第11話 彼女の実力

 「どうだ?私の力は」


 炎で丸くえぐられた様な空間をみつつ、自慢げな顔でテレーザが俺を見る。

 言うだけのことはある、といいたいところだが。


「まだ終わってない。こっちに寄れ」

「何のことだ?」


 テレーザが苛立たしげに言う。

 まるく抉り取られたような空間にはライフコアが10個ほど転がっているが、さっき見た感じではあれで全部じゃない。

 周りから草を踏む音がする。恐らく囲まれている。


「もう一度来るぞ」


 状況がわからないという顔で彼女がこっちを見ていた。

 一歩下がって彼女を抱き寄せる。


「何をする?」

「風司の41番【見よ、彼の岬の灯台を。其の炎が燃るはかもめの翼より高き処】


 剣を振ると同時に竜巻のように風が吹きあがった。塔の様に風が吹き荒れる。

 同時に四方からブラッドハウンドが飛び掛かってきた。


 風の壁に巻かれてブラッドハウンドが吹き飛ぶ。地面に叩きつけられてそいつが動かなくなった。

 テレーザが初めて小さく悲鳴を上げる。


「まだ終わってない!次はいけるか!」


 あの火球を躱した奴らは周辺に散開している。俺達を中心に、囲むように走っているのがわかった。

 倒せるか?さっきの魔法じゃとらえきれない。


「囲まれているのか?」

「ああ、そうだ」


 わずかにおびえた表情があったがそれはすぐに消えた。

 彼女が周りを見回して頷く。 


「……問題ない【書架は南・想像の九列。参拾参頁二節……私は口述する】」

  

 こともなげに言ってテレーザが詠唱に移った

 面倒なことに、囲まれたこの状況で防御は解けない。

 全方位から襲われても俺一人なら切り抜けられるが。こいつをかばって無傷で、というのは少し面倒だ。


 断続的にブラッドハウンドが飛びかかってきて、その都度風に弾かれる。

 この風の壁を超えることはできないだろう。

 どんな魔法を使うか分からないが、数を減らしてくれれば。

 全方位を囲まれてさえいなければあとは俺が片付けてもいい。


「【汝を捉える死神の視線を見よ。既に宣告はなされた。覆ることはない。慈悲を持って最期に時を与えよう。ただ祈り望め、安らかなる終焉を】術式解放!」


 詠唱が終わると同時に、今度は彼女の周りに黒い鎌のようなものが浮かぶ。

 音もなく回転した鎌がブラッドハウンドに向けて飛んで、次々と首を切り落とした。


 何体かが鳴き声を上げて茂みに逃げようとするが、鷹が獲物を追うかの如く鎌が追いかけてブラッドハウンドをとらえていく。

 血に飛び散る音と悲鳴、重い物が倒れる音がして周りが静かになった。

 


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