご確認を」
「少し待ってほしい」
不意に後ろからテレーザの声が掛かった。
★
「なんでしょう?」
「少しいいか」
「なんだ」
「私の報酬の取り分は減らして構わない。代わりにその分の討伐評価を私につけてくれ、出来るか?」
エレナが俺を見てちょっと困った顔をした。
「可能ですが……どうしますかライエルさん」
「まあ俺は構わないが」
報酬そして討伐評価は依頼単位で決定され、これは頭割りが原則だ。
これは取り分をめぐって仲間割れをしたりさせないための処置だ。
より少人数で戦えば報酬も討伐評価点も一人当たりの取り分は大きくなるが、もちろん危険も大きくなる。
逆に多人数で戦えば取り分は減るが危険も減る。
これのおかげでパーティからは余剰の、つまり俺のような守備的な中衛ははじき出されるわけだが。
ただ、ギルドでの双方の同意があれば頭割り以外でも問題は無い。
「報酬はすべてお前が取れ。代わりに私が討伐評価をすべて貰う」
「それはだめです」
エレナが口を挟んできた。
「なぜだ?」
「一人の取り分は上限7割と決まっています」
「そうなのか?」
「そうらしい」
頭割り以外はやったことがなかったからそんな規定があることも知らなかった。
「なら、それでいい」
テレーザが答えて、エレナが書類を書き始めた。
★
討伐評価にこだわる理由はなにか。あくまで討伐任務に拘ったことにも当然関係あるんだろう。
こっちとしては討伐評価より金が手に入るのはありがたい。今更A2を目指そうとも思わないしな。
しかし、こいつは上位ランクでも狙っているんだろうか。よくわからんな。
「で、どうする?流石にこの後すぐに討伐は無いぞ」
「ああ、分かっている」
こいつのことだから、すぐに次の依頼をとか言いだすのかと思った。
「それより、行きたいところがある」
「どこへ?」
「装備を変える」
「どういうことだ?」
「確かにお前の言う通りだった。これでは思ったより戦いの邪魔になる」
森の中を走り回ったおかげで白いマントはあちこちシミができていて解れもある。
不利に気づいたらすぐに対応する辺り意外に素直というか、柔軟なんだな。
そこそこ経験を積んだ奴でも自分を曲げない困ったタイプは居るんだが。
「今からか」
「当然だ。次の討伐に早く出たいからな」
真顔で彼女が答える。
帰ったばかりだというのに……報酬も貰えたし、俺としては風の行方亭で一杯やりたい。
俺の言いたいことを無視するように彼女が歩き出した。
「最高の装備が欲しい。最高の工房に案内しろ」
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