聖也side

61

 ―共通試験・一日目―


 今朝は都内でもチラチラと小雪が舞っている。俺は廊下で窓の外を見ながら呟く。


「和は大丈夫かな」


「聖也、林なら心配無用だろ。鉄の心臓を持つ女だ。共通試験なんて屁の河童だ」


「そうだけどさ。『彼氏』としては心配なんだよ。あいつ、ああ見えて繊細なところがあるから」


「繊細な乙女が、お前にビンタするか?」


「あのビンタは、俺が悪かったんだからしょうがないんだよ」


「はいはい。もしも林が国立大学に合格したら、落花生大学のお前に見向きもしなくなるかもよ」


「和は進学先の大学で人を見下すようなやつじゃない」


 でも……。

 和の家族はどうだ?


 俺と和は同じ塾に通っていると思ったから、クリスマスイブに訪問しても拒絶されなかった。


 もしも俺が定員割れするような大学に入学すると知ったら、門前払いされるかも。


 しかも、北条と手を繋いだところを不幸にも目撃されてしまったのだから。


 和と本気で交際したいなら、両親にちゃんと挨拶した方がよさそうだ。北条のことも誤解を解かないと、きっと難しいだろう。


 うちの家族と違って、和の家族はハードル高いんだよな。会話も堅苦しくて、息が詰まりそうになる。


「光月君、お久しぶり」


「き、北条……」


「窓の外を見て、林さんのこと考えてたの?」


「そうじゃないけど……」


 和のことしか、考えてないよ。

 受験が終わるまで、メールも電話もしないって自分で決めたけど、本当はメールしたくてウズウズしてるんだから。


「……光月君、実はね、お願いがあるの」


「どうした?」


「……ちょっといいかな?」


 正和や恭介と離れて、俺は廊下の隅に行く。


「明日、時間ある?」


「明日?」


「この間の話しなんだけど。父が『お付き合いしている人がいるなら逢わせなさい』って、煩くて」


 あの話か……。

 それはちゃんと断ったはず。


「ごめん……それは」


「一度だけでいいの。光月君の時間を二時間私に下さい。付き合っている振りでいいから。お願いします」


 北条は俺に深々と頭を下げた。


「き、北条。やめてくれよ。そんなに困っているなら、他の男子に頼めばいいだろう。北条のファンなら、この学校にいくらでもいる。みんな付き合ってくれるさ」


「それはダメよ。本気になられたら困るから。その点、光月君なら本気にはならないでしょう。林さんがいるし、林さんの大学受験が終わるまでフリーだし。人助けだと思ってお願い」


 北条は両手を合わせて、ニコッと笑った。

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